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冒険者編①
26 瘴気の魔物との対面②
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「<マー・ディー・グラセー_氷壁>!」
私は咄嗟にアレグレンさんの背後に向けて魔法を発動させる。
すると先程まで一匹の瘴気の魔物だけだったのに対し、今では複数体のヴァルチャーが私達に向かって襲い掛かろうとしていたところだったのだ。
一体どこからと考えたが、そもそも瘴気を纏っていないヴァルチャーを追って私達はここまでやってきた。
目の前の瘴気の魔物に気を取られ過ぎてしまったのだ。
「最初からおびき出そうとしていたということか!?」
「魔物だぞ!?そんなことがあるわけないだろ!?」
ルファーさんの疑問にアレグレンさんが否定する。
だけど完全に否定するにはヴァルチャーの行動は最初から怪しかったように思う。
空から森の様子を確認する私達に見せつけるようにして、集まっていた行動。
これだけならまだ魔物とはいえ、鳥の習慣なのだろうと思うかもしれないが、途中一体だけが私達の前に現れ森の奥に誘い込み、そして瘴気の魔物が姿を見せた。
思い返せばまるで企みがあるかのような一連の行動に、アレグレンさんも自信が持てなくなったのだろう。
だけど今はそんなことどうだっていい。
瘴気の魔物がいる時点で聖水もなにも持っていない私達が勝てる見込みはないのだから。
「ルファーさん!アレグレンさん!いいから早く魔法陣の上に乗ってください!発動します!」
私は氷壁が壊されないうちに二人に対して声を荒げる。
ルファーさんは動揺し、アレグレンさんは剣を抜いてルファーさんの体を魔法陣の上に突き出すように押した。
「え…」
「お前ッ!」
いつでも転移できるように準備していたから、魔法陣にルファーさんが乗った時点で魔法陣が発動する。
私の魔力で青く光り出した魔法陣がルファーさんを包み込んだ。
アレグレンさんに向かって手を伸ばすルファーさんに、アレグレンさんは振り返らずに張り上げるようにして声を出す。
「敵に囲まれるってわかってんのに女の子一人残していけるわけないでしょ!でも救援要請に一人は必ず伝えに行かなくちゃいけない!物理攻撃しかないお前よりも、魔法で攻撃防御できるサラちゃんを残した方がいい!女の子に頼るようで嫌だけどな!」
ちゃんと助けに来いよ、とボソリと呟かれた言葉はルファーさんに届いたのだろうか。
「ごめんね、サラちゃん。勝手に判断して」
アレグレンさんは私に背を向けたまま謝罪した。
二人が移動できるようにその分の魔力を込めていたから一人分の魔力が無駄になってしまったけど、元々一人で残ることを考えていたのは瘴気の魔物に気付かれず、魔力の回復をしたのちに自分も転移魔法で戻るつもりだったから、気付かれてしまった状況の中では戦力が増えることは私にとっても助かることだ。
私は立ち上がってアレグレンさんの隣に並ぶ。
「大丈夫です!戦力があった方が心強いんで!」
そう答えた私にアレグレンさんはありがとうと呟いた。
そして私の魔法、氷壁の脇を通る形でヴァルチャーに向かって駆けていく。
キラービーを相手にしていた時のように、剣を軽やかに動かしながら、そして氷壁を背にして後ろからの攻撃を受けないように戦うアレグレンさんに、私は私でヴァルチャーの数を減らすために魔法を使う。
<ラーメー・デオー_水刃>
キラービーの時のように水刃を複数生み出し、一部はヴァルチャーたちを追跡するような形で操作する。
アレグレンさんを攻撃しようとするヴァルチャーには攻撃をしつつ妨害し、なるべくアレグレンさんが複数のヴァルチャーを相手にしなくてもいいように私はサポートを続けた。
だけど
(鳥系の魔物って知能レベルこんなに高かったっけ?)
まるで戦いを長引かせようとしているのか、引く時は引き、こちらが攻撃を緩めようとすれば突進してくるヴァルチャー達に私は疑問を抱く。
(………なにか、本当に企んでいるというの?)
そんなことを考えたその時、ゾクリと悪寒が走った。
この短い間とはいえ、戦いの中一度も動かなかった瘴気の魔物。
目線だけを移すと、瘴気の魔物は私をまっすぐに見ていたのだ。
その瞬間、私の攻撃は完全に止まる。
ドクドクと鼓動する心臓の音が、大きく響くように聞こえた。
そしてそれ以外の音がかき消されたのか、耳に入ってこず、私はまるで時間が止まったような感覚を味わった。
その時、悲痛な叫び声をあげるアレグレンさんの声を聞きながら、私を押し倒す様に身を乗り出すフロンのお腹が視界に入る。
私は背中から転びながらもすぐに起き上がった。
『うぅ…』と痛みを訴えるフロンの背中は真っ赤に染まり、私を庇って傷を負ったことがすぐにわかる。
そして前を向けば片膝をつき、それでも剣をヴァルチャーに向けているアレグレンさんがいた。
「っ!…フロン!すぐに治すから!」
私はフロンの背中に手を当て、治癒を施す。
自分の手が血で染まろうが、気にならなかった。
そんなことよりもフロンを助けなければという気持ちでいっぱいだった。
「治って、治って、お願い!」
ぐっと魔力が失われる感覚がしたが、それでも早くフロンが治ることを祈って魔力を送り続ける。
重症なフロン、そして怪我を負っているアレグレンさんのこと、焦りが魔法を妨げているのか、送り込む魔力に反して治りが遅かった。
「どうして早く治らないのよ!!」
レルリラなら…、こんな時レルリラがいてくれたら…!
思い起こすのはレルリラのことだった。
ついこの前辱めを受けた(見せた)ばかりだというのに、頼りたい。
尋ねたい。
助けを求めてしまいたい。
そんな気持ちが浮かび上がる。
だから本当に情けない。
こんなんじゃSランクなんてまだまだ先だ。
ランクを上げたら、レルリラに伝えて、私がレルリラを助ける番だって笑って、そしたらきっと一緒に喜んでくれるだろうって。
ああ、だめだ。
なにを考えているんだ。今はそんな状況じゃない。
私を庇って怪我を負ったフロンを治さないと。
じわりと浮かぶ涙を拭う私にフロンはゆっくりと起き上がると私に笑った。
『……サラ、大丈夫だよ、もう治った』
私は咄嗟にアレグレンさんの背後に向けて魔法を発動させる。
すると先程まで一匹の瘴気の魔物だけだったのに対し、今では複数体のヴァルチャーが私達に向かって襲い掛かろうとしていたところだったのだ。
一体どこからと考えたが、そもそも瘴気を纏っていないヴァルチャーを追って私達はここまでやってきた。
目の前の瘴気の魔物に気を取られ過ぎてしまったのだ。
「最初からおびき出そうとしていたということか!?」
「魔物だぞ!?そんなことがあるわけないだろ!?」
ルファーさんの疑問にアレグレンさんが否定する。
だけど完全に否定するにはヴァルチャーの行動は最初から怪しかったように思う。
空から森の様子を確認する私達に見せつけるようにして、集まっていた行動。
これだけならまだ魔物とはいえ、鳥の習慣なのだろうと思うかもしれないが、途中一体だけが私達の前に現れ森の奥に誘い込み、そして瘴気の魔物が姿を見せた。
思い返せばまるで企みがあるかのような一連の行動に、アレグレンさんも自信が持てなくなったのだろう。
だけど今はそんなことどうだっていい。
瘴気の魔物がいる時点で聖水もなにも持っていない私達が勝てる見込みはないのだから。
「ルファーさん!アレグレンさん!いいから早く魔法陣の上に乗ってください!発動します!」
私は氷壁が壊されないうちに二人に対して声を荒げる。
ルファーさんは動揺し、アレグレンさんは剣を抜いてルファーさんの体を魔法陣の上に突き出すように押した。
「え…」
「お前ッ!」
いつでも転移できるように準備していたから、魔法陣にルファーさんが乗った時点で魔法陣が発動する。
私の魔力で青く光り出した魔法陣がルファーさんを包み込んだ。
アレグレンさんに向かって手を伸ばすルファーさんに、アレグレンさんは振り返らずに張り上げるようにして声を出す。
「敵に囲まれるってわかってんのに女の子一人残していけるわけないでしょ!でも救援要請に一人は必ず伝えに行かなくちゃいけない!物理攻撃しかないお前よりも、魔法で攻撃防御できるサラちゃんを残した方がいい!女の子に頼るようで嫌だけどな!」
ちゃんと助けに来いよ、とボソリと呟かれた言葉はルファーさんに届いたのだろうか。
「ごめんね、サラちゃん。勝手に判断して」
アレグレンさんは私に背を向けたまま謝罪した。
二人が移動できるようにその分の魔力を込めていたから一人分の魔力が無駄になってしまったけど、元々一人で残ることを考えていたのは瘴気の魔物に気付かれず、魔力の回復をしたのちに自分も転移魔法で戻るつもりだったから、気付かれてしまった状況の中では戦力が増えることは私にとっても助かることだ。
私は立ち上がってアレグレンさんの隣に並ぶ。
「大丈夫です!戦力があった方が心強いんで!」
そう答えた私にアレグレンさんはありがとうと呟いた。
そして私の魔法、氷壁の脇を通る形でヴァルチャーに向かって駆けていく。
キラービーを相手にしていた時のように、剣を軽やかに動かしながら、そして氷壁を背にして後ろからの攻撃を受けないように戦うアレグレンさんに、私は私でヴァルチャーの数を減らすために魔法を使う。
<ラーメー・デオー_水刃>
キラービーの時のように水刃を複数生み出し、一部はヴァルチャーたちを追跡するような形で操作する。
アレグレンさんを攻撃しようとするヴァルチャーには攻撃をしつつ妨害し、なるべくアレグレンさんが複数のヴァルチャーを相手にしなくてもいいように私はサポートを続けた。
だけど
(鳥系の魔物って知能レベルこんなに高かったっけ?)
まるで戦いを長引かせようとしているのか、引く時は引き、こちらが攻撃を緩めようとすれば突進してくるヴァルチャー達に私は疑問を抱く。
(………なにか、本当に企んでいるというの?)
そんなことを考えたその時、ゾクリと悪寒が走った。
この短い間とはいえ、戦いの中一度も動かなかった瘴気の魔物。
目線だけを移すと、瘴気の魔物は私をまっすぐに見ていたのだ。
その瞬間、私の攻撃は完全に止まる。
ドクドクと鼓動する心臓の音が、大きく響くように聞こえた。
そしてそれ以外の音がかき消されたのか、耳に入ってこず、私はまるで時間が止まったような感覚を味わった。
その時、悲痛な叫び声をあげるアレグレンさんの声を聞きながら、私を押し倒す様に身を乗り出すフロンのお腹が視界に入る。
私は背中から転びながらもすぐに起き上がった。
『うぅ…』と痛みを訴えるフロンの背中は真っ赤に染まり、私を庇って傷を負ったことがすぐにわかる。
そして前を向けば片膝をつき、それでも剣をヴァルチャーに向けているアレグレンさんがいた。
「っ!…フロン!すぐに治すから!」
私はフロンの背中に手を当て、治癒を施す。
自分の手が血で染まろうが、気にならなかった。
そんなことよりもフロンを助けなければという気持ちでいっぱいだった。
「治って、治って、お願い!」
ぐっと魔力が失われる感覚がしたが、それでも早くフロンが治ることを祈って魔力を送り続ける。
重症なフロン、そして怪我を負っているアレグレンさんのこと、焦りが魔法を妨げているのか、送り込む魔力に反して治りが遅かった。
「どうして早く治らないのよ!!」
レルリラなら…、こんな時レルリラがいてくれたら…!
思い起こすのはレルリラのことだった。
ついこの前辱めを受けた(見せた)ばかりだというのに、頼りたい。
尋ねたい。
助けを求めてしまいたい。
そんな気持ちが浮かび上がる。
だから本当に情けない。
こんなんじゃSランクなんてまだまだ先だ。
ランクを上げたら、レルリラに伝えて、私がレルリラを助ける番だって笑って、そしたらきっと一緒に喜んでくれるだろうって。
ああ、だめだ。
なにを考えているんだ。今はそんな状況じゃない。
私を庇って怪我を負ったフロンを治さないと。
じわりと浮かぶ涙を拭う私にフロンはゆっくりと起き上がると私に笑った。
『……サラ、大丈夫だよ、もう治った』
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