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冒険者編③
17 恩賞式④
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「……なんて書かれてるの?」
近くにいた眞子さんが囁いた。
私は眞子さんの耳に顔を近づけ答える。
「見えざるものを見る力、と書かれてるの」
「見えざるものをみる力……、霊感の事ね」
「れーかん?」
その言葉の意味を問いたかったが、アルヴァルト殿下が話し出したために私は口を閉ざした。
「この見えざるものを見る力というのが、魂を見る力と私は考えている。
実際に結界が消滅した今でも、魂を見る能力を持つ人間は見つかっておらず、今代聖女として召喚された山田眞子様には魂をみる力が備わっていることがわかっている。
この点を考えると、召喚された聖女には魔物に力を与えることになる魂を見極めてもらい、この世界の者たちは聖水を生み出して浄化してきたと考えられる。
…だがその関係はいつしか崩れてしまった」
アルヴァルト殿下はヘルムートさんの今のご家族が見つけたという聖女の日記を取り出した。
まるでこんな事態を想定していたかのような用意周到さに、私は皆で話しあった意味ってなんだったのかと心の中で呟いた。
だって、全てではないけどほぼ事実を話してしまっている。
しかも私と眞子さんが帰ってから調べていたのだろう聖女召喚の魔法陣のこともなにもかもだ。
「これは聖女様が自ら書いた日記だ。いつの時代のものかは不明だが、内容を見る限り既にキュオーレ王国は存在していることから当初のものではない事はわかる。
そしてこれには聖女が虐げられていた内容が書かれていた。
魔力がなく魔法を使えない聖女をいたぶっていたこと、そして瘴気を浄化する聖女をただの道具として扱っていたこと」
「待ってくれ!その日記の内容は矛盾している!先ほど兄上は聖女は“見えざるものを見る力”を持つ者だと言っていた!ならば浄化することなど出来ないのではないか?!」
「…確かにそのように言ったな。では魔方陣に込められた言葉の意味を、私なりではあるが解釈した内容を話そう。
神のもつ同様の力というのは、昔の文献に描かれている魔法陣と照らし合わせ、魂を見て、そして新たな生を与えるために清めることをいうと私は考えている。
つまりは魂を判別でき、そして魂を清めることが出来る力を持っていると考えた。
だが眞子様には魂を清める力は備わっていない事を考えると、魂を判別できる力と清めることが出来る力は同じであって、違うと考えられる」
「同じであって違う?!なんだそれは!同じ力なのだとしたら使えると考えるのが当たり前でしょう!?」
第二王子は嘲笑いながらも反論する。
アルヴァルト殿下は第二王子の態度に腹を立てるわけでもなく、静かに答えた。
「いや使えないんだ。魔力量によって発動できる魔法と出来ない魔法があるように、見ることは出来るが清めることが出来ないことだって同じだろう」
「なら浄化の力を使えるようになった我々はどうなんだ?!」
「我々は聖水を生み出すことができるようになったというだけで、浄化そのものは出来ない。
だからこそ“見ることが出来ず”そして“神のもつ同様の力”を持っていないからこそ、聖女召喚の魔法にも応じる者がいなかった」
第二王子は口を噤む。
今アルヴァルト殿下は眞子さんが正式な聖女であること、そして眞子さんに似ている私は聖女ではありえない事を断言した。
悔しそうに唇を嚙み締める第二王子だが、裏を返せば眞子さんを召喚した第二王子は本当に聖女を召喚したことを伝えてくれている。
それに気づいていない第二王子に、私はなんだかじれったい気持ちになった。
私と眞子さんの事だけじゃなくて、第二王子のことまで庇うアルヴァルト殿下は弟である第二王子のことをちゃんと家族として大切に思っているのだと感じられるのだ。
だからこそ、アルヴァルト殿下の気遣いを早く気付いてあげてほしいと思ってしまう。
「…魔物に取り込まれ、瘴気となった魂は悪意に満ちていたと眞子様は告げた。いや、眞子様だけではない、聖女様の日記からもそれは読み取れた。
いつしか我々は聖女に能力以上の責任を強いるようになった。そして要求に対し期待通りに答えなければ虐げていた。
見ず知らずの国の為に、力を貸してくれた清らかな魂を持つ聖女は、我々のせいで魂を悪に染め、魔物の力となってしまったと考えられるのだ。
全て我々の責任だ。だがこれが公になれば混乱が生じる。だからこそ事実を隠そうと私と陛下は結論付けた。
既に亡くなってしまった聖女たちには、瘴気の魔物から解放さしあげることで、罪を償おうと考えているのだ」
どうか聖女の魂が安らかになれるように。と口にしたアルヴァルト殿下の言葉に、第二王子はこれ以上の反論をしなかった。
結界を誰が張ったのか、結界にはどのような意味があったのか。
聖女召喚に隠された本当の意味。
そして聖女の扱い。
全てを知った第二王子は愕然とした。
「…なら、俺がやったことは……」
呟かれた言葉は小さく、何を口にしたのか耳にすることは出来なかったが、それでも第二王子の口の動きと青ざめた表情からなにを言ったのか推測できた。
私は騒ぐ周りの貴族たちに眉をひそめた。
つまり聖女召喚は不要だったという事だろう
だからこそ王太子だって聖女廃止を願ったんだ
だが聖女が虐げられていたとは…
そもそも魔物が結界を張ったというのも怪しいが、アルヴァルト殿下が嘘をつくわけがない
第二王子が聖女様を囲っていたままだったら、新たな犠牲が出ていたかもな
適当なことを口にする貴族たちに私は不愉快な気持ちになった。
だからかわからないけど、これ以上見てられないと第二王子に歩み寄ろうとした時だった。
近くにいた眞子さんが囁いた。
私は眞子さんの耳に顔を近づけ答える。
「見えざるものを見る力、と書かれてるの」
「見えざるものをみる力……、霊感の事ね」
「れーかん?」
その言葉の意味を問いたかったが、アルヴァルト殿下が話し出したために私は口を閉ざした。
「この見えざるものを見る力というのが、魂を見る力と私は考えている。
実際に結界が消滅した今でも、魂を見る能力を持つ人間は見つかっておらず、今代聖女として召喚された山田眞子様には魂をみる力が備わっていることがわかっている。
この点を考えると、召喚された聖女には魔物に力を与えることになる魂を見極めてもらい、この世界の者たちは聖水を生み出して浄化してきたと考えられる。
…だがその関係はいつしか崩れてしまった」
アルヴァルト殿下はヘルムートさんの今のご家族が見つけたという聖女の日記を取り出した。
まるでこんな事態を想定していたかのような用意周到さに、私は皆で話しあった意味ってなんだったのかと心の中で呟いた。
だって、全てではないけどほぼ事実を話してしまっている。
しかも私と眞子さんが帰ってから調べていたのだろう聖女召喚の魔法陣のこともなにもかもだ。
「これは聖女様が自ら書いた日記だ。いつの時代のものかは不明だが、内容を見る限り既にキュオーレ王国は存在していることから当初のものではない事はわかる。
そしてこれには聖女が虐げられていた内容が書かれていた。
魔力がなく魔法を使えない聖女をいたぶっていたこと、そして瘴気を浄化する聖女をただの道具として扱っていたこと」
「待ってくれ!その日記の内容は矛盾している!先ほど兄上は聖女は“見えざるものを見る力”を持つ者だと言っていた!ならば浄化することなど出来ないのではないか?!」
「…確かにそのように言ったな。では魔方陣に込められた言葉の意味を、私なりではあるが解釈した内容を話そう。
神のもつ同様の力というのは、昔の文献に描かれている魔法陣と照らし合わせ、魂を見て、そして新たな生を与えるために清めることをいうと私は考えている。
つまりは魂を判別でき、そして魂を清めることが出来る力を持っていると考えた。
だが眞子様には魂を清める力は備わっていない事を考えると、魂を判別できる力と清めることが出来る力は同じであって、違うと考えられる」
「同じであって違う?!なんだそれは!同じ力なのだとしたら使えると考えるのが当たり前でしょう!?」
第二王子は嘲笑いながらも反論する。
アルヴァルト殿下は第二王子の態度に腹を立てるわけでもなく、静かに答えた。
「いや使えないんだ。魔力量によって発動できる魔法と出来ない魔法があるように、見ることは出来るが清めることが出来ないことだって同じだろう」
「なら浄化の力を使えるようになった我々はどうなんだ?!」
「我々は聖水を生み出すことができるようになったというだけで、浄化そのものは出来ない。
だからこそ“見ることが出来ず”そして“神のもつ同様の力”を持っていないからこそ、聖女召喚の魔法にも応じる者がいなかった」
第二王子は口を噤む。
今アルヴァルト殿下は眞子さんが正式な聖女であること、そして眞子さんに似ている私は聖女ではありえない事を断言した。
悔しそうに唇を嚙み締める第二王子だが、裏を返せば眞子さんを召喚した第二王子は本当に聖女を召喚したことを伝えてくれている。
それに気づいていない第二王子に、私はなんだかじれったい気持ちになった。
私と眞子さんの事だけじゃなくて、第二王子のことまで庇うアルヴァルト殿下は弟である第二王子のことをちゃんと家族として大切に思っているのだと感じられるのだ。
だからこそ、アルヴァルト殿下の気遣いを早く気付いてあげてほしいと思ってしまう。
「…魔物に取り込まれ、瘴気となった魂は悪意に満ちていたと眞子様は告げた。いや、眞子様だけではない、聖女様の日記からもそれは読み取れた。
いつしか我々は聖女に能力以上の責任を強いるようになった。そして要求に対し期待通りに答えなければ虐げていた。
見ず知らずの国の為に、力を貸してくれた清らかな魂を持つ聖女は、我々のせいで魂を悪に染め、魔物の力となってしまったと考えられるのだ。
全て我々の責任だ。だがこれが公になれば混乱が生じる。だからこそ事実を隠そうと私と陛下は結論付けた。
既に亡くなってしまった聖女たちには、瘴気の魔物から解放さしあげることで、罪を償おうと考えているのだ」
どうか聖女の魂が安らかになれるように。と口にしたアルヴァルト殿下の言葉に、第二王子はこれ以上の反論をしなかった。
結界を誰が張ったのか、結界にはどのような意味があったのか。
聖女召喚に隠された本当の意味。
そして聖女の扱い。
全てを知った第二王子は愕然とした。
「…なら、俺がやったことは……」
呟かれた言葉は小さく、何を口にしたのか耳にすることは出来なかったが、それでも第二王子の口の動きと青ざめた表情からなにを言ったのか推測できた。
私は騒ぐ周りの貴族たちに眉をひそめた。
つまり聖女召喚は不要だったという事だろう
だからこそ王太子だって聖女廃止を願ったんだ
だが聖女が虐げられていたとは…
そもそも魔物が結界を張ったというのも怪しいが、アルヴァルト殿下が嘘をつくわけがない
第二王子が聖女様を囲っていたままだったら、新たな犠牲が出ていたかもな
適当なことを口にする貴族たちに私は不愉快な気持ちになった。
だからかわからないけど、これ以上見てられないと第二王子に歩み寄ろうとした時だった。
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