拾われた孤児は助けてくれた令嬢に執着する

あおくん

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ヒロインという存在

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学園に入学して二年。
私の執事兼従者として今後レリスロート子爵家を守っていくことになるだろうアレンは、授業以外私の傍を離れることはなかった。
常に私を主として寄り添うアレンに、私も頼もしさを感じていた。
だからこのときもアレンと共に廊下を歩き、帰宅しようとしていたところだった。

そんな時だった。
ピンク色の髪の毛を耳よりも高い位置に二つに分けて結っている女性に出会った。
女性は人差し指を私に突き刺し、開口一番でこういった。

「なによ!アンタ!私の攻略対象を奪っていいと思ってんの!?」

と。

私は意味がわからなかった。
ううん。漠然とだけど前世の記憶がある私には目の前の女性が何をいいたいのかという意図はわかってしまった。
何故ならピンク色の髪の毛は王道なヒロインの髪色で、攻略対象というのはゲームという遊び道具やマンガやラノベという小説によく出てくる言葉なのだ。
攻略対象の言葉の意味はヒロインと恋愛関係になる対象の人物という意味である。
だから目の前の女性がいう言葉の意味はわかった。
だけどそれでも意味がわからなかったのだ。

だってここはゲームやマンガ、小説の世界ではない現実世界。
私はお父様とお母様から命を授かって生まれた一人の人間だ。
キャラクターなどではない、本物の命を持ち、自分の意志で行動する人間なのだ。
そしてそれはアレンにも当てはまるし、他の全ての人たちに当てはまることだ。
だからシナリオなどないし、攻略対象という言葉だってあり得ない。
人の人生は決められているものではないのだから。

「お初にお見えになります。私はミレーナ・レリスロートと申します。
先程のお話しですが“攻略対象”…というものがどのようなものなのか存じませんが、アレンは私の従者です。
……失礼ですが、貴方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

アレンがヒロイン(仮)に対し、私を守るように前に出ようとするのを私は止めてそう告げた。
ヒロイン(仮)は言い返されるとは思っていなかったのか、顔を真っ赤に染め上げて地団駄を踏む。
子供のような人だというのが正直な感想だ。

「うるさいうるさい!“名無し”がいないと始まらないのよ!
そいつがいないと必要なアイテムだって手に入らない!他の攻略対象にも容易に近づけないの!」

“名無し”というのはおそらくアレンのことだろう。
私がアレンを拾った時、アレンには名がなかったから。
それにしてもアイテムというのはなんだろうか。
そのアイテムがないと、攻略対象に近づけないというのは少しばかり穏やかなじゃなさそうだ。

「…色々と理解が出来ない言葉がありますが……。
どうやら貴方様は先ほどから私と会話をしようとしていないように窺えます」

はっきりいってヒロイン(仮)と話しが通じない事に私は眉をひそめた。
上下関係が厳しい貴族社会だとしても、常識が通じない相手には例え自分より家格が上の相手でも優位に立てる。
それほど常識というものは貴族社会にとって重要な問題なのだ。

貴族社会では最初に名を名乗る。
名を名乗らないのに本題を話すというのは、詐欺師のような手口を使う人間だと思われてしまうからだ。
名を明かすということは、信頼を得るため。
自分という存在を信じてもらうために、それほどに名を大事にするのだ。

そしてここは学園内。
教室から離れているとはいっても、生徒や教師一人通らない場所ではないために、ヒロイン(仮)が名を名乗らなかったことを目撃した人は私とアレン以外にもいた。
ヒロイン(仮)の子供のような言動に、周りの者達が眉をひそめる。
周りの様子に気付いてくれたのか、ヒロイン(仮)はこれ以上声を荒げることもなく去っていった。
流石にヒロイン(仮)もその常識は知っていたのだろう。
逃げるように慌てて引き返していく姿をみて、私は(名乗れば済む話なのに…)と心の中で思っていた。

「ミレーナ様、大丈夫ですか?」

「なにが?」 

「あの者に声を荒げられていたでしょう?」

「あぁ……」

心配そうに眉を下げるアレンに私は口端を上げた。
何故か最近というか、数年前から私をとてもか弱い令嬢扱いをするのだ。
沢山アレンに教養をつぎ込んでいた中に女の子は大事にするのよと伝えていたとはいえ、アレンとは沢山遊んできた。
それこそお父様とお母様の目を盗んで一緒にかけっこをしたり、子供用の木剣で勝負したり、木登りをしてみたりしていた筈なのにである。

「…ふふ、私は大声を出されただけで気が滅入ってしまう程柔なつくりはしてないわ。
それより守ろうとしてくれてありがとうね。嬉しかったわ」

「とんでもございません。ミレーナ様を守るのは私の役目です。ですが…」

「どうしたの?」

「…それすらも出来ませんでした」

「ふふ。私が止めたからね」

シュンと項垂れるアレンの頭を私は撫でた。
アレンを連れてきた当時はまだ私の目線位下にアレンの頭はあったのだけど、今では腕を高く持ち上げなければアレンの頭に触れることが出来ない。
それほど大きく健康的に、そして逞しく成長したアレンは私の自慢でもあったが、少しだけ寂しく感じる。
(いつまでも撫でさせてくれればいいのだけど…)と願うことは自由だと思う。

「それにしてもあのおん…いえ、あの令嬢は私がいないと“アイテム”が手に入らないといっていましたが、アイテムというのはアーティファクトの事でしょうか?」

この世界には魔法がある。
ただその魔法を日常生活の中で行使できる人は限られていた。
国や各貴族が保有している領地を守る立場である騎士、あらゆる道具を作り出し、そして騎士団を支える者や私達民の生活を支える道具を作り出す者達、他にも仕事上魔法を封じられては困る者以外、全ての国民が魔力を封じる魔道具を身に着けていた。
それは暴発的な魔力による事故は勿論、争いの種を潰すための国で定められた法である。
だから、私の手首にもアレンの手首にも、当然のように魔力を封じるブレスレットが付けられていた。
勿論学園の中で行う魔法の授業においては、魔道具を外すことは認められている。
外さないと魔力を放出することが出来ず、魔法が使えない為だ。

ちなみにこのブレスレットはお金を出して手に入れたものである。
魔力を封じることは法で決められていることの為、資金に余裕のない者は国で作られたチョーカーを首に付けているのだが、そのチョーカーは見る人にとっては首輪のように見える。
その為、形が気に召さない者はお金を出して好きな形の魔道具を作るのだ。

話を戻すが、この世界には魔法がある。
日常生活に使用している魔道具は予め魔力を溜めた魔石と言われているものを使用している為、やはり滅多に魔道具(ブレスレット)を外すことはない。
ならアーティファクトというものはなんだと言われれば、それも魔道具である。
ただ普通の魔道具と決定的に違う点は、魔力を必要とせずに発動できる魔道具をアーティファクトと言われているのだ。
アーティファクトは人工的に作られた道具ではあるが、世界にも片手で数える数しか存在しない。
それほどに貴重なものである。

「さぁ…わからないわ。
私はアレンと一緒にいて七年が経つけれど、国宝級ともいえるアーティファクトを目にしたこともないし……」

そうなのである。
私はアレンと七年共にしていたが、一度もアーティファクトを見つけたことがない。
そもそも探そうともしていなかったのだから、見つける可能性なんて低いし、ヒロイン(仮)の言うアーティファクトがどんなものかわかってない時点で見つけられないだろうけれど。
だけど、あのヒロイン(仮)はアレンのことを攻略対象といい、そして“アイテム”を見つける為にはアレンが必要とも言っていた。
漠然とした前世の記憶では、ヒロイン(仮)の言葉の意味はわかるが、元のネタまではわからない。
ん~と小さくうねりながら頭を悩ませている私にアレンは恐る恐るといった様子で言った。

「…あの、ミレーナ様はそのアーティファクトを手に入れられるとしたら………欲しい、と思いますか?」

まるで耳が垂れたワンちゃんがアレンの後ろに見えた気がした。

「欲しいとは思わないわね。
それに考えてみて?もし私がアーティファクトを持っていたとして、それを国に報告しなければならない。
例え所有を認められたとしても、国全体に私がアーティファクトを持っていることが知られている中でなにか事件があった場合、真っ先に疑われるのは魔力がなくても使うことが出来るアーティファクトを持っている私。
そんなの例え国宝級の品物だとしても持ちたいとは思えないわ」

「…確かにそうですね」

「ええ。そうよ」

胸を張って話すとアレンは嬉しそうに笑いながら安堵した様子を見せた。
きっと、アレンを利用してまで私がそのアーティファクトを欲しがるのではないかと思ったのだろう。
そんなことあるわけないのに、それに私はアレンの事を大事な家族のように思っている。
アレンを利用しようとか、そんな考えなんて最初から持ったりしないのだから、アレンはそんな心配しなくてもいいのだ。
だけど、ヒロイン(仮)がいうアイテムがもしアーティファクトであったなら、そうもいえなくなるのだが…。

でも今は帰ることを優先しよう。

ヒロイン(仮)にアイテムの事を尋ねてもきっと求める返事は返ってきそうにない。
それほどに話が通じなかったのだから。

「では、帰りましょうか」

「ええ」





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