棘薔薇呪骨鬼譚《イバラジュコツキタン》

智郷めぐる

文字の大きさ
25 / 56

第二十五話:華

しおりを挟む
「そっち行ったぞ!」
「囲め囲め囲めぇぇえええ!」
 祇宮祭ぎぐうまつりが始まり、楽しい時間を過ごした一日目の夜、さっそく凶鬼きょうき妖魔もののけたちが人肉もとめて巣から出て来始めた。
 夜警は当番制。わたしと竜胆はさっそくそれにあたっている。
 特級を含む陰陽術師や僧侶、神職、祈祷師、まともな呪術師などがいくつかの組を作り、魔物たちを包囲殲滅している。
 あちこちから聞こえてくる怒号が、これから毎夜訪れる戦闘のすさまじさを物語っている。
「すごいわねぇ! もう、こんなのアドレナリン出過ぎてハイになりそう!」
「そう言っていられるうちはいいんですけどね! 最終日にはみんなズタボロになってますよ!」
 わたしと竜胆はいつも通り二人で行動しているが、さすがにきつい。
 だからといって他の人も足して組めば、竜胆の瘴気で傷つけてしまう。
 結局、二人でどうにかするしかないのだ。
「精霊種呼ぶわ!」
「お願いします!」
 きりがない。普段は仲の悪い凶鬼きょうき妖魔もののけが、この期間は互いを邪魔しない契約でもしているのか、徒党を組んで襲ってくるのだ。
 杖を地面に突きたて、身体を蝕んでいるのとは違う棘薔薇いばらを地面には這わせ、魔物の四肢の自由を奪う。
 素早く杖を刀に変え、一刀両断。
 それでも抜け出し襲い掛かってくる魔物に関しては刃を交える。
 魔物の爪と刀が弾き合い、火花が散る。
 相手の踏み込みを横に飛んで避け、そのまま一歩後ろへ下がり、反動で地面を蹴りだし前へ。
 魔物の首を斬り落とす。
「やっるぅ!」
「竜胆、後ろ!」
 竜胆は大鎌を掲げると、しゃがみ、回転しながら下から大鎌を振り上げた。
 魔物が真っ二つに裂かれて頭上を飛んでいく。
「流石ですね」
禍ツ鬼マガツキがその子分たちに負けるわけないじゃないの」
 竜胆が大鎌で地面を殴りつけると、そこからすさまじい量の瘴気が噴出し、魔物を引き付ける。
――こちらにおいで。餌があるぞ。とびきりの上物が。
「じゃんじゃんいこう!」
「はぁ……」
 目の端で何かが光った。鈍い白。
 わたしは反射的にそれを避け、飛んできた方向に刀を構えた。
「人間に何かが混じっていると思ったら……、お前か、仙子せんし族」
「わたしはあなたのことなど知りません」
 大きな斧を持った凶鬼きょうきが立っていた。
 灰色の肌に返り血。頭を貫く二本の角には人間の破片がついたままだ。
 先ほど投げたのは、殺した人間の骨だったのだろう。
 肋骨の一つが地面に落ちている。
「俺もお前など知らん。ただ、昨年だったか……。仙子せんし族の男に父が殺された。その恨み、お前で晴らさせてもらおう!」
 そんな話を聞いても、わたしは「さすが我が兄」としか思わない。
 恨まれるのには慣れている。
火状発破かじょうはっぱ!」
 灰色の凶鬼きょうきは全身から赤い炎を上げ、襲い掛かって来た。
 振り下ろされた斧を避け、斬りつけようと距離を詰めると、身体中をうねる炎が火の粉となって降りかかってくる。
(近づくのは危険)
「仙術、雪魄氷姿せっぱくひょうし空翔くうかケル」
 刀に梅の模様が浮かび、冷気を帯びていく。
「それは……、それはあの男の術と同じ! お前、知っているのだな!」
「兄ですから」
 わたしは跳びあがり、身体を回転させ、刀から斬撃を飛ばした。
 それは冷たい梅の花弁となり、灰色の凶鬼きょうきの身体を貫いていった。
「うわあああああ!」
 花弁が刺さった場所から氷の梅が咲き乱れ、黒く染まっていく。
 流血は花となり、止まることを知らない。
「くそ! くそ! くそ仙子せんし族め! 同じ幽界かくかいの存在のくせに、なぜ人間に味方をする!」
「違う。お前たちは幽界かくかいの住人ではない。反転世界インヴァーテッドワールドの魔物だ」
 わたしは再び斬撃を飛ばし、凶鬼きょうきの首を胴体から跳ね飛ばした。
 休んではいられない。竜胆の瘴気に連れられて、まだまだ魔物は集まってきている。
 少しでも隣の戦場であえいでいる新人陰陽術師たちの命を救うために、もう少し無理を続けなければならない。
「竜胆、そちらはどうですか」
「雑魚ばっかりよ。こんなんじゃ、なまっちゃうわ」
 その時、悲鳴が響き渡った。
 陰陽術師の一人だ。
「助けに行かなくちゃ」
「ここは大丈夫。行って、翼禮よくれい
「ありがとうございます」
 わたしは走って隣の戦場へと向かった。
「小僧ども、小娘だけ残して立ち去れ!」
 先ほどの灰色の凶鬼きょうきと同じくらいの大きさの凶鬼きょうきたちが四体。
 新人たちはそれまでは善戦していたのだろう。二十人いたはずだが、死んでいるのは二人。
 そこまで数は減っていない。
 ただ、今にも死にそうなのが五人、凶鬼きょうきの前で息を切らしながら流血している。
「退いてください!」
 わたしの声に反応し、後退を試みる新人たち。
 しかし、三人が捕まってしまった。
「……お前、人間じゃないな」
「その三人を放してください。代わりに、わたしと殺りあいましょう」
「ばかめ。人間は喰えるが、お前は毒だ」
 一人の首が折られた。
 背後で小さく悲鳴が上がる。
「放せと、言ったはずだ」
 なりふり構っていられない。
 わたしは新人たち全員に退却を命じた。
「これから使う仙術はあなたたちでは防ぎきれず、巻き沿いを喰らいます。逃げてください」
「で、でも!」
「はやく行け!」
 強く言うしかなかった。
 新人たちは泣きそうな顔で頷き、まだ生きている仲間を引きずって退却していった。
「仙術、雷轟電撃らいごうでんげき死ヲまとイ」
 わたしは空に向かって杖を掲げた。
 純白の強い電撃が太い柱となってそこかしこに降り注いだ。
「ぐあああ!」
 一人、二人、三人と焼け死んでいく。しかし、一体だけはすべての電撃を避け、こちらに近づいてきた。
 強い呪術を使ったせいで、素早く反応できなかった。
(一撃、避けきれないっ)
 せめて杖で衝撃を和らげようとした瞬間、目の前に黒い何かが現れ、わたしを横抱きにしてその場から跳び退いた。
「え、あ……あ」
 わたしはすぐにその腕から抜け出した。
翼禮よくれい様、間に合ってよかったです」
「は、花折……。なぜここに!」
 わたしが叫んだのと同時に、凶鬼きょうきが大剣を振り降ろしてきた。
 花折は笑顔のまま凶鬼きょうきの方へ振り向くと、手の中で何かを砕いた。
 すると、その破片が弾丸のように凶鬼きょうきの口の中へと入り、凶鬼きょうきの動きを止めた。
 凶鬼きょうきは喉を抑え、苦しみだし、次の瞬間には内側から破裂した。
「どうですか? 面白いでしょう、翼禮よくれい様」
 わたしは杖を構えた。
「なぜこんなところにいるのです」
翼禮よくれい様をお救いするためです。それに……」
 背後から声が聞こえてきた。
「ああ、こんなところまで来ていたのか、透華とうか。……お、これはこれは、杏守あんずのもりのお嬢さんですね」
「……どうも。呪術師のみなさん」
「こいつ、なんかやらかしました? 本当にすみません。いつもは大人しいんですけど、突然、『好きな子を救いに行かなくちゃ!』って……。え、ってことは……」
 透華とうか、と呼ばれた花折は頬を赤らめながらうなずいた。
「先輩方、すみませんでした。でも、ちゃんと救えました」
 三人の呪術師たちは「おおお……」と感嘆しながらうなずいている。
 何が何だかわからないのはわたしだけのようだ。
「じゃぁ、また……。翼禮よくれい様、いつでもお救いします」
 花折こと透華とうかはこれまでにないほど優しい笑みを浮かべて先輩呪術師たちと共に持ち場へ戻っていった。
 わたしは握った杖をどうしたらいいかわからず、ただひたすら嫌悪感と困惑と戦っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【短編】記憶を失っていても

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。  そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。  これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。 ※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?

akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。 今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。 家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。 だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?

処理中です...