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10、ヴァルの想い

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眞子を元の世界に戻した数日後、ルンルンと上機嫌に鼻歌を歌うミーラに私は何か嬉しいことでもあったの?と問いかけました。


「お嬢様は侯爵家にいたメイド達がここに来たら嬉しいですか?」


ニコニコと私では叶えることが難しい言葉が返ってきたのです。

そうね。ミーラは侯爵家で働いてたから皆が恋しくなるのも無理はないと思うわ。
私も会いたいなとは思うけれど、今は…ヴァル様がいるしミーラも公爵夫人も、それにここのメイド達も良くしてくれるから寂しいとは感じてなかったわ。


「嬉しいけど…それは私には叶えられそうにないわ…。ごめんねミーラ」

「え!?……あ!違いますよ!寂しいとか、侯爵家に戻りたいとかそういうことじゃないんです!
あの…えっと、た、ただ聞いてみただけですよ!」


なにやら焦った様子で話すミーラだったけれど、ミーラが悲しんでいなくてホッとしたわ。


「あ!もうそろそろ昼食の時間ですね!私ちょっと行ってきます!」


何故そんなことを聞いたのか尋ねようかと思ったのだけれど…、忙しそうなミーラに私は黙って見送ることにしました。
だけど、いつも食事の時間まで私と一緒にいたと思うのだけど…。

とても頼られているのね。よかった。

一人で本を見ながら待っていると、暫くしてミーラが私を呼びに来ました。

本を置いてミーラと共に食堂に向かいます。え?ヴァル様?
ヴァル様は今日は王城に行っているの。

眞子を送り届けた翌日殿下に眞子のことを報告しに行ったのだけれど、私の事を話さなかったのか魔法使いの事を問い詰めるために何日もヴァル様を呼び出しているの。
王族に隠し事はするものではないと私も思っているから、ヴァル様には伝えてもいいとは話してはいるのだけれど…。

でも寂しくはないわよ。だって夕食の時に会えるもの。

…あ、でも今日は早くに戻ると朝に言っていたわ。今から楽しみね。


「アニーちゃん早く座って座って!」


そうして食堂についた時、ニコニコ顔の公爵夫人が私を待っていました。

勿論眞子の事は公爵夫人も把握していますし、将来私のお義母様になる方ですから、私が魔法使いであることも伝えております。


(ミーラも公爵夫人もどうしたのかしら?)


と戸惑いながらも席に座ると、やっと何故ミーラが私に聞いてきたのかその理由がわかりました。


「アニーちゃんに重大発表があります!」

「?それはなんですか?」

「アニーちゃんがヴァルの奥さんになったらね、侯爵家で働いている執事やメイド、使用人たちをこの公爵家で雇いまーす!」


まるで紙吹雪…いえ、背景に大輪の花が咲いたかのような輝かしさで公爵夫人が両手広げて言いました。


「あ、あの…でもそんな事をしたらお父様たちに迷惑がかかってしまいます…!」


勿論私が至らなかったことが原因ですが、お義母様やお義姉様の求めるハードルが高いため、新たに人を雇い育てるほどの余裕は侯爵家にないのです。
それは私が一番よく知っていました。
今の侯爵家の財力では新しい人を雇えても、高いレベルの人は雇えず、結果お義母様そしてお義姉様に迷惑がかかってしまいます。
そうなるとお父様も仕事に集中できなくなり更にミスが増えてしまったら、うまく行っていたお仕事もまた影が差してしまいます。
そんなことあってはなりません。


「アニーちゃんがご家族の事を心配する気持ちはよくわかるわ。
でもね公爵家で雇えないとなると、今侯爵家で働いている人たちは行き場を失ってしまうの。
アニーちゃんに今まで”良くしてくれてた人たち”なんだもの、アニーちゃんが喜んでくれるのならば公爵家で受け入れたいと思っているわ」


何故皆が行き場を失ってしまうのか、それを問いたかったけれど「今は食事の時間よ」と言われてしまった以上、今この場で尋ねることは出来ませんでした。


(ミーラは…知っているのかしら…)


私は首を振ります。


(いいえ。食事が終わったら教えてくれるはず…)


いつもは美味しく感じられる料理がこの時ばかりは喉を通してくれず、かなりの量を残してしまいました。






■■SIDE ヴァル


初めて彼女と出会ったのは学園の廊下ですれ違った時だった。

銀色の髪の毛に薄ピンクの瞳はまるで小動物のようで、”俺”は目が離せなくなり文字通り釘付けだった。

そんな俺を気にも留めずに彼女はまっすぐ前を見据え、握ったら折れてしまいそうな細い足で歩を進める。

そして通り過ぎる際に軽く俺に会釈をした。

不思議な感覚だった。

初めて会ったのにも関わらず彼女に俺の存在を認識してもらった。

出来る事なら彼女を引き止めて、声を聴きたい。
話をしたい。

彼女を思い出すだけで、鼓動が早くなった。


「お前それ一目惚れってやつだね」


そんな俺が相談したのは王族である王子殿下だった。
身分の差はあるが、俺たちは小さな頃からの幼馴染だった為学園では気兼ねなく接していた。


「は?一目惚れ?」

「そうそう。文字通り一目見て恋に落ちるってやつ。
いやーまさかお前がね~~」


にやにやと引き締まらない顔で俺を見上げてくるこいつに不満はあるが、一目惚れという言葉が心にストンと落ちた。


「それで?相手は誰だ?名前は?」

「…………知らん」

「は?」

「…………聞けなかった。彼女を見て、金縛りにでもあったかのように動けなくなった」


顔が赤い自覚はあった。
そして自分のキャラでもない言葉を言っていた自覚もあった。


「……重症だな」


本当に俺もそう思う。








そうして彼女の事を調べて知ったことは、彼女は俺よりも三つ年下という事、そして今年上等部に上がってきたばかりの新入生という事。
名前はアニー・クラベリックといい、侯爵家の嫡子という事。
中等部の頃から優秀な成績を残し、上等部ではまだ中間試験しか行っていなかったが、それでも学年一位の成績でとても優秀な生徒という事は変わらないらしい。
見目も非常に良く、評判は非常に良かった。
だが、その儚い雰囲気から高嶺の花だと広まり、交友関係はうまくいっていないらしい。


(彼女には悪いが他の男が近づかないならば俺としては都合がいい)


とはいっても学年が違う俺は近づくことすらも簡単ではなかった。

まず話すネタがないのだ。

そして当然ながら授業内容も違うし、教える教師も違う。

グダグダして半年が過ぎた頃、彼女が生徒会に任命されてやっと共通点が出来た。

それでも関係は一向に縮まらなかった。

共通点が出来たとしても話題は生徒会の仕事の話で、花が咲くことはなかったのだ。

それから彼女を眺めることが多くなり、知ったことは彼女が読書家という事。

本の話題を振るのならば俺も詳しく知ったほうがいいと考え、彼女の読む本を漁った。

読んで読んで、正直恋愛系は感情移入が出来なかったが、主人公が男の話は何とか会話を続けられそうだった。

そして彼女に話しかけようと決意した時だった。

彼女の母親が亡くなったと連絡があり、彼女は暫く学校に来なくなったのだ。

その間に俺は学園を卒業してしまい、結局彼女とは何もなく終わってしまった。


だがまだ終わっていなかったのだ。

両親が俺に自由を与えてくれたおかげで、彼女の家に縁談の申し込みを行えた。

彼女ならば問題なく妻として認められ迎え入れられる。

残る問題は彼女が俺を夫として好いてくれるかどうかだった。


「ヴァル!あなたね!女性心がわからないの!?」


初めて彼女がやってきた日、俺は母上に叱られてしまった。

彼女に誤解を抱かせないよう、異世界からやってきた女性を殿下の指示の元公爵家で預かることになったと隠すことなく伝えたのがいけなかったらしい。

確かに立場を逆に考えてみたら嫌だと感じた。
婚約者としてきたのに、見知らぬ男を紹介されるなんて…例え二人がそのような関係ではなくとも俺は嫌だ。

誤解してはいないだろうかと思い不安に駆られていると、案の定寝ることが出来ず寝不足に陥ってしまった。

そして次の日一緒に食堂に行く間彼女に確認。
どうやら誤解はしていなそうだったと安堵した。

そして俺は彼女に、学生の頃にはできなかった事をそれはもう考えつく限りのことをした。

彼女に愛を伝えるために真っ赤なバラを沢山用意しプレゼントして、彼女に似合う色の髪留めを贈り、彼女に着て欲しいドレスに靴、身に付けて欲しいアクセサリーをプレゼントした。
中には俺の色をこっそりと使った物もあるが、彼女は身につけてくれるだろうかとドキドキした。

彼女がきて初めての休日。
俺はデートに誘った結果、最高の日になったのだ。

以前確認し問題ないと判断したが、結果を言うと彼女は誤解をしていたのだが、それを解くことも出来たし、なにより彼女も俺を好きだと言ってくれたのだ。

だが一方で新たな問題も出てきた。


「母上。ご相談があります」


家についた俺は母にアニーについて話をしようと母の元を訪れた。


「ちょうどいいわ。私も話をしたいと思っていたの」






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