拾われた孤児は助けてくれた令嬢に執着する

あおくん

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アレンの秘密

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「え、人の心が読める?」

「はい。最初は当たり前に出来る事だろうと思っていましたが、ミレーナ様に拾われ、色々なことを教わっている時に人の心の中が読めるのは普通ではない事に気付き、その………黙っておりました」

「まぁそれはそうよね。
人の心の中を知れることが知られたら、悪いことに利用する人もいるだろうから黙っておくのは当然の事だもの。
……あれ、そう考えたらエリザベス様のここはゲームの世界という仮説は合っていたの?アレンが必要だったとずっと言っていたもの」

私はエリザベス様が企てた誘拐事件の際、エリザベス様にここと似たような世界があったとしても私達が生きている世界は現実のものだと、ゲームの世界ではないのだと説教まがいなことを言ってしまっているのだ。
だけど、それはそもそもアレンの持つ_と思われている_アイテムに特別な力がないことが前提で成立する推測。
アレンに特別な力があることが分かった以上、エリザベス様の話のほうが真実なのではないのかと思えてしまう。
でも私は私の意思で生きてきて、そもそもアレンを拾ったのも私であってエリザベス様ではない。
どういうことなのだと頭を悩ませていると、アレンに顔を持ち上げられ強制的に目を合わせられる。

「いいえ。違いますよ。“アイテム”が必要で、“俺自身”は攻略対象だからとあの女性は言っていましたからね。
不十分な知識は結局誤った情報にしかなりませんし、それが真実とはなりません。
結局はミレーナ様が仰っていた、人がそれぞれ選んだ選択の先が真実になるのです。あの女の言葉ではなく、ね」

アレンの言葉に目を見開いた。
確かにそうだと。ゲームのシナリオとか、そういうの関係なく、私は私の意思で行動してきた。
エリザベス様が私に色々言ってきたのがその証拠だ。
ここがゲームの世界で、シナリオという予め決められていた内容があるのならば、アレンは今私の隣に立とうとはせず、エリザベス様の元にいるだろう。
アレンだってそう。アレンの選択の結果が今であって、誰かによって決められ指示されていたものではないとはっきりと言える。

「そっか、そうだよね」

「はい、ミレーナ様」

にこりと微笑むアレンに胸がときめき私は思わず顔を伏せる。
パーティーの為にリメイクしたドレスが目に入った。
(帰ったら、アレンと揃いの乗馬服をあけよう)と今とは関係ない事を思い浮かべながら私は話を切り出した。

「あの…、もう一つ聞いてもいいかな?」

アレンが心の中を読むことが出来ると聞いた私は、この時ばかりは感情をひた隠しにする努力をしたのだ。
だからこその乗馬服。
私だってまだ見てない。あー楽しみだ。と心の中で何度も繰り返した。
だってそうしないと“また”逃げられるかもしれないからだ。
いや、話の流れでは私の方が逃げたくなると思うけど。

「はい、なんでも聞いてください」

「じゃあ遠慮なく聞くね。アレンは人の心の中が随分前から読むことが出来るっていっていたじゃない?
あの時もそうだったの?」

「あの時?」

首を傾げるアレンに、私の心の中が読まれていない事を知る。
読まれていたらこんな純粋そうに尋ねてこないからだ。

「……アレンが私に思いを伝えてくれた時よ。
あの時アレン“すみません”って言って、部屋から出ていったわよね?
もしかしてとは思うけれど……私の気持ち、あの時にはもう伝わっていた?」

尋ねた瞬間、アレンの顔が一気に赤く染まる。
そして照れくさそうに口元を手で隠した。
そんなアレンを見た私は乗馬服の事は頭から抜け、照れるアレンが貴重すぎて目が離せずにいたのである。

「あ~、………はい。
ミレーナ様に気持ちを伝えたとき、ミレーナ様の心の中が私へと流れて来ました。
私と共に手を繋いでデートをしているところや、額にキスをして抱きしめているところ、ミレーナ様とキスをするところも……」

「~~っ!?」

「今まで心の中が読める、聞こえると言っても言葉だけでしたが、あの時ばかりは映像が流れて来ました。
気持ちの強さで伝わる内容は言葉から映像に変わるのだと、私はあの時初めて知りましたが、それと同時にミレーナ様と両想いだと知ることができたのです。
ですから、ミレーナ様が仰っていたような不安に思う気持ちは一切なく、それどころか気が急いてしまいミレーナ様に十分な説明もなく離れることとなりました。
申し訳ございません」

色々いいたいことがあった。
私と両想いと気付いたなら私にも教えなさい。とか、気持ちの強さ次第で思っていることが映像として伝わることに対してとか、あの“すみません”は私の間抜けな返事に対してじゃなく、私の気持ちを知ってただ照れていただけだったのかとか、とにかくいいたいことは他にもあった。

だけど私は口を閉ざしてアレンの手を掴んだ。
大きくて暖かくて、そして頑張り屋さんの少し硬い手を。

(いつの間にこんなに大きくなったんだろう)

小さい頃は例え身長が少し追い抜かれていたとしても、まだふわふわと柔らかくて、私は片手でアレンの手をしっかりと握ることが出来た。
だけど今は違う。大きなアレンの手は片手で掴んでも大人と子供のような差がある。言い過ぎたかもしれないが、そういった方がしっくりとくるのだ。
だから私は両手でアレンの手を掴んでしっかりと握った。

アレンが私と両想いだってことに気付いた時、冷静な判断も出来ずに早々に発ってしまった事は流石に一言ガツンといいたくなる。
だけどそれ以上に嬉しかった。
冷静沈着なアレンが私とのことで頭をいっぱいにさせてくれたことに。
それこそ、その日のうちに行動を起こして出ていくくらい、気が急いていたアレンを思い浮かべたら。

でも、でも…なによりも嬉しいのは

「…アレンに、不安な思いをさせたままでなくてよかった…」

離れていた間、手紙のやりとりをしていたとはいえ、自分の気持ちを伝えていなかったことを悔やんでいた私は少しでもアレンが不安に駆られていないかが心配だった。
不安な気持ちは心を乱し、それは戦闘の場にも影響する。
無事に帰ってきてと、死なないで帰って来てと、怪我なんて負わないで帰って来てとずっとずっと願っていた。
でもそうじゃなかったことに安堵した。
アレンは私との将来に対し、一つの不安も抱いてなかったのだ。
あるとすれば爵位を与えられるかどうか、その一点だけだろう。

「ミレーナ様、これからは貴方様を不安にさせることがないよう、自分の気持ちを、考えを、しっかりと伝えさせていただきます」

「…ふふ。そうね。
私の心の中を覗けるんだから、アレンは私にちゃんと心を明かしてくれないと不公平だわ」

くすくすと笑いながら告げると、アレンは一気に顔を近づけて距離を無くした。
そのあまりの近さに私はドキドキしながらアレンを見つめる。

「…では早速伝えてもいいですか?」

「い、いいわよ。何でも言ってちょうだい。
…あ、でもその前に一つ私も言いたいわ」

「……もしかして、敬語を無くして欲しい、ですか?」

「まぁ早速読んだのね」

「読んだというより、ミレーナ様は以前から私のミレーナ様以外に対する言葉遣いに対して羨ましそうに見ていたでしょう?
心を読まなくてもそれくらいはわかります」

「わかっているのなら、敬語はやめてちょうだい。
アレンはもう平民じゃなく貴族で、これから私の夫になるのだから」

「それでも私はまだ従者の立場ですよ」

「アレンのプロポーズを受け入れたのだからもう私の夫よ!」

「……なら一度だけ。それで大丈夫そうでしたら今後もそうしましょう」

私は喜んだ。
大丈夫そうならという言葉の意図がわからなかったが喜んだ。
だけどそれは束の間の事で、アレンの夜空のように綺麗な瞳が真っすぐに私を捕らえる。
真剣な眼差しが、思わず背けてしまうのを阻んでいるかのようだった。
そしていつの間に腰に腕が回されていたのか、密着するような形で抱きしめられているものだから私の視界にはアレンしか映らなかった。

「キスしたい。ミレーナが想像したよりもずっとずっと深いやつ」

「え、あ、…」

「ダメか?もう俺はミレーナの夫なんだろう?
正直、ミレーナが俺とのキスを思い浮かべた時からしてもいいんだと、ミレーナも俺としたいと思っているのだと感じて嬉しかったんだ。
その時からずっとずっと我慢してきたんだ…」

「~~~っ!!!だめ!!!」

迫るアレンから距離をとるように私はアレンを突き返す。
嫌なわけじゃない。
嫌なわけじゃないがここは王城の敷地内だ。
いくら庭園の中には私とアレンの二人しかいないとはいえ、それはダメだ。
私は公共の場でイチャコラするのは躊躇うという日本人の心を持っている。
前世の記憶は漠然だが、そういうようなところには前世の記憶というものが強く反映されているのだ。

(危なかった!アレンの手を握ったままでよかったわ!
じゃないと王城でアレンとキスしてい_)

「なるほど、場所が王城だからダメ、と」

「へ!?」

私の心の中を読んだのだろうアレンはいつもの大人じみた微笑みではなく、まるで年相応の少年のように不敵な笑みを浮かべていた。

「屋敷に戻ったらキスしような」

「~~っ!」









その後、屋敷に戻った私達がキスできたかどうかはご想像にお任せいたします。




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