魔物好きゲイテイマーの異世界転生記

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第3章 シュルトーリア

豪弓

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魔道具の開発が終わった俺は続けて弓を取り出した。昨日の盗賊討伐にダブは素手で向かったがちゃんとした武器を用意してやりたい。

「そのために見本になる弓を買ってきたわけだしな。」

まず弓から弦を外し、作るべき弓本体の形を調べる。中央は緩やかな曲線を描き、両端がわずかに反対に反り返っている。

「まずは単純に大きさだけ変えてこの形を真似てみるか。」

弓の大きさを決めるためにダブを呼び戻す。買ってきたしなる木材を持たせ、自分が弓を持った時と比べて木材の大きさを決める。

大きさが決まったら木材をナイフで削って弓の形を作っていく。ナイフには彫刻刀で魔法陣を刻む時のように魔力を流して強化しているので粘土を削るみたいに簡単に削れる。30分ほどで大まかな削り出しが終わり、中央から対称になるようにバランスを見ながら細かく削っていく。

削り出しが完了したらやすりで表面の凹凸を均していく。削り過ぎてバランスが崩れないように注意する。最後に弦を張るが弦を用意していなかったので鉄のインゴットをワイヤーに変形させて弦の代わりに張って一応完成だ。

同じ物をもう一張作る。さらに弓のサイズに合わせて木材を細い棒状に切り出して、弦を掛ける溝を作って簡易的な矢の代わりも作っておく。羽も矢じりも付いてないが弓の試し打ちには十分だろう。

「ダブ、ちょっと来てくれ。」
「(主様、どうした?)」

俺が声を掛けると川辺で魚を追いかけていたダブがノソノソのやってきた。

「こいつのテストがしたいんだ。」
「(分かった。オデ、どうすればいい?)」
「これが弓。これが矢。まずはこれを持って。」

俺はひとまず上の腕に弓と矢を持たせ、下の腕は手を腰に当てるポーズをとらせる。

「そうしたら弓を持った腕を横に伸ばして。矢の端にある溝にこの弦に掛けてゆっくり引いて……。」

弓を引く真似をして見せたり、ダブの腕を動かしたりしてダブに弓を引く動作を教えていく。ダブは弓の硬さを感じさせない滑らかな動きで弓を引き切った。

「矢を持つ手を放すと矢が飛んでいくから矢が真っ直ぐそこの木に向かうように狙って。狙いが定まったら矢を放す。」

俺がそういうとダブが矢を放し、放たれた矢は狙いを逸れて木の横を抜けていった。

「(主様。ごめん、なさい。オデ、失敗した。)」
「いや、狙いは外れたけどしっかり飛んだからな。十分成功だ。だから気にするな。」

しょんぼりとした様子のダブの頭を撫でてやると顔を綻ばせ「へへへ」と笑った。さらに下の腕を使ってもう一張持たせてみるがやはり弓の二張持ちは無理みたいだ。一通りの確認を終え、弓についてや弓を射る時の動作等を改めて説明してダブに弓の感想を聞いた。

「(この弓、引くの簡単。もっと、硬い?強い?弓使える。)」

やっぱりダブにはただの木で出来た弓は柔らかすぎるみたいだ。

「じゃあもっと硬い素材で作ってみようか。その間にこの弓と矢で練習しててくれるか?」
「(分かった。)」

追加で作り足した矢を持たせダブに一張で弓の練習をさせる。その間にもっと強い弓の素材を考える。

「もっと硬い弓ってなると複合弓か。でもダブが弓を引く様子を見るとそれもな……。」

軽々と弓を引くダブの様子を見て、複合弓でもベースが木材だと強度が足りないように思える。それに腰に当ててる腕が勿体ない。

「それでも試しに作ってみるしかないか。」

鉄のインゴットを取り出すと使っていない弓を覆う様な形で変形させる。それをダブに使わせるとやはり易々と引き切り、矢を放って見せた。

「こうなるともっと硬い素材でベースになる弓を作るかもっと大型化するかだな。……いっそのこと両方するか。」

俺は弓から鉄のカバーを取り外すとその鉄にさらに鉄のインゴットを追加して弓の形を作る。しなり易いように棒状ではなく板状にする。弦を掛けやすいように先端付近は少し細くなるようにしておく。何とか魔力が尽きる前に出来上がった弓の大きさは先ほど木で作った弓よりも大きい。

こうなるとサイズ的にも弓の硬さ的にも俺では弦を掛けることができない。ダブに弦の掛け方を教えて弦を掛けさせる。そのままダブに試しに持たせてみると先ほどの弓の下側の端が腰の位置だったのに対してこれは膝寄り少し上くらいだ。

「バランスは問題なさそうだな。」

今度は弓の大きさに合わせて矢も用意する。先ほどの矢だと長さが足りない上に、ダブが使うには細すぎるのか練習中に矢を持っただけで何本か折ってしまっていた。そこで長さと太さを調整する。

「これじゃあまるで槍だな。」

できあがった矢は俺が槍のように扱うのにちょうど良さそうな長さと太さになってしまった。

「これを使って引けるか?」

新しい弓と矢を渡すとダブは弦に掛けて弓を引くが半分程引いた所で止まってしまった。

「そのままじゃ無理そうだな。それじゃあ下の腕も使ったらどうだ?」

ダブに左側の上下の腕で弓を持たせ、右の上の腕で矢を左の腕の間で番える。右の下の腕で上の腕の手首を持って両手で弓を引くと無事引き絞ることができた。

「よし。そのまましっかり狙って……放て!」

俺が号令を出すとダブは矢を放ち、その矢は狙った木の幹に当たって尖らせた先端が砕けた。

「……まるで固定式の大型弩だな。バリスタだったか?」

自分で作っておきながらその威力に頬が引きつる。

「(この弓、腕4本使って、ちょうどいい。)」
「そうか。……じゃあひとまずダブ用の弓はそれで完成だな。」
「(分かった。……へ、へへへ。オ、オデの為に、主様が、作ってくれた弓。)」

思ったより高い威力に思わず頬が引き攣るが嬉しそうにするダブの顔を見るとその弓を取り上げてお蔵入りさせる選択はできなかった。

「矢を大量に作っておかないとな……。」

矢は特注サイズになるため自分で作るか武器屋に発注しないといけない。嬉しそうに弓を撫でたり何度も構えたりを繰り返すダブを見ながら俺は羽が付いていない、先端をとがらせただけの矢モドキを量産していった。
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