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⑧私のためを思っていたわけではなさそうです。
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本来であれば貴族令嬢である私は、例え公爵家の御子息とはいえ爵位を継いでいないアルベルト様と籍をいれたことで平民になるはずでした。
ですが、アルベルト様は騎士団長であります。
騎士団長には準男爵の爵位が与えられるため、アルベルト様の妻である私は貴族夫人として、平民に身分を落とすことはありませんでした。
その為貴族夫人の私が掃除や洗濯を一身に行うことは醜聞であります。
ですがアルベルト様との初夜を通し、私は私の体力の未熟さを痛感し、結果私はお義母様からの提案を受け入れました。
(メイドの仕事を私がやっているのは、お義母様のアドバイス……。
ミレーナ様もそれを知っているのに、何故?)
お酒の影響で楽しそうにしているのはわかりますが、それでも私の体調が悪いことをまるで嬉しそうにしているミレーナ様の様子には疑問を抱きました。
確かに私はベルッサの言う通り、限界が近いです。
今迄やったことがない仕事とその仕事量に、体が悲鳴をあげるようになりました。
明らかな睡眠不足。
水仕事で手は荒れ、本来貴族夫人として私に付けられる筈のメイドたちもお義母様とミレーナ様に付けられている為、私の世話をしてくれるメイドもいません。
その為朝から晩まで働いている私は、自分で調理場に出向き、シェフが作ってくれたご飯を調理場で食べていました。
え?はしたない?でも時間がないんですもの。
食堂に運ぶ時間も手間も惜しいのです。
本来ならば七人で行う筈の仕事は日を追うごとに、私一人へと仕事が集中していきました。
最初は調理場で私が食べ終わるのを待ってくれていたシェフも、日を追うごとに遅くにやってくるようになった私に疲れが見え始めました。
それでも決して嫌な感情を向けられたわけではありません。
寧ろ同情してくれました。
『……今奥様がやっている仕事は本来、奥様がやるような仕事じゃないってのは俺たちにだってわかってるつもりです。
だけど奥様も納得し行っている以上、あの大奥様になにも言えないのが俺たちだ…です。
……奥様には酷だが、思うことがあったら自分の口で言ってください』
そういってくださいました。
だから私も
『私はまだ大丈夫です。アルベルト様が帰ってくるまでに少しでも体力を付けたいので……。だから大丈夫。
それよりももう寝てください。食べ終えたら食器は洗っておきますから』
と答えました。
勿論シェフは首を振りました。
『いや、流石に奥様を残してだなど…』
『いいえ。私は料理はしたことがありませんが、流石に体が弱くなってしまうと味覚にも影響がでることは知っています。
ほら、みて?もう日を跨いでいるわ。睡眠不足が積み重ねると倒れてしまうわ。
あなたも含めて我が家のシェフが倒れてしまったら誰が料理を作ってくれるの?』
『……確かに、俺が倒れて、他のやつらにも移ったら奥様に食べさせる料理が作れねー…です』
『でしょう?』
『じゃあ、明日から先に失礼させてもら…います。だが食器は洗わなくて結構ですよ。
料理は最後の片づけ迄含めて、だと俺は思っていますから』
『わかったわ。ありがとう』
そんなやりとりがあり、今ではシェフも私を待つことはなくなりました。
その為私に声をかけてくれる人もいなくなったのです。
でも寂しくはありません。
私の体調を他の者から伺っているのか、夜分遅くに食べても消化しやすいよう、そして栄養がしっかりととれるように食材にも気を使ってくださっている。
しかも料理をお皿に盛って置いておくのではなく、鍋に布を何重にも巻き、熱が逃げて冷えない対策までとってくれているのです。
そしてその気遣いはシェフだけではありません。
表立って仕事の手助けをしているところを見られれば私が叱咤を受けてしまうと気遣い、メイド達も直接的に手伝うことはありませんが、それでも荒れた手が少しでも治るようにクリームを渡してくれたり、お義母様とミレーナ様が屋敷にいらっしゃらない時間帯は隠れてこっそり手助けをしてくれたりと気を使ってくださいました。
(なんて優しい人たちをアルベルト様は連れてきてくださったのでしょう)
私は心の底から思って感謝をしていました。
ですが、ミレーナ様の言葉も、お義母様が何かを企んでいるような言葉にも嫌な予感が心の中で渦巻きました。
ふらふらする体で後を追い、そして隠れながら壁に体を密着させて三人の様子を伺います。
ズキズキと頭痛が酷いですが、今は自分の体調よりも三人の会話を聞く方が重要なのだと直感しました。
「はい、アルベルト様に届かないようこの屋敷からの手紙は私が仕分けし、逆に来た手紙も全て処分しております」
「それは他の者にはバレていない?」
「勿論です。…そもそも結婚式も小規模、蜜月を過ごすわけでもなく初夜を終えた瞬間仕事に向かわれたとなれば、アルベルト様があの人を愛しているなどという戯言、誰も信じてはございません」
「アハハハハ!確かにね!だって初夜が終わってあの子ったら…」
「「君の為の時間は取れない」」
「アハハハ!いつ聞いても辛辣ね!」
「確かに~!例え忙しくても蜜月くらいは普通は過ごすわよ~!」
「本当よね!」
ですが、アルベルト様は騎士団長であります。
騎士団長には準男爵の爵位が与えられるため、アルベルト様の妻である私は貴族夫人として、平民に身分を落とすことはありませんでした。
その為貴族夫人の私が掃除や洗濯を一身に行うことは醜聞であります。
ですがアルベルト様との初夜を通し、私は私の体力の未熟さを痛感し、結果私はお義母様からの提案を受け入れました。
(メイドの仕事を私がやっているのは、お義母様のアドバイス……。
ミレーナ様もそれを知っているのに、何故?)
お酒の影響で楽しそうにしているのはわかりますが、それでも私の体調が悪いことをまるで嬉しそうにしているミレーナ様の様子には疑問を抱きました。
確かに私はベルッサの言う通り、限界が近いです。
今迄やったことがない仕事とその仕事量に、体が悲鳴をあげるようになりました。
明らかな睡眠不足。
水仕事で手は荒れ、本来貴族夫人として私に付けられる筈のメイドたちもお義母様とミレーナ様に付けられている為、私の世話をしてくれるメイドもいません。
その為朝から晩まで働いている私は、自分で調理場に出向き、シェフが作ってくれたご飯を調理場で食べていました。
え?はしたない?でも時間がないんですもの。
食堂に運ぶ時間も手間も惜しいのです。
本来ならば七人で行う筈の仕事は日を追うごとに、私一人へと仕事が集中していきました。
最初は調理場で私が食べ終わるのを待ってくれていたシェフも、日を追うごとに遅くにやってくるようになった私に疲れが見え始めました。
それでも決して嫌な感情を向けられたわけではありません。
寧ろ同情してくれました。
『……今奥様がやっている仕事は本来、奥様がやるような仕事じゃないってのは俺たちにだってわかってるつもりです。
だけど奥様も納得し行っている以上、あの大奥様になにも言えないのが俺たちだ…です。
……奥様には酷だが、思うことがあったら自分の口で言ってください』
そういってくださいました。
だから私も
『私はまだ大丈夫です。アルベルト様が帰ってくるまでに少しでも体力を付けたいので……。だから大丈夫。
それよりももう寝てください。食べ終えたら食器は洗っておきますから』
と答えました。
勿論シェフは首を振りました。
『いや、流石に奥様を残してだなど…』
『いいえ。私は料理はしたことがありませんが、流石に体が弱くなってしまうと味覚にも影響がでることは知っています。
ほら、みて?もう日を跨いでいるわ。睡眠不足が積み重ねると倒れてしまうわ。
あなたも含めて我が家のシェフが倒れてしまったら誰が料理を作ってくれるの?』
『……確かに、俺が倒れて、他のやつらにも移ったら奥様に食べさせる料理が作れねー…です』
『でしょう?』
『じゃあ、明日から先に失礼させてもら…います。だが食器は洗わなくて結構ですよ。
料理は最後の片づけ迄含めて、だと俺は思っていますから』
『わかったわ。ありがとう』
そんなやりとりがあり、今ではシェフも私を待つことはなくなりました。
その為私に声をかけてくれる人もいなくなったのです。
でも寂しくはありません。
私の体調を他の者から伺っているのか、夜分遅くに食べても消化しやすいよう、そして栄養がしっかりととれるように食材にも気を使ってくださっている。
しかも料理をお皿に盛って置いておくのではなく、鍋に布を何重にも巻き、熱が逃げて冷えない対策までとってくれているのです。
そしてその気遣いはシェフだけではありません。
表立って仕事の手助けをしているところを見られれば私が叱咤を受けてしまうと気遣い、メイド達も直接的に手伝うことはありませんが、それでも荒れた手が少しでも治るようにクリームを渡してくれたり、お義母様とミレーナ様が屋敷にいらっしゃらない時間帯は隠れてこっそり手助けをしてくれたりと気を使ってくださいました。
(なんて優しい人たちをアルベルト様は連れてきてくださったのでしょう)
私は心の底から思って感謝をしていました。
ですが、ミレーナ様の言葉も、お義母様が何かを企んでいるような言葉にも嫌な予感が心の中で渦巻きました。
ふらふらする体で後を追い、そして隠れながら壁に体を密着させて三人の様子を伺います。
ズキズキと頭痛が酷いですが、今は自分の体調よりも三人の会話を聞く方が重要なのだと直感しました。
「はい、アルベルト様に届かないようこの屋敷からの手紙は私が仕分けし、逆に来た手紙も全て処分しております」
「それは他の者にはバレていない?」
「勿論です。…そもそも結婚式も小規模、蜜月を過ごすわけでもなく初夜を終えた瞬間仕事に向かわれたとなれば、アルベルト様があの人を愛しているなどという戯言、誰も信じてはございません」
「アハハハハ!確かにね!だって初夜が終わってあの子ったら…」
「「君の為の時間は取れない」」
「アハハハ!いつ聞いても辛辣ね!」
「確かに~!例え忙しくても蜜月くらいは普通は過ごすわよ~!」
「本当よね!」
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