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6.護衛騎士の事情
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■
大好き、大好きだよ
貴方の笑顔が私の生きがい
愛する貴方の笑顔を見る為に
私は今日も前を向いて生きる
ほら、空を見上げれば
太陽も雲も空も笑って貴方をみているよ
だからどうか貴方も笑って
笑顔を見せて
愛する貴方の笑顔を見たいの
神殿で私は決まった時間に歌を歌う。
具合が悪い人、怪我を負った人、悲しいことがあった人、様々な人が神殿にやってきて私の歌を聞きにきてくれた。
具合が悪かった人は体調が戻り、怪我を負った人は傷が治り、悲しいことがあった人は癒され前向きになれたと笑顔を見せた。
嬉しい。
私の歌で、笑顔を見せてくれる人がこんなにもいることが嬉しいと、私は心からそう思い、神殿を後にする人たちを見送った。
「お疲れ様」
「ありがとう、コンラート」
喉を潤すためにと水を手渡す私の護衛である聖騎士のコンラートは、最初は厳つい顔を貼りつかせていたが今ではよく笑うようになった。
それに神子だからと敬語を使っていたのに、今では敬語も外し、気軽に話すまで親しくなった。
「それにしてもあの歌ってなんなんだ?
聞いたことがなくて、ずっと気になっていたんだが…」
「あれは私が作った歌よ。聞いたことがないのも当然だわ」
え!?と驚くコンラートに私はくすくすと笑う。
「そんな驚かなくてもいいじゃない。
もしかして変な歌だと思ってた?」
「そんなこといってないだろ!?凄くいい歌だと思っていつも聞いているよ!」
「それなら嬉しい」
にっこりと笑って言ってあげればコンラートは照れたように頭をかく仕草をする。
出会ったばかりのコンラートは体が私よりうんと大きく怖いと感じたけれど、こうして私の身長が伸びるとそうは感じないのはなんとも不思議なことだわ。と水分を取りながらコンラートを見上げているとふと思った。
まぁそれでも私より二倍くらい大きいのだけど。
(そうだ。コンラートなら意味を知っているかもしれない)
そう思った私は、本当になにも考えずに尋ねた。
「ねえ、コンラート。
コンラートは”ドエラ”という言葉の意味を知っていたりする?」
「……は?」
先ほどまでは照れて頬を赤く染めていた筈のコンラートが、急に真顔になり私は戸惑った。
「あ、もしかして意味はなかった?それならいいの。大丈夫よ」
「違う。アリシア、お前…その言葉どこで聞いた?」
「え?どこって……」
戸惑う私の気持ちを察してコンラートが首を振る。
「忘れたならいわなくていい。
だが、お前は神殿の神子として活動しているんだから発言には気を付けろ」
真剣な表情のコンラートに、私は戸惑いながらも頷いた。
「わかった。もう言わない。
けど、意味を教えて?私本当にわからないの」
コンラートは私が嘘をいっていないと判断したのか、一つ息を吐き出した後小さく告げた。
「………ドエラは、……古代語で女の奴隷という意味なんだ。
だから平等を掲げる神殿では決して言ってはいけない言葉だ」
「…、ど、れい…?」
ドエラという言葉の意味を知り、私は一瞬目の前が真っ暗になった。
貧血のようにくらりと体を揺らした私をコンラートが支える。
私は手を顔に当て、目を閉じた。
予想はしていた。
王宮から出ると決意したのも、私は最初から王妃に仕組まれ閉じ込められていて、そして手を差し出した王妃の策にまんまとハマったのだと一度目の人生を思い返したからだ。
もう王妃の策にとらわれることがないように、王妃から逃げようと王宮を出た。
なのにドエラが女の奴隷という意味を知った今、どうしようもないくらいショックを受けた。
私は自分でも知らないところで、まだ王妃の事を信じていたのだとでもいうのか。
いや、初めて与えられた自分を表す名前にそんな意味があったのならば、ショックを受けるのも当たり前だと自分自身に語り掛ける。
「アリシアは神子として活動するようになって、一度も休むことなく皆を癒し続けてきたから、きっと疲れがたまってるんだろう。
今日はもう休もう?な?」
私の心中を知らないコンラートが、私を支えながらそう告げる。
この神殿にいる人たちは皆心が温かい。
神官も神官長も、そして護衛騎士であるコンラートも。
「うん。休む、休みたい…」
小さな声でコンラートに返すと、コンラートは私を抱き上げて部屋へと連れて行く。
二十四歳のコンラートに比べたら八歳の私なんてまだまだ子供だけれど、それでも私の精神年齢はもう少し高い。
何故なら一度目の人生ではおそらく十四迄生きていたのだから、今世の八歳を足したら二十二。
つまりコンラートとあまり変わらない精神年齢なのだ。
ちなみに何故おそらくと付けたのは、私が自分の年齢をはっきりわかっていないからだ。
私の体の成長と当時の栄養失調具合から、大体の年齢を計算してくれただけ。
ショックでふらつく体を抱き上げてくれたことは助かるけれど、精神年齢を考えれば恥ずかしくて、私はそっとコンラートの逞しい胸に顔を埋めた。
「なぁ、アリシア。神殿には慣れたか?」
部屋へと向かう途中、コンラートが突然口を開いた。
私は不思議に思いながらも頷いて答える。
「うん、皆優しいから」
「そうだよな。俺の時もそうだったよ」
「コンラートの時?」
そう尋ねるとコンラートは顔をあげた私を見て、目を合わせてから頷いた。
「俺は元々王城の騎士として働いていたんだ。
今からだと八年前になるか?突然解雇を言い渡され、クビになった俺を神殿が受け入れてくれた。
クビになったのは俺に理由があるんだろって誰も雇ってくれなかったのに、神殿だけは違ったんだ。
“実力があるなら結構。あまり給料は多く出せないがうちにこないか?”って言ってくれて、実際に入ると誰も俺を悪く言ったりなんてしなかった」
給与は確かに下がったけどな、と冗談交じりに話すコンラートはとても嬉しそうに見えた。
「どうしてクビになったのかコンラートは知らないの?」
「ああ。全くだ。見当もつかない」
「普段と違う事をしたとか………、もしくはあったとか?」
「普段と違う事なんて…、入りたての俺が規則を破ればすぐにクビになるだろうと毎日真面目に取り組んでいたよ。
………だが、俺自身とは別の事で違う事ならあったぞ」
「なに?」
「関係ないだろうが、子供を押し付けられた」
「子供?」
頷くコンラートだったが、もう部屋に着いたのか私を立たせて「ちゃんと休めよ」と去ろうとする。
私はコンラートにガッシリと抱き着いて、引き止めた。
体の大きいコンラートに、私の腕が短くて一周させることも出来なかったが、それでも足を止めてくれた。
「待って!気になって眠れないよ!
子供を押し付けられたってなに!?コンラートの隠し子!?
旦那がいる奥さんと不倫関係とかそういうやつ!?」
「んなわけねーだろ!どんな本読んでんだお前は!
……“この子は王族の血を継いでいます”そう言ってその日門番を担当していた俺に押し付けた女がいたんだよ」
「王族の血?」
「ああ。随分必死な様子だったぜ。
結局子供を押し付けられたわけだが、丁度そこを通りかかった王妃様に事情を説明して子供を預けたんだ。
その子供が本当に王族の血をひいてたかまでは知らないが、そのすぐ後クビになった。
出生不明の子供を王妃様に預けてしまったが、それは王妃様の指示によるものだ。
つまり俺はなにかをやらかしたわけでもない。
よくわからないだろ?特に何をしたわけでもないのに、俺はクビになったんだ」
そう告げたコンラートは少し不機嫌そうな表情を浮かべていたけれど、私は少し緊張でもしているのか心臓がドクドクと大きく動き始めた。
現在八歳の私と、八年前に子供を押し付けられたコンラート。
その子供は王族の血をひいているという。
もしコンラートが押し付けられた子供が私だったら?
王族の血が私に流れている?
それが気にくわない王妃に虐げられ、そして殺された?
でもなぜ?
何故、王族の血が流れているだけで、王妃に憎まれているの?
________私が、王の……
ああ、だめだ。
考えると無理やりにでも紐づかせてしまうこの頭をどうにかしたくなる。
「話してくれてありがとう。
……私、もう休むね」
「あ?ああ。おやすみ、アリシア」
大好き、大好きだよ
貴方の笑顔が私の生きがい
愛する貴方の笑顔を見る為に
私は今日も前を向いて生きる
ほら、空を見上げれば
太陽も雲も空も笑って貴方をみているよ
だからどうか貴方も笑って
笑顔を見せて
愛する貴方の笑顔を見たいの
神殿で私は決まった時間に歌を歌う。
具合が悪い人、怪我を負った人、悲しいことがあった人、様々な人が神殿にやってきて私の歌を聞きにきてくれた。
具合が悪かった人は体調が戻り、怪我を負った人は傷が治り、悲しいことがあった人は癒され前向きになれたと笑顔を見せた。
嬉しい。
私の歌で、笑顔を見せてくれる人がこんなにもいることが嬉しいと、私は心からそう思い、神殿を後にする人たちを見送った。
「お疲れ様」
「ありがとう、コンラート」
喉を潤すためにと水を手渡す私の護衛である聖騎士のコンラートは、最初は厳つい顔を貼りつかせていたが今ではよく笑うようになった。
それに神子だからと敬語を使っていたのに、今では敬語も外し、気軽に話すまで親しくなった。
「それにしてもあの歌ってなんなんだ?
聞いたことがなくて、ずっと気になっていたんだが…」
「あれは私が作った歌よ。聞いたことがないのも当然だわ」
え!?と驚くコンラートに私はくすくすと笑う。
「そんな驚かなくてもいいじゃない。
もしかして変な歌だと思ってた?」
「そんなこといってないだろ!?凄くいい歌だと思っていつも聞いているよ!」
「それなら嬉しい」
にっこりと笑って言ってあげればコンラートは照れたように頭をかく仕草をする。
出会ったばかりのコンラートは体が私よりうんと大きく怖いと感じたけれど、こうして私の身長が伸びるとそうは感じないのはなんとも不思議なことだわ。と水分を取りながらコンラートを見上げているとふと思った。
まぁそれでも私より二倍くらい大きいのだけど。
(そうだ。コンラートなら意味を知っているかもしれない)
そう思った私は、本当になにも考えずに尋ねた。
「ねえ、コンラート。
コンラートは”ドエラ”という言葉の意味を知っていたりする?」
「……は?」
先ほどまでは照れて頬を赤く染めていた筈のコンラートが、急に真顔になり私は戸惑った。
「あ、もしかして意味はなかった?それならいいの。大丈夫よ」
「違う。アリシア、お前…その言葉どこで聞いた?」
「え?どこって……」
戸惑う私の気持ちを察してコンラートが首を振る。
「忘れたならいわなくていい。
だが、お前は神殿の神子として活動しているんだから発言には気を付けろ」
真剣な表情のコンラートに、私は戸惑いながらも頷いた。
「わかった。もう言わない。
けど、意味を教えて?私本当にわからないの」
コンラートは私が嘘をいっていないと判断したのか、一つ息を吐き出した後小さく告げた。
「………ドエラは、……古代語で女の奴隷という意味なんだ。
だから平等を掲げる神殿では決して言ってはいけない言葉だ」
「…、ど、れい…?」
ドエラという言葉の意味を知り、私は一瞬目の前が真っ暗になった。
貧血のようにくらりと体を揺らした私をコンラートが支える。
私は手を顔に当て、目を閉じた。
予想はしていた。
王宮から出ると決意したのも、私は最初から王妃に仕組まれ閉じ込められていて、そして手を差し出した王妃の策にまんまとハマったのだと一度目の人生を思い返したからだ。
もう王妃の策にとらわれることがないように、王妃から逃げようと王宮を出た。
なのにドエラが女の奴隷という意味を知った今、どうしようもないくらいショックを受けた。
私は自分でも知らないところで、まだ王妃の事を信じていたのだとでもいうのか。
いや、初めて与えられた自分を表す名前にそんな意味があったのならば、ショックを受けるのも当たり前だと自分自身に語り掛ける。
「アリシアは神子として活動するようになって、一度も休むことなく皆を癒し続けてきたから、きっと疲れがたまってるんだろう。
今日はもう休もう?な?」
私の心中を知らないコンラートが、私を支えながらそう告げる。
この神殿にいる人たちは皆心が温かい。
神官も神官長も、そして護衛騎士であるコンラートも。
「うん。休む、休みたい…」
小さな声でコンラートに返すと、コンラートは私を抱き上げて部屋へと連れて行く。
二十四歳のコンラートに比べたら八歳の私なんてまだまだ子供だけれど、それでも私の精神年齢はもう少し高い。
何故なら一度目の人生ではおそらく十四迄生きていたのだから、今世の八歳を足したら二十二。
つまりコンラートとあまり変わらない精神年齢なのだ。
ちなみに何故おそらくと付けたのは、私が自分の年齢をはっきりわかっていないからだ。
私の体の成長と当時の栄養失調具合から、大体の年齢を計算してくれただけ。
ショックでふらつく体を抱き上げてくれたことは助かるけれど、精神年齢を考えれば恥ずかしくて、私はそっとコンラートの逞しい胸に顔を埋めた。
「なぁ、アリシア。神殿には慣れたか?」
部屋へと向かう途中、コンラートが突然口を開いた。
私は不思議に思いながらも頷いて答える。
「うん、皆優しいから」
「そうだよな。俺の時もそうだったよ」
「コンラートの時?」
そう尋ねるとコンラートは顔をあげた私を見て、目を合わせてから頷いた。
「俺は元々王城の騎士として働いていたんだ。
今からだと八年前になるか?突然解雇を言い渡され、クビになった俺を神殿が受け入れてくれた。
クビになったのは俺に理由があるんだろって誰も雇ってくれなかったのに、神殿だけは違ったんだ。
“実力があるなら結構。あまり給料は多く出せないがうちにこないか?”って言ってくれて、実際に入ると誰も俺を悪く言ったりなんてしなかった」
給与は確かに下がったけどな、と冗談交じりに話すコンラートはとても嬉しそうに見えた。
「どうしてクビになったのかコンラートは知らないの?」
「ああ。全くだ。見当もつかない」
「普段と違う事をしたとか………、もしくはあったとか?」
「普段と違う事なんて…、入りたての俺が規則を破ればすぐにクビになるだろうと毎日真面目に取り組んでいたよ。
………だが、俺自身とは別の事で違う事ならあったぞ」
「なに?」
「関係ないだろうが、子供を押し付けられた」
「子供?」
頷くコンラートだったが、もう部屋に着いたのか私を立たせて「ちゃんと休めよ」と去ろうとする。
私はコンラートにガッシリと抱き着いて、引き止めた。
体の大きいコンラートに、私の腕が短くて一周させることも出来なかったが、それでも足を止めてくれた。
「待って!気になって眠れないよ!
子供を押し付けられたってなに!?コンラートの隠し子!?
旦那がいる奥さんと不倫関係とかそういうやつ!?」
「んなわけねーだろ!どんな本読んでんだお前は!
……“この子は王族の血を継いでいます”そう言ってその日門番を担当していた俺に押し付けた女がいたんだよ」
「王族の血?」
「ああ。随分必死な様子だったぜ。
結局子供を押し付けられたわけだが、丁度そこを通りかかった王妃様に事情を説明して子供を預けたんだ。
その子供が本当に王族の血をひいてたかまでは知らないが、そのすぐ後クビになった。
出生不明の子供を王妃様に預けてしまったが、それは王妃様の指示によるものだ。
つまり俺はなにかをやらかしたわけでもない。
よくわからないだろ?特に何をしたわけでもないのに、俺はクビになったんだ」
そう告げたコンラートは少し不機嫌そうな表情を浮かべていたけれど、私は少し緊張でもしているのか心臓がドクドクと大きく動き始めた。
現在八歳の私と、八年前に子供を押し付けられたコンラート。
その子供は王族の血をひいているという。
もしコンラートが押し付けられた子供が私だったら?
王族の血が私に流れている?
それが気にくわない王妃に虐げられ、そして殺された?
でもなぜ?
何故、王族の血が流れているだけで、王妃に憎まれているの?
________私が、王の……
ああ、だめだ。
考えると無理やりにでも紐づかせてしまうこの頭をどうにかしたくなる。
「話してくれてありがとう。
……私、もう休むね」
「あ?ああ。おやすみ、アリシア」
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