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しおりを挟む「ママ、これからどうするの?」
「勿論家に帰るわよ。もうすぐ暗くなっちゃうけど、この町には宿がないからね」
「おっけー!」
「…でも危ないから、ハンターを雇いましょうか」
「おっけー!!!」
町の馬車は首都のように栄えている町へと向かう_人によっては“上る”と表現される_馬車は夜でも動いている。
だが逆に閑散としている町へは昼間でも本数が少ない。
その為、“下りの馬車”を手配することが出来ない人は、ハンターを馬車の御者として雇うのだ。
「はんたーはんたー!」
ルンルンと上機嫌のメルは、教会から出て元気を取り戻したバウと共に元気よく歩いている。
「メル、ここよ。ここでハンターを雇うの」
メルの母は一つのお店に入り、メルよりも高いカウンターでお店の人と話していた。
「女と子供で二人。そして子犬が一匹」
「予算は」
「子供の魔力測定で来たから、金額は国に請求して頂戴」
「安全にたどり着けるならば性別は気にしないわ」
「それでは該当するハンターの詳細情報を」
なにやら難しそうな表情で話す母を眺め飽きたメルは、バウの頭を撫でまわした。
バウも嬉しそうにメルに擦り寄る為、メルは飽きもせずに撫でまわす。
メルの母も、メルとバウの仲をずっと見てきたため、メルがどこかに走り出す心配もなく受付と話し込んでいた。
そして決まったハンターに顔を会わせて、頭を下げる。
「今日はお願いします」
「おねがいします!」
「ワン!」
「これはこれはご丁寧に。こちらこそよろしくな!」
ガタイの良い男性は愛想よくニカリと笑う。
メルもそんな男性に委縮する様子はみせずに、笑顔を浮かべたまま「よろしくね!」と言っていた。
ガタガタと馬車に揺られ、普段なら眠気が来る時間帯でもメルは眠ることはなかった。
激しい揺れの所為か、それとも通常にはないお出かけだからか、もしくは両方の理由からか。
「ねえ、メルね!まりょくのそくていしてきたんだよ!」
「ほぉ、そうなのか!なんかいわれたのか?」
「ん~~、ちょっと高いけど、セイジョさまじゃないっていわれた!」
「アハハハハ!そりゃあよかったな!
聖女サマになっちまったら、ポーション作成や祈りやらで休む暇もねーっていうからな!」
「ぽーしょん?」
「飲むと元気になれるっていう聖女サマが作る薬だよ!」
「おぉ~!メルはじめてしった!おにいちゃんモノシリね!」
「アハハハハ!」
司祭にはおじちゃんと呼び、ハンターにはおにいちゃんと呼んだメルの判別方法がよくわからないが、それでも馬車の小窓からハンターと仲良く話すメルの姿に母親は微笑みながら見守っていた。
「そうだなぁー、メルっていってたな」
「うん!メルだよ!」
「メルは魔力がちょっと多いって言われたんだろ?なら、魔法を習うのもありだな!」
「まほー!!それ、メルしってるよ!えほんでみた!
ガーって火をふいたり、ばしゃーって水をだしたりして、マモノをやっつけるんでしょ!」
「その通りだ!でも何も戦うだけじゃないんだよ!
水が魔法で作れたら、畑にも活用できるし、土を操れたら畑づくりも簡単だな!」
「まほーすごい!ほかは!?」
「他?!…ん~、風を操れるなら、掃除も楽になるかもな!」
「おそうじも!!?すごい!!
…ママ!メルまほうならいたい!」
「ん~、もうちょっと大人になったらね」
「メルもう大人だよ!子どもじゃないよ!」
「じゃあメルの身長が今よりももっと大きくなったら、ね?」
「む~~~」
「アハハハ、俺余計なこと言っちまったかな!すまねーな!」
「いえいえ、メルの話し相手になっていただきありがとうございます」
「いいや、俺の方こそ楽しませてもらったよ。
メル、ありがとうな!」
「メルも楽しかったよ!」
そうして辺りが暗闇に包まれるにつれて、メルがハンターに話しかける頻度が上がったころ、やっと目的地に着いた。
「いえだぁ!」
駆けだすメルにメルの母は呼び止めながらも、苦笑しバウに任せる。
バウも心得ているかのようにメルについていった。
「もう遅いですし、よかったら晩ご飯食べていきますか?」
「いいのか!って喜びたいところだけど、これから他の仕事があるんだ。
気持ちだけ受け取っておくよ」
「まぁ…、あ、じゃあ少しだけ待っててください」
なにか思い出したかのような表情を浮かべたメルの母親は家の方に走り出した。
だけど、向かったのは玄関ではなかった。
暗闇でどこかに消えていったメルの母親はすぐに戻ってくる。
「これ、保存食として作っていた干し芋なんです。よかったら貰ってください」
「…いいのか?」
「ええ!この依頼料も全て国持ち!私の手から報酬金を出したわけではないので、少しだけ罪悪感を感じていたんです」
「プ、ハハハ!そりゃあ素直に貰っておくよ!」
「ええ。ではお気を付けくださいね」
「ああ。…メルも元気でな!」
家の中に入ったメルは、いつまでたっても入らない母親の様子を確認する為に、扉から顔をのぞかせるメルにもハンターは声をかけた。
メルはそこでハンターとの別れに気付き、「おにいちゃんまたね!」と大きく腕を振った。
バウも「ワン!」と大きく吠える。
馬車をひいて、ハンターが去って行く姿を小さくなるまで外で見送り、メルと母親とバウはやっと家に帰ってきたのだった。
☆
そして五年後。
メルは十歳になった。
メルが習ってみたいと言っていた魔法にも挑戦し、あの時メルに魔法を進めたハンターも驚くほどにメルは魔法を使いこなしていた。
「メルちゃん、こっちにも水をやってくれないかー?」
「いいよ!こっちやったら行くから待ってて!」
高齢化し始めているメルの町では若者が多くない。
そして隣町と同じく農業で生活している者が多い為、魔法を操り“簡単に”畑に水を上げるメルは最初は近所から始まり、今では町の殆どから声がかかるほどになっていた。
「ほんと、ありがとうね。これお駄賃だよ」
「わーい!ありがとう!」
「メルちゃんにはね、お世話になっているからね」
だけど決して搾取するわけでもなく、町の人たちの様子にメルの母は物申すわけでもなかった。
時にはお小遣いとしてお金をあげたり、メルの好きなお菓子を作ってあげたり、畑で出来た野菜を分けたりと、町の人たちは出来る範囲でメルに感謝を示す。
そしてメルもいつしか水やりだけではなく、魔法で出来る範囲で町の人たちのお願いごとに答えていた。
「それにしてもメルちゃん疲れてないかい?」
「ううん、全然だよ。なんで?」
「私の息子なんてメルちゃんより年上なのに、ちょっとの魔法を使っただけでバテていたからねぇ。
今じゃ殆どの畑に水をやってるだろう?疲れているんじゃないかって思ったんだよ」
「ん~?ううん、全然疲れてないよ!まだまだ元気いっぱい!…あ、若いからかな!」
「アハハハハ、そうかもしれないねぇ」
笑って話すメルの元に一匹の犬がやってきた。
「ワン!」
「バウ!お母さん呼んでるの?待ってて!
…ごめんね、私もう行くね」
「ああ。今度はお野菜もあげるからね」
「ほんと!?おばあちゃんちの野菜瑞々しくて好きなんだ!嬉しい!」
そしてバウのもとに駆け出したメルは、一度振り向き手を振ってから再び走り出した。
メルが近づき、バウはメルに並ぶ。
大分大きくなったバウは今ではメルの腰ほどに成長した。
後ろ足で立ちあがると恐らくメルと同じか、すこし追い越すであろう。
コイツは本当に犬なのかと、誰もが思っているが、あえて誰も口にしない。
人を襲う事件が一度もなかったためだ。
「今日の昼ごはんはなにかなー?バウ知ってる?」
「ワンワン!」
「なんだろうねー?」
「ワォン!」
噛み合っているのかいないのか、傍から見てもわからないが本人がそれでいいならいいのだと思う。
メルとバウは家に戻ると、母親の作ったパスタとポテトサラダを食べたのだった。
昼食が済み、お腹が膨れたメルはバウを引き寄せて抱きしめながら、ごろりと横になる。
「メールー?食べてすぐに寝ると消化に良くないわよー」
「うーん」
カチャカチャと音をたてながら食器を洗う母は、横になるメルに諫めるが効果はない。
呆れたように笑ったその時だった。
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