155 / 256
冒険者編①
11 お誘いの手紙
しおりを挟む□
「まさかサラがもうお父さんと同じランクになるだなんてなぁ」
今日も充実した一日を終え帰宅した私は、お父さんとお母さんと三人で食卓を囲み、お母さんが作ってくれた料理を口に運んでいると、お父さんが感慨深く言葉を告げた。
今こうして食卓に座っていると、本当に帰ってきたんだなと、卒業したばかりのころはよく思っていたことを思い出す。
私の前にお父さんがいて、お父さんの隣にはお母さんが座っていて。
私の位置から見える綺麗に整えられているキッチンも。
横を向けば寛げるスペースがあり、逆を向くと両親の寝室と私の部屋に繋がる階段がある。
全く変わっていない実家の光景に、私はとても安心できた。
そして今、お父さんは嬉しそうに微笑んでいたが、それでも寂しそうな表情を浮かべている。
私のランクが上がると嬉しいけど寂しいとお父さんの顔には書いている。
でもなぜ寂しいと思っているのかわからなくて、私はどういう意味でそういっているのか、私が尋ねる前にお父さんが再び口を開く。
「……サラは冒険者になったが、旅に出ようとは思ってないのか?」
その言葉にお父さんが寂しそうな表情を浮かべている意味が分かった。
ギルドが冒険者の身分を保証する条件はCランクになってからと決まっている。
私がCランクになったことで、私が家を出て旅に出てしまうのではないかと、お父さんは考えているのだ。
だから嬉しいけど、寂しそうにしているのかと納得した。
「思ってるよ」
私が肯定するとお父さんの眉に皺が寄る。
実の父親ながら、とてもわかりやすいと私は苦笑した。
ふとお父さんの隣に座っているお母さんに視線を向けると、ニコリと微笑まれ頷かれた。
お母さんがどんな気持ちでいるのかはわからないけど、反対しようと思っていないことは伝わってくる。
「…けど、旅にでるなら亜空間鞄を買ってからにしようと思っているの」
亜空間鞄とは、空間系の魔法の鞄だ。
学園に入った当初レルリラ達が使っていた鞄がそう。
小さな見た目の鞄の筈なのに、倍以上の物が入れれるほか、保有している重量にも影響しない優れものだ。
だけどお値段もびっくり。
私がほぼポーションで稼いできた半年間の収入でも足りないくらいに高額な商品だ。
まぁでもこれからはCランクになったんだから、前よりもお金をためやすくなっただろうと考えると、あとひと踏ん張りともいえる。
そう、あと、ひと踏ん、張り……。
消沈するお父さんは付け加えるように話した私の言葉を聞いて顔を上げた。
「そうか」と花が咲いた様に喜ぶお父さんに、お母さんは苦笑する。
でも私も実家に戻り、そして冒険者になって半年は経ったけど、まだ半年なのだ。
元々すぐ旅に出るつもりはない。
「そうだ、サラ。あなた宛てに手紙が届いてたのよ」
お母さんは席から立ち上がり、纏めていた手紙から一通の手紙を取ると私へと渡した。
茶色でシンプルな封筒にはドライフラワーが添えられていて、シンプルながらも可愛い印象を受ける。
私は裏返し名前を確認した。
「レロサーナだ!」
多くて月に一度、レロサーナとエステルと手紙のやり取りをしている私はレロサーナからの手紙に喜んだ。
御飯中ではあったが「読んでもいいわよ」といってくれたお母さんの言葉に甘えて、その場で手紙を開ける。
便せんは花柄でお洒落なものが選ばれていて、そんな便せんに歯綺麗で丁寧なレロサーナの文字が並ばれていた。
私はレロサーナの文字を目で追っていると、「なんて書かれているんだ?」とお父さんに尋ねられる。
「んっとね、卒業してから一度も会っていないから、たまには会いましょうだって」
もっというと他にもいろいろ書かれていたが、それはレロサーナの事情でもあるのでお父さんには言わない。
あと手紙にはもうすでにエステルにも日程の確認は済んでいて、この日はどう?と書かれていた。
私は冒険者なので先々の予定はないに等しいけど、出来るならもっとクエストを受けてランクを上げたいんだよね。
そんなことを考えていると、目標に突っ走る私の性格を熟知したお母さんが口を開く。
「いいじゃない。サラってばこの半年間ずっと働きづめだったし、たまの息抜きで遊んできなさい」
「そうだな。場所が遠いならお父さんが連れてってやるぞ」
お父さんとお母さんにもそう言われ、私はレロサーナの手紙をじっと眺めた後に頷いた。
学生の頃も勉強やトレーニングばっかりだって言われたことを思い出したのだ。
「うん。久しぶりに二人に会いたいしね」
「場所はどこなんだ?」
「王都だから一人で行ってくるよ。フロンとも契約したし、移動も問題ないから安心して」
そう言って私はさりげなくお父さんの申し出を断った。
学園からマーオ町に帰る時はゆっくり移動してきたが、マーオ町から学園に試験を受けに行った時のお父さんの屍姿を私は今でも思い出せる。
あんな状態になってまで送ってもらうというのはなんともいえない罪悪感でいっぱいな気持ちになるというものだ。
(しかも私の方が魔力量多いだろうし)
私に断られたお父さんは落ち込んでいたが、お母さんに慰められて息を吹き返す。
私はそんな父に笑って、少し冷めてしまったお母さんの料理を食べ終えたのだった。
□
12
あなたにおすすめの小説
報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?
小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。
しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。
突然の失恋に、落ち込むペルラ。
そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。
「俺は、放っておけないから来たのです」
初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて――
ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する
五色ひわ
恋愛
エミリーが多勢の男子生徒を従えて歩いている。王子であるディランは、この異様な光景について兄のチャーリーと話し合っていた。それなのに……
数日後、チャーリーがエミリーの取り巻きに加わってしまう。何が起こっているのだろう?
ディランは訳も分からず戸惑ったまま、騒動の中心へと引きづりこまれていくのだった。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる