45 / 92
45 アリスとカリウスの今
しおりを挟む
■
「なんでなのよ!」
アリス・カルチャーシは苛ついていた。
ユージンとアリエスの婚約話を、ユージンに敵意を抱いているデクロン公爵夫人であるイマラに告げ口することで、アリスは自分が動かなくても楽に婚約を取り下げることができるだろうと考えた。
アリスの読みは当たり、イマラはアリスからユージンとアリエスの婚約話を知った後すぐに動いた。
だがイマラはアリスとは違う思考で取り下げることを考えていた。
アリスはユージンを公爵の籍のまま男爵家に婿養子としてアリスと婚姻することを望んでいたが、イマラは裕福且つ伯爵令嬢であるアリエスがユージンと婚約することによって、ユージンの後継者としての資格を更に強固なものとなるのではないかという不安に駆られた。
何故ならウォータ領で採掘された宝石はどれも透明度が高く、社交界に顔を出したことがないイマラでもその質の良さは一目瞭然でわかるほどのものだった。
その為公爵家の婚姻相手として見劣りしない伯爵という身分、そして勢いがあり評判のいい領地の娘と婚約することは、贅沢が好きなイマラにも都合がいいと考えられたが、それでも後継者のことを思えば妥協もしたくない話だった。
イマラはデクロン公爵を継ぐのはユージンではなく、自らが産んだ子が継ぐべきだと考えているからだ。
つまりユージンの後押しをするような真似ごとをしたくないと、結果イマラはアリスの意を汲み取る形となったが、それだけだった。
イマラは自分の夫であるセドリック・デクロンにユージンが勝手に進めている婚約話をした。
好きにさせればいいと答えたセドリックだったが、イマラの嘘の供述を信じると眉を顰め、すぐにユージンが出した婚約申し込みの取り下げを行ったのだ。
ユージンの好きにさせてもいいという考えはあっても、セドリックは領地運営もまともにできない貴族とは縁繫がりになりたくないと考えていたからだ。
結果アリスの目論見通り、ユージンとアリエスの婚約話は取り下げられる結果となったが、それでもアリスは苛立ちを露わにしていた。
何故なら絶望に打ちひしがれているはずだろうアリエスは生き生きとした表情を見せ、ユージンといまだに顔を合わせ、交流をとっているからだ。
涙を流し、別れを告げるのならばアリスも最後の別れの挨拶として受け入れられようものだが、そうではない。
ユージンの父であり、デクロン公爵に認められるよう領地で採れる大きな宝石を手土産として相応しいか相談し、また爵位の違いなんて問題ではないのだといわんばかりに、侯爵家であるマリアとキャロリンに礼儀作法を学びなおしているアリエスの姿を見ていれば、まるで明るい未来があると考えていることが手に取るようにわかった。
だからこそアリスは前を向き続けるアリエスに怒りが沸いた。
そしてユージンと今だ仲睦まじい様子を見せるアリエスに嫉妬していたのだ。
ギュウと握り潰されるような痛みが走る心臓を服の上から握りしめ、アリスは鋭い視線を楽し気に口角を挙げるアリエスへと向ける。
「…笑ってられるのも今のうちなんだから……!!」
そうしてアリスは離れた場所でアリエスを睨んでいた。
そんなアリスをカリウスは悲し気な眼差しで見つめている。
可愛かったアリスが変わってしまったように思えたからだ。
そして好きだった内面も、アリスを見ているうちにアリエスとは別人のように思えて、カリウスは頭が痛くなったように感じた。
「アリス……」
正常な人間であればアリスとアリエスは別人のため、内面も外見も違うということは当たり前のことだが、アリスの魅了の影響か、もしくはカリウスの脳がなんらかの信号を出しているのか、カリウスはアリエスとアリスは同一人物であると考えていたのだ。
その為カリウスはアリスを見て、好きだった内面も、可愛かった外見も、今では好ましく思うことが出来ず、それが辛かった。
そしてユージン・デクロンという顔だけの男に入れ込んでいるアリスとアリエスの姿をみるたびに悲しくなった。
お前は俺の婚約者なのにと、既に婚約解消は成立しているはずなのに、カリウスはいまだにアリエスと婚約が続いていると思い込んでいたのだ。
正直ここまでくれば学生生活も思わしくないことは誰が見ても明らかだが、王太子の護衛騎士候補から除外されたカリウスが貴族が通う学園からも除名されては流石に将来に影響が出るということで、“今後関わることがないのなら”とアリエスも承諾したことから学園に通い続けることが可能となったのだ。
そしてアリスも、ユージンに振られ苦しんでいるところをカリウスが連れて去ったことから、カリウスが相手という認識を持たれたことで、二人で仲良くしてねという意味で学園を追い出されることはなかった。
ちなみに王太子としては現代にもいる聖女として、魅了の効果はなくなってしまっても他の力はないのか、国の発展のために人体実験を王家で抱える科学者たちに任せるべきではないかと考えを述べたが、それは学生生活を中断してまでも行うべきことなのかと、まだ未成年の子供を擁護する意見があがったため、実験の話が“先送り”になったことをアリスは知らない。
本人がいないところでの話であるため仕方がないことではあるが、非常に珍しい存在であることは確かな為に、学園を卒業した後は逃れられないだろうと、一生涯を考えたらとても短い学園生活をせめて楽しんでねと、あの日かかわった人物やアリスへの処分を決めた者たちはアリスに対して同情的な部分を少なからず抱いたのであった。
「なんでなのよ!」
アリス・カルチャーシは苛ついていた。
ユージンとアリエスの婚約話を、ユージンに敵意を抱いているデクロン公爵夫人であるイマラに告げ口することで、アリスは自分が動かなくても楽に婚約を取り下げることができるだろうと考えた。
アリスの読みは当たり、イマラはアリスからユージンとアリエスの婚約話を知った後すぐに動いた。
だがイマラはアリスとは違う思考で取り下げることを考えていた。
アリスはユージンを公爵の籍のまま男爵家に婿養子としてアリスと婚姻することを望んでいたが、イマラは裕福且つ伯爵令嬢であるアリエスがユージンと婚約することによって、ユージンの後継者としての資格を更に強固なものとなるのではないかという不安に駆られた。
何故ならウォータ領で採掘された宝石はどれも透明度が高く、社交界に顔を出したことがないイマラでもその質の良さは一目瞭然でわかるほどのものだった。
その為公爵家の婚姻相手として見劣りしない伯爵という身分、そして勢いがあり評判のいい領地の娘と婚約することは、贅沢が好きなイマラにも都合がいいと考えられたが、それでも後継者のことを思えば妥協もしたくない話だった。
イマラはデクロン公爵を継ぐのはユージンではなく、自らが産んだ子が継ぐべきだと考えているからだ。
つまりユージンの後押しをするような真似ごとをしたくないと、結果イマラはアリスの意を汲み取る形となったが、それだけだった。
イマラは自分の夫であるセドリック・デクロンにユージンが勝手に進めている婚約話をした。
好きにさせればいいと答えたセドリックだったが、イマラの嘘の供述を信じると眉を顰め、すぐにユージンが出した婚約申し込みの取り下げを行ったのだ。
ユージンの好きにさせてもいいという考えはあっても、セドリックは領地運営もまともにできない貴族とは縁繫がりになりたくないと考えていたからだ。
結果アリスの目論見通り、ユージンとアリエスの婚約話は取り下げられる結果となったが、それでもアリスは苛立ちを露わにしていた。
何故なら絶望に打ちひしがれているはずだろうアリエスは生き生きとした表情を見せ、ユージンといまだに顔を合わせ、交流をとっているからだ。
涙を流し、別れを告げるのならばアリスも最後の別れの挨拶として受け入れられようものだが、そうではない。
ユージンの父であり、デクロン公爵に認められるよう領地で採れる大きな宝石を手土産として相応しいか相談し、また爵位の違いなんて問題ではないのだといわんばかりに、侯爵家であるマリアとキャロリンに礼儀作法を学びなおしているアリエスの姿を見ていれば、まるで明るい未来があると考えていることが手に取るようにわかった。
だからこそアリスは前を向き続けるアリエスに怒りが沸いた。
そしてユージンと今だ仲睦まじい様子を見せるアリエスに嫉妬していたのだ。
ギュウと握り潰されるような痛みが走る心臓を服の上から握りしめ、アリスは鋭い視線を楽し気に口角を挙げるアリエスへと向ける。
「…笑ってられるのも今のうちなんだから……!!」
そうしてアリスは離れた場所でアリエスを睨んでいた。
そんなアリスをカリウスは悲し気な眼差しで見つめている。
可愛かったアリスが変わってしまったように思えたからだ。
そして好きだった内面も、アリスを見ているうちにアリエスとは別人のように思えて、カリウスは頭が痛くなったように感じた。
「アリス……」
正常な人間であればアリスとアリエスは別人のため、内面も外見も違うということは当たり前のことだが、アリスの魅了の影響か、もしくはカリウスの脳がなんらかの信号を出しているのか、カリウスはアリエスとアリスは同一人物であると考えていたのだ。
その為カリウスはアリスを見て、好きだった内面も、可愛かった外見も、今では好ましく思うことが出来ず、それが辛かった。
そしてユージン・デクロンという顔だけの男に入れ込んでいるアリスとアリエスの姿をみるたびに悲しくなった。
お前は俺の婚約者なのにと、既に婚約解消は成立しているはずなのに、カリウスはいまだにアリエスと婚約が続いていると思い込んでいたのだ。
正直ここまでくれば学生生活も思わしくないことは誰が見ても明らかだが、王太子の護衛騎士候補から除外されたカリウスが貴族が通う学園からも除名されては流石に将来に影響が出るということで、“今後関わることがないのなら”とアリエスも承諾したことから学園に通い続けることが可能となったのだ。
そしてアリスも、ユージンに振られ苦しんでいるところをカリウスが連れて去ったことから、カリウスが相手という認識を持たれたことで、二人で仲良くしてねという意味で学園を追い出されることはなかった。
ちなみに王太子としては現代にもいる聖女として、魅了の効果はなくなってしまっても他の力はないのか、国の発展のために人体実験を王家で抱える科学者たちに任せるべきではないかと考えを述べたが、それは学生生活を中断してまでも行うべきことなのかと、まだ未成年の子供を擁護する意見があがったため、実験の話が“先送り”になったことをアリスは知らない。
本人がいないところでの話であるため仕方がないことではあるが、非常に珍しい存在であることは確かな為に、学園を卒業した後は逃れられないだろうと、一生涯を考えたらとても短い学園生活をせめて楽しんでねと、あの日かかわった人物やアリスへの処分を決めた者たちはアリスに対して同情的な部分を少なからず抱いたのであった。
399
あなたにおすすめの小説
遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした
おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。
真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。
ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。
「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」
「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」
「…今度は、ちゃんと言葉にするから」
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日
佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」
「相手はフローラお姉様ですよね?」
「その通りだ」
「わかりました。今までありがとう」
公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。
アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。
三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。
信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった――
閲覧注意
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる