偶然な出会いは必然な運命 ~田舎者の聖女が拾った動物は実は魔王だったようで、王子サマに婚約破棄された聖女は大好きな魔王と幸せに暮らします!~

あおくん

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<ドンドンドン>



力強く玄関の扉を叩く音が響き渡る。

小さな家には音がよく通るのだ。



「…誰だろう?」



メルも、メルの母親も思わずつぶやいた。

町の人たちは窓から手を振ったり、ノックをしたとしても優しく叩く為、こんな荒々しい音はたてたりしない。



「メル、お母さんが出るから大丈夫よ」



立ちあがろうとしたメルに声をかけ、濡れた手をふいた母が扉を開けた。

教会のものと思われる服装を身に纏った者が複数人、扉の向こうにいた。



「……教会の方々がどうかしたのですか?」

「こちらのお宅の子供について、再度魔力測定の為に伺った次第だ」

「再測定…?どうしてです?もう結果は出ている筈ですが」

「測定器の不具合が発覚し、改めて測定し直しているのだ。
一人だけが例外ではなく、対象者であれば皆お願いしていることだ」

「……不具合…」

「速やかに対応願いたい」



メルの母は渋った。

もともとメルの魔力量は少し多いくらいだと判定結果を受けていたが、成長するにつれてどんなに魔法を使っても疲れを見せないメルに、なんともいえない不安があったのだ。

だが、魔力測定は国で定められている国民の義務。

守らなければいけない決まり事だ。



「………」



メルの母親は動かなかった。

いや、動くことが出来なかった。

拒否すれば国が定めている決まりごとに異を唱える反逆者として捕らえるだろう。

また許可すれば、おそらく…いや確実にメルは連れていかれると、“感覚”でわかっていた。



メルがいてくれるだけで幸せだった。

毎日が楽しかった。

それはなにもメルの母親だけではない。

町の人たちも同じ思いだった。

だからこそ、例え肌でメルの魔力量を感じ取っても、この子は聖女ではない、ただ魔力が少し多い子、として思い続けてきた。

魔力測定器がそう判断したのだからと、そう思ってきた。



母親の顔から血の気がなくなり、体全体が冷たい水に浸かったかのようだ。



そんな冷たくなった母の手にメルは触れた。

暖かいメルのぬくもりが、冷たくなった母親の手にじわりと広がる。



「…もし、聖女様だと判断されても、家族に会うことは認められていますか?」

「無論だ。我らはそこまで非道ではない」



強い口調に冷たい視線、そして傲慢そうな態度。

メルは目の前に立っている人たちを苦手だと思った。



「……お母さん、私受けるよ」

「メル、!」

「もし私が聖女様になったとしたら、お母さんたくさん会いに来てね。バウも連れて」



そう告げるメルの服を咥え引っ張るバウと、今にでも涙がこぼれ落ちそうな母に、メルは安心させるように微笑んだ。



「ではこれを握れ。田舎の設備とは違く正確に測れる」



手渡された杖を握ると、先端についているカウンターの数値が凄いスピードで増えていく。

カウンターの数値がどれぐらいが平均的な数値なのかはメルにも母にもわからなかったが、数値が十万を超えた頃には、目が乾いてしまうぞと心配するくらい見開かれていた。



「こ、これは…なんと素晴らしい…」

「このような魔力量がこの世に存在するのか…」

「これが聖女と呼ばれる力…」



そのような言葉を口にする教会の者たちに、メルの母の表情が徐々になくなっていく。

メルが聖女だと、この時点でもう宣言されているようなものだった。

それも、教会の者たちが把握していないほどの魔力の持ち主だと。



「貴女は聖女です。我らと共に来ていただきたい」

「………」



拒否権がないことはメルもわかっていた。

十歳という若さながらも、聖女になることを拒否するということは国の決まりに背くという事、それが反逆罪として重罪になることをメルは理解していた。



本当はお母さんと離れたくない。

バウとも離れたくない。

今まで通りに、町のおばあちゃんやおじいちゃんのお手伝いをして、作って貰ったおやつを食べたり、たまにはお話をして、そして笑って過ごしたい。



でも



(拒否できるわけがないじゃない)



「……わかりました」



重い口を開き、メルは答えた。

その瞬間、バウがグルルルルと呻く。

メルの母が必死で宥めようとするが、止まらなかった。



「…バウ。バウも会いに来てね」



メルは微笑みながらそうバルに語り掛ける。

笑っているのに、今にも涙を流してしまいそうなメルの苦しそうな表情に、バウの呻きが止まった。



「絶対だよ」



そして、メルが連れていかれた家にはメルの母親と、バウだけが残された。



















メルは教会の者たちの後に続いて家を出ると、「転移魔法は使えるか」と尋ねられた。

元々“少し魔力量が多い”ということで、魔法を学ぶために本を読んだり、メルの母や町の者たちに教えてもらったりしていたわけだが、どれも生活に必要な魔法しか学んでいなかった。

だから当然のごとく転移魔法は使えない。いや、使うための方法がわからないといったほうが正しいだろう。



「いいえ、使えません」



メルがそう答えると、一つの巻物を渡された。



「その巻物には移動先の情報が示されている。
巻物を破くことによって、魔法が施行される」



巻物を押し付けられたメルは、渡して来た相手の表情を伺いながらも言われた通り巻物を破いた。

すると体が光に包み込まれ、スゥーと体が消えていく。



「こ、これは!?」

「転移魔法が発動されただけだ。安心しろ」



そして次に目を開けた時には景色が全く違っていた。

黄金などの装飾品は一切ないが、精密なデザインの模様が彫られている壁が天井高くまで施され、また美しい色鮮やかなステンドグラスから差し込む光が教会の中を照らしていた。



「貴女にはこれから聖女として、役目を務めていただきます」

「役目…ですか?」



メルの言葉にコクリと教会の者が頷く。



「ええ。この教会には毎日のように聖女の力を求めている者がやってきます。その者たちへの施しと、ポーション作成、国全体への保護結界、そして…」

「ま、待ってください!私一人ではとてもじゃないですが…!」

「勿論私達も貴女に全てを押し付けようとは思っていません。
教会に助けを求めている民に対しての施しは、貴女より魔力量が劣りますが別の者が務めています。
貴女には国全体への保護結界をメインで動いてもらい、余力がありましたらポーション作成をお願いしたいのです」

「国全体の保護結界…ですか?私基本的に生活に必要な魔法だけで、他の魔法は使ったことがないんです…」

「問題ありません。聖女として求められている以上の魔力量をもつ貴女は、魔法の発動もすぐ身につけられます」



それからメルは教会の住居スペースを案内されていく。

食堂にバスルーム、トイレ、そして最後に自分の部屋を紹介されて、メルは部屋へと入った。

机とベッドとクローゼットのみで生活感はなかった。

だけど掃除は定期的にしているのだろうか、もしくはメルの噂を聞き付けた教会が連れ出すことを前提として動いていたからこそ、奇麗なのか。

いずれにしても、生活に必要な物は用意され、これから購入が必要になってくる備品についても教会が代金を支払ってくれるのだと説明されたメルは安心した。



(お母さんに、迷惑かけたくないもんね…)



部屋の中央部分で立ち尽くすメルに、案内をしていた教会の者が声をかける。



「では、貴方には明日から魔法の特訓に当たっていただきます。
貴方の本来の魔力量を測定できなかったのは教会の責任でもありますが…、それでも貴方が五年間。聖女として活動してこなかったのも事実。
明日から厳しく指導させていただきますので、今日中に必要な買い出しは済ませてくださいね」



そう言ってメルにお金を渡した者は去って行く。

転移魔法を使った為まだ陽は上っているが、それでもメルは急いで生活用品を求めに教会を飛び出したのであった。





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