「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん

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⑫アルベルト様の過去

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『どうしたんだ?兄さん』
『アルは義母と顔をあわせたか?』
『父上の再婚相手だよな?さっき顔を合わせたよ』
『その時父上はどんな様子だった?』
『どんな……?………威圧感、というか…あまり言葉を交わしたくない様子だった。
だから帰省したばかりだったけど、すぐに自室で休みたいと申し出たよ』
『やっぱりな』
『やっぱり?』

義母を紹介された最初、俺は父上の機嫌の悪さは別に理由があるのだと考えていた。
だから兄の言葉に首を傾げた。

『義母がいる場といない場では父上の態度が違うんだよ。
だからいつもより口数が少ないのはアルに原因があるわけでも、事業がうまく言っていないわけでもない。
義母との再婚に納得がいっていないと俺は考えているんだ』
『だけど父上は公爵家当主だ。父上に物を言える貴族なんて…』
『王族がいるだろう』
『……確かに王命とあれば納得いかない相手であっても断ることは出来ない…』
『そうだ。父上の為にも、そしてこれからここで暮らす俺の為にも出来れば別れさせてやりたいが、もし本当にこの再婚が王命であったのならば離縁は不可能だ』

兄の言ったこれから過ごすという発言には、あと少しで学園を卒業するというわけがあった。
兄は長男で公爵家を継ぐ存在だ。
父上からもたくさんの事を引きづぐ事になるため、学園を卒業したら父が過ごすこの家へと戻ることになるだろう。
その際に義母がいることで、いつまでもぎすぎすした状況は耐えられないということだ。

『……離縁が無理なら住む場所だけでも別なら、まだ救いがあるが…』
『それだ!』

それから兄上は自身が今迄に溜めてきた貯蓄を使い、父上の許可を取ってから敷地内に家を建てた。
まさかぎすぎすした状況が耐えられず、一人の空間を味わう為に建てたのかと思ったのだが、兄上は義母にその家をプレゼントしたのだ。

『遅くなりましたが、新しい家族となった記念にささやかながらのプレゼントを贈ります。
素敵な黒髪に似合うドレスやアクセサリー、そして希望していた内装に合わせたお部屋。勿、論他の内装もご用意できるようにと考え、思い切って家を建てました。
父上からの許可も頂いていますので、どうぞお好きに使ってください』

そういって兄上は義母に家をプレゼントをしたのだ。
長期休暇と言っても実際に家で過ごすのはたったの一週間。
だがその一週間で義母の性格は知ることが出来た。

慎み深かった母上とは真逆の浪費家な人間。
貴族だと疑いたくなる目利きの悪さ。
だからか明らかに偽物だと判断できる程のギラギラした輝きを放つ宝石でさえも義母は欲しがり、そして公爵家の金を使って手に入れた。

何もかも母上とは正反対の義母。
そんな義母が兄上からのプレゼントを喜ばないはずがない。
所詮偽物の宝石でも喜ぶ義母に、兄上は派手に見えるドレスに派手に輝くアクセサリーを安値で買い付けた。
唯一高い金を使ったのは建てた家に対してだろう。
よく物を落としたり、気に入らない事があれば壊そうとする義母の行動から、廊下には傷がつきにくいような木材を、投げつけても破れにくい壁紙を、当たり散らしても大きな地震が来ても決して倒れないように家具にはそれぞれ耐震改修もして。
そしてしばらくの間は兄上が建てた家で過ごした義母に、兄も父上も満足した。
それに兄上がプレゼントした家に住まないときには「もう、不要になったのでしょうか?」と悲しげにいえば、取り上げられると危惧した義母が再び住み始める。
その為平和に父上から後継者としての教育を受けていると手紙をくれた。

だが平和だったのはほんの少しの間だったという。

基本的には兄上が建てた屋敷で過ごすことが多くなったのだが、兄上に母として受け入れられたと勘違いした義母は、兄上に嫁候補を集め始めたのだ。
いいと思える女性との出会いを学生時代に過ごすことが出来なかったらしい兄上は、社交界で自分の好みの女性に近い人を探そうとしていたのだ。
というのも兄上の好みの女性は年上らしい。
弟に好みの女性のタイプを語るなと言いたかったが、義母からの嫁候補攻撃の連発に鬱憤が溜まっている兄上の話を妨げることは弟としてできなかった。
次男の兄上と共に話という愚痴、そしてまだであってもいない女性のタイプを語られたのだ。
ちなみに父上も自身が恋愛結婚とのことで、公爵家としての品格を保てる女性であればどんな女性でも歓迎しようといってくれたらしい。
義母は大反発しているらしいが、それでも当主として黙らせたらしい。

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