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㉒旦那様は事情を聞きます。
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(視点変更→シェフ)
◆
「さぁ、詳しく説明してもらおうか…」
声を聞いて恐怖を覚えるというのはこういうことかと、そう思った俺はごくりと唾を飲み込みながら口を開いた。
今俺たちがいるのは奥様がお休みになっている部屋から一部屋挟んだ空き部屋だ。
何故すぐ隣ではないのかと疑問については、ぐっすりと眠る奥様の妨げにならないようにという配慮からだと、新しく雇用主となった旦那様の態度を見てもすぐわかる。
その空き部屋に、俺とメイドのサーシャ、そして旦那様の三人が移動した。
医者の先生はというと、奥様の健康状態をもう少し調べたいということで奥様がお休みになっている部屋に留まった。
一度は健康状態をみたといっても軽く喉の腫れなどを確認しただけで、他に異常があるかの確認は行っていないことから、倒れた奥様に他に異常があるかもしれないと、念のために確認したいのだろう。
しかも奥様は記憶を失っているから尚更そう考えるのも無理はない。
旦那様も奥様の事を考え許可を出した。
「……時間がない…ですからね。俺たちが知っている情報を全て伝え、ましょう」
時間がないというのは、旦那様が帰ってきたことが大奥様に伝わるまでの時間だ。
昨日パーティーに参加した大奥様は深夜に帰ってきたそうだ。
奥様が倒れていたことでバタバタとしてしまったが、朝食を担当した三人は大奥様に胃に優しいものをと希望されたらしい。
また先程旦那様が来る前に姿を見せた大奥様は二日酔いからか不機嫌で、おそらく今は部屋で休んでいるのだろうと考えられた。
二日酔いで機嫌が悪い人に、誰が旦那様が帰ってきたことを知らせるものかとも思うが、大奥様側についているメイドがいることも事実。
まぁそれでも、大奥様が逃げようが、この場に乗り込んでこようが、騎士団長でもある旦那様からは逃げられることも出来ないが、それでも今状況を把握できていない旦那様にとって、情報がなにもないことはかなり不利になる。
性格がアレでも、大奥様は貴族なのだ。
社交活動に頻繁に出向いているせいで、いらない知恵がついている。
「まず俺たちは奥様と大奥様の間になにがあったのか知らないです。
それを前提に話を聞いてください」
「わかった」
旦那様はそういった。
そして早く話せと全身で訴えているが、それでもこれ以上威圧することはなかった。
これも大奥様との違いだろう。
「一月程前、旦那様が仕事に行ったすぐ後、大奥様はこの家に突然尋ねて来ました。
そして俺達使用人を集めてこういった。今後の洗濯と掃除は奥様に任せる、と」
「は!?なんだそれは!?それをお前たちはただ黙って聞いていたのか!?」
「……俺たちは使用人です。使用人に対する仕事の方向性の変更を雇用主が認めたら従わなければならないでしょう」
「お前たちの雇用主は俺だ!俺が屋敷にいない以上、決定権は配偶者であるメアリーになるはずだ!」
旦那様の言葉はもっともだった。
そしてそれは雇われた者たちも理解していた。
だからこそ、皆が集められた時大奥様の言葉に誰もが戸惑いを隠せなかったのだ。
「その奥様が承諾していたのです!!!」
「…なんだと…?」
俺が言おうとしていた言葉を、メイドのサーシャが声を荒げながら答えた。
涙をいっぱいに溜め、今にも零れ落ちそうになるのを堪えながら、サーシャは旦那様を真っすぐに見ていた。
だからこそ、旦那様も戸惑いのまま声を荒げることなく、サーシャに続きを促した。
「夫人が宣言した際奥様はなにも反論しようともしませんでした。
それどころか、公爵夫人に従い掃除の仕方をお伝えした私にお礼の言葉を告げたのです。
奥様が納得されている以上、私達には受け入れるしかないではないですかっ……」
「……それでも、これが異常であることだと思わなかったのか?」
「思いました!!だからこそ旦那様に状況をお伝えすべく何度も手紙を出しました!私だけではありません!他のメイド達も出したと!そう言っていました!」
「メイド達だけではなく、俺たちからも手紙を出しました」
サーシャの言葉に便乗し俺も手を上げてそう答える。
「…そんな手紙は受け取っていない」
「それはそうですよ!!!夫人が手をまわしていたんですから!!」
「どういうことだ…?」
◆
「さぁ、詳しく説明してもらおうか…」
声を聞いて恐怖を覚えるというのはこういうことかと、そう思った俺はごくりと唾を飲み込みながら口を開いた。
今俺たちがいるのは奥様がお休みになっている部屋から一部屋挟んだ空き部屋だ。
何故すぐ隣ではないのかと疑問については、ぐっすりと眠る奥様の妨げにならないようにという配慮からだと、新しく雇用主となった旦那様の態度を見てもすぐわかる。
その空き部屋に、俺とメイドのサーシャ、そして旦那様の三人が移動した。
医者の先生はというと、奥様の健康状態をもう少し調べたいということで奥様がお休みになっている部屋に留まった。
一度は健康状態をみたといっても軽く喉の腫れなどを確認しただけで、他に異常があるかの確認は行っていないことから、倒れた奥様に他に異常があるかもしれないと、念のために確認したいのだろう。
しかも奥様は記憶を失っているから尚更そう考えるのも無理はない。
旦那様も奥様の事を考え許可を出した。
「……時間がない…ですからね。俺たちが知っている情報を全て伝え、ましょう」
時間がないというのは、旦那様が帰ってきたことが大奥様に伝わるまでの時間だ。
昨日パーティーに参加した大奥様は深夜に帰ってきたそうだ。
奥様が倒れていたことでバタバタとしてしまったが、朝食を担当した三人は大奥様に胃に優しいものをと希望されたらしい。
また先程旦那様が来る前に姿を見せた大奥様は二日酔いからか不機嫌で、おそらく今は部屋で休んでいるのだろうと考えられた。
二日酔いで機嫌が悪い人に、誰が旦那様が帰ってきたことを知らせるものかとも思うが、大奥様側についているメイドがいることも事実。
まぁそれでも、大奥様が逃げようが、この場に乗り込んでこようが、騎士団長でもある旦那様からは逃げられることも出来ないが、それでも今状況を把握できていない旦那様にとって、情報がなにもないことはかなり不利になる。
性格がアレでも、大奥様は貴族なのだ。
社交活動に頻繁に出向いているせいで、いらない知恵がついている。
「まず俺たちは奥様と大奥様の間になにがあったのか知らないです。
それを前提に話を聞いてください」
「わかった」
旦那様はそういった。
そして早く話せと全身で訴えているが、それでもこれ以上威圧することはなかった。
これも大奥様との違いだろう。
「一月程前、旦那様が仕事に行ったすぐ後、大奥様はこの家に突然尋ねて来ました。
そして俺達使用人を集めてこういった。今後の洗濯と掃除は奥様に任せる、と」
「は!?なんだそれは!?それをお前たちはただ黙って聞いていたのか!?」
「……俺たちは使用人です。使用人に対する仕事の方向性の変更を雇用主が認めたら従わなければならないでしょう」
「お前たちの雇用主は俺だ!俺が屋敷にいない以上、決定権は配偶者であるメアリーになるはずだ!」
旦那様の言葉はもっともだった。
そしてそれは雇われた者たちも理解していた。
だからこそ、皆が集められた時大奥様の言葉に誰もが戸惑いを隠せなかったのだ。
「その奥様が承諾していたのです!!!」
「…なんだと…?」
俺が言おうとしていた言葉を、メイドのサーシャが声を荒げながら答えた。
涙をいっぱいに溜め、今にも零れ落ちそうになるのを堪えながら、サーシャは旦那様を真っすぐに見ていた。
だからこそ、旦那様も戸惑いのまま声を荒げることなく、サーシャに続きを促した。
「夫人が宣言した際奥様はなにも反論しようともしませんでした。
それどころか、公爵夫人に従い掃除の仕方をお伝えした私にお礼の言葉を告げたのです。
奥様が納得されている以上、私達には受け入れるしかないではないですかっ……」
「……それでも、これが異常であることだと思わなかったのか?」
「思いました!!だからこそ旦那様に状況をお伝えすべく何度も手紙を出しました!私だけではありません!他のメイド達も出したと!そう言っていました!」
「メイド達だけではなく、俺たちからも手紙を出しました」
サーシャの言葉に便乗し俺も手を上げてそう答える。
「…そんな手紙は受け取っていない」
「それはそうですよ!!!夫人が手をまわしていたんですから!!」
「どういうことだ…?」
2,015
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