拾われた孤児は助けてくれた令嬢に執着する

あおくん

文字の大きさ
4 / 26

圧力

しおりを挟む


ヒロイン(仮)に出会って数日。
事件は起こった。

どうやらヒロイン(仮)はエリザベス・バルオットという侯爵家らしい。
私より遥かに家格が上のエリザベス様から、正式な書面でアレンを寄こせという内容の書状が来たというのだ。

はっきりいって意味がわからない。
何故アレンを渡さなければならないの?
大事なアレンを、何故。
優秀なものを引き抜くことは不自然ではないにしても、アレンはまだ学生。
学んでいる最中なのだ。
様々な視点から見ても、アレンが引き抜かれる意味がわからなかった。

そしてアレンをお父様が呼びつけたと世話係のメイドから聞いた私は、いてもたってもいられなかった。
ツカツカといつもは立てない音をたてて、勢いよくお父様の執務室を開ける。
ドンという音が鳴り響き、現在お母様と共に家を切り盛りしている執事が扉の心配をする中、お父様とアレンがきょとんとした目で私を見てきた。

「ミレーナ?どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもありません!アレンをバルオット侯爵とかいう家に渡したりしませんよね!?お父様!?」

バンとデスクに手を叩きつける。
ひりひりと痛みが走るが気にしない。
ちなみに横からはとても熱い眼差しが突き刺さる。

アレン、見ていて。私あなたを他所に渡したりしないから。
その期待を込めた目でもっと私をみていて!

「…あ、ああ。アレンの意思も確認したし、うちとしてはそのつもりだが…」

「え?」

今度は私がキョトンとする番だった。

「ミレーナ様、私は生涯貴方の傍にいますので、ご安心ください」

褐色肌を赤く染め、嬉しそうに目を細めるアレンはそう言った。
どうやらアレンに家を出ろという旨を伝えるのではなく、アレンの意思を伺っていたらしい。
私は一人で早とちりしていた。

「…ミレーナ、流石に私もアレンの事を信頼している。
お前と共にこの家を任せてもいいと、そう判断し次の執事として活躍してもらいたいと学園に通わせているのだ。
だから流石に侯爵家からの引き抜きでもはっきりと断ろうと思ってるんだよ。
だがアレンの気持ちを確認していないから、こうしてアレンの意思を確認したんだ」

はぁと溜息をつきながらジト目で私をみるお父様に私は罪悪感を感じた。

「ごめんなさい、お父様……」

でも、とかそういう言葉は言わない。
いいわけしかならないことを知っているからだ。

「…いや、アレンだけを呼びつけず、ミレーナも呼べば誤解をさせずに済んだんだ。
私にも非はある」 

「お父様……。いえ、お父様の事を信じられなかった私の方が悪いのです。
それに淑女であるべきにも関わらず、足音や物音を大きく鳴らし声を荒げてしまいました…」

しゅんと頭を下げるとお父様は綺麗に剃られている顎を指先で触りながら、私の先ほどの行動を思い返すと「ああ」と呟いた。

「確かにあの時のミレーナは淑女とは言い難いな」

「…はい」

「だがここはお前の家だ。家でくらい肩の力を抜いてもいいと私は思っているよ」

目線を私からずらしたお父様は「だろ?」と右と左と意見を求めた。

「……旦那様の意見には同意しますが、せめてノックくらいはしてほしいものです。
扉の近くにいた私としては身の危険を感じました」

「あ、ごめんなさい。セバス」

扉の心配をしていた姿しか見ていなかったのだが、どうやら彼を扉で圧死させてしまうところだったらしい。
はぁと小さく溜息をついた執事は「大丈夫です」と苦笑する。
懐が深い。

「私は先ほどのミレーナ様の行動にとても感動しました。
この目で見れてよかったとも思っていますので、先ほどの行動は素晴らしいものと判断します」

「「アレン、そこは褒めちゃだめよ(だ)」」

キラキラとした満面の笑みでそう告げたアレンに私とお父様は息を合わせてそう言った。
兄弟のように育ったとはいえ、私はアレンをとても甘やかして育ててきた。
アレンを助けた私、そしてアレンに良くしてきた私にアレンは崇拝しているようで、たまにこのように正常な判断が出来なかったりする。
そんなアレンが私を裏切ることはないと信じることができるが、正常な判断は維持して欲しい。

「では、そろそろ話を戻しましょう」

「そうだな」

執事とお父様がそう言った。
私は首を傾げてアレンを見上げる。

「ミレーナ様が来る前、確かに旦那様より私の意思を確認されました。
私は否定するとともに、あのおん…侯爵令嬢の発言をそのままお伝えしたのです」

「ということは、“アイテム”ということが“アーティファクト”である可能性を話した、ということね。
そしてそのアーティファクトを探すのはアレンが鍵である可能性がある、と」

「はい」

頷くアレンに、私はお父様の方に視線を向けた。
お父さまと執事はそのアイテムがアーティファクトであるものと仮定してどのようなものなのかを考えている。

勿論私がアレンに言ったようにアーティファクトというものは持っているだけでは確かにメリットもあるだろうが、デメリットの方が大きいと思っている。
なにかにつけて疑われるようになるのなら、例え金の生る木を見つけたとしてもアーティファクトで作られたまがい物なのではないかと疑われる。
そうなればうまく言っていた事業経営だって右肩下がりになるだろう。
だから普通であれば関わりたくないと思うのが当たり前の気持ちである。
だけど爵位を持つ責任ある立場の人はそうじゃない。
そんな話を聞いたのならばまず国に報告しなければならない。
そしてそれが真実であるかの詳細な情報も添えなければならないのだ。
どんな機能を持つアーティファクトでも、放置すれば国の滅亡に関わるかもしれないからこその決まり事である。

本来であればレリスロート家ではなく、バルオット侯爵家が行うべきものであることは確かだ。
では何故エリザベス様のお父様であるバルオット侯爵が行わないのか。
きっとそれはエリザベス様が情報を与えていないからだ。
ゲームの知識を利用しようとしているエルザベス様が伝えない理由は容易に想像できるが、それはいい選択肢ではない。

だけど変わりに私達が行うことで、アレンの引き抜きの拒否に文句を言わせないように切り札として、そしてエリザベス様がそのアーティファクトを使って国の上層部をめちゃくちゃにしないよう出来る限りの対応策をと思い、アレンはお父様に伝えたのだろう。
しかもアレンが探すための鍵であるのなら、確時間がかかっても確実に見つけることが出来ると、そう思っているだろう。

私は思考を巡らせた。

今迄漠然とはいえ、前世の記憶があるということを誰一人にも伝えてはいなかったのだ。

だからヒロイン(仮)であるエリザベス様が言ったアイテムというのがどのような機能を持つものなのか、心当たりがあるという話をする為にはまず前世の記憶があるということを話さなければならなかった。


私は話し合うお父様たちをみて、暫し物思いにふけていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

処理中です...