恋愛初心者の恋の行方

あおくん

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冒険者編②

3 依頼内容

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次の日。
私はエルシャさんに食事中のマナーを叩きこまれようとしたところを、これから依頼主に会うからと回避した。
すっかり忘れていたけど確かに昨日、エルシャさんが不穏なことを呟いていたことを思い出す。

(こりゃあ、夜はどこかで食べてきた方がいいかもしれない……)

そんなことを考えてはいるが、結局屋敷にはエルシャさんがずっといるのだしマナーを叩きこまれるのが遅くなるだけ。
その事に気付かないふりして私は、エルシャさんが手配した馬車へと乗り込んだ。

『珍しい、というより初めてだね。サラが馬車なんて』

「まぁ、ね…」

本当なら馬車なんてお金がかかるものを使いたくなかったのだが、実は私住所の見方を知らないのだ。
いやマーオ町ならわかるよ?地元だし。ああ、あそこらへんね。って感じでわかる。
だけど王都の番地なんてわかるわけもない為、住所を書かれた紙を渡されても私一人で辿り着けるわけがないのだ。
そんなことを知っているのか、それとも公爵家で働いていたエルシャさんにとっては当たり前になっているのか、馬車を手配した。

私は住所を手渡して馬車に乗り込み、フロンを膝の上に置いて安堵する。
これも問題なく指定された場所に辿り着くぞって安心した。

フロンと一緒に窓越しに見える景色に目をやりながら、言葉を交わす。

「依頼ってなんだろうね…」

『わからないけど、サラ個人に指名したって事はサラにしか出来ないってことだよね』

「私しか出来ない事、かぁ…」

それってなんだろうと私は考える。
討伐依頼も自信はあるけど、私じゃないとダメってわけではないからだ。
しかもそういう指名依頼はランクで指名する。個人の名前で依頼することは滅多にない。
となると、全然思いつかないや。

そして目的地に辿り着くあるのか先日見た光景を思い出した私は「え?」と声を出す。

『どうしたの?』

「なんかすごく見覚えがあるんだけど…」

『見覚え?』

フロンは首を傾げた。
確かに私がレルリラの家へと招かれた時フロンは呼び出していないから知らなくても無理はない。
というよりいくらレルリラのお兄さんだからといっても、騎士団で特務隊の隊長で、しかも公爵家の息子さんに会いに行くとなったら霊獣を連れていけないもの。
武装しているのではないかと勘違いされてしまうから。

見慣れた景色はやっぱり見慣れた屋敷へと繋がっていて、私は着いたと教えてくれた御者に向かって「やっぱりか!」と叫んだ。





出迎えてくれたのは執事の確かセバスチャンさんって年配の男性。
物腰柔らかに私を迎えて案内した。

そして通された応接室は以前と同じ、圧倒されるほどの豪勢な部屋だ。
豪華な物を集めたといったような感じでは決してない。
ソファは思わず立ち上がるのも嫌になるほど柔らかく、布の手触りもいい。
床に敷かれるカーペットは土足厳禁なわけではないのに、新品の様に綺麗だ。
部屋の雰囲気を崩すことなく統一された家具たちは、輝くように磨かれているし、商談や会議に活躍しそうな魔道具が揃っている。
一見すると金を掛けてなさそうに見えるのに、そうではないコーディネートはとても気品が溢れていた。

そして既に二人または三人掛けのソファの真ん中に一人の男が座り、その後ろにはレルリラのお兄さんが控えるようにして立っていた。

(え、誰この人)

そう思ってはいても口に出してはダメなことは私は悟る。
レルリラのお兄さんが座っていないということは、ソファに座る男性はレルリラのお兄さんよりも上の立場だ。
しかも後ろに控えるように立っているところをみると、レルリラのお兄さんの上司、に値する人物なのだろう。
そうなると先日聞いたばかりの情報から考えると、ソファに座っているのはこの国の第一王子であらせられるアルヴェルト殿下、ということになるのではないか。

「……あ、……も、申し訳ございません。部屋を間違えてしまったようです」

私は頭を下げたまま体を反転させた。
そして扉から出ようとしたところでレルリラのお兄さんが待ったをかける。

「間違えていないよ。合っている」

その言葉の裏には”いいから早く座れ”という意味が込められているのかもしれない。
私は恐る恐るといった感じで、王子と向かい合うように設置されたソファへと腰を下ろした。

(フロンを戻してよかった)

王族の前では軽はずみに魔法を使ってはいけないとかなんとかって聞いたことがあるから、屋敷に通された時点でフロンを戻していた自分自身の判断に心の中で褒め称えながら、王子へと視線を向ける。
あれ、身分の低い方から話しちゃいけないんだっけ?
でも確かそんな感じだったと思う。

「まず、クエストについて引き受けてもらえる、という認識で大丈夫か?」

「は、はい。そのつもりで来ました」

その依頼内容を先に知りたかったけれど、依頼主が王子であるならばここは依頼を引き受けると断言したほうがいいと判断し、私は頷いた。
私の反応に王子は深く頷いて、口を開く。

「では、ここからは他言無用で頼む。君には聖女の影武者として動いてもらいたいのだ」

「か、影武者、ですか?」

王子は頷く。
私は思わず後ろに立つレルリラのお兄さんにも視線を向けると、お兄さんは王子の指示を受けたようで部屋から一度出ていった。

「これから君には聖女に会ってもらう。勿論聖女に関することを他言しないことを約束してもらう為、契約してもらうがいいだろうか?」

「け、契約…ですか?」

「難しく構えなくていい。聖女に関しての情報を許可なく話せなくなるといったものだ。
君や君の周りの者たちに害を与えるものではない」

「は、はぁ…」

私はそれならばと頷いた。
聖水の作り方だって機密情報なのだから_レルリラは王子の名前で教えてもらったらしいけど_聖女の情報だって同様だろう。
それにこれから聖女と顔を会わせることが出来るということが私にとって重要な部分だった。
つい昨日、昔召喚された聖女たちに何があったのかを知った身としては、今回召喚された聖女が本当に大丈夫なのか心配だったのだ。
そして謝りたかった。
聖女に何もかも頼っていた昔の自分がいたことを私は謝って、そして聖女が助けを求めているようであれば助けたいと思っていた。

トントントンとノック音が鳴り、王子が入室の許可を出す。
そしてゆっくりと扉が開かれた。

レルリラのお兄さんに続き、黒髪の女性が部屋へと入る。
俯いていた女性が顔を上げ、女性の容姿がはっきりと見えた。

私は思わず息を飲む。

目も鼻も口も、どれも私に良く似ていた。
髪の色が黒だからか、そっくり、とまでは思わなくても、本当に鏡でみる自分の様にみえてしまう。

私は立ち上がった。



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