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温かい風を吹いたが、全身が凍えるように冷たかった。
心は冷え切ってしまい、しかしそれが逆に私を冷静にさせた。
「……私は止めておきます。エリーの墓なんかには触れたくもないので」
身を切る思いでそう告げると、フィルは「それもそうだな」と笑う。
私は倒された自分の墓石を見つめ、作り物の笑顔を浮かべた。
……その日から、私の中に復讐心の炎が静かに燃え始めた。
その炎にフィルへの愛情は次第に燃やされていき、やがて亡くなった。
彼は私を殺し、その墓石を蹴って侮辱したのだ。
そんな最低な男を許せるわけがなかった。
しかし、だからといって、今すぐに行動をしてフィルを地獄に突き落とせるほど、私は強い女性ではなかった。
もちろん私の性格が気弱だということもあるが、レベッカの問題もいくつかあった。
まずレベッカはフィルよりも爵位の低い、伯爵家の出身らしかった。
部屋の引きだしに家族からの手紙が残されていて、そこに伯爵家の紋章が描かれていたのだ。
しかし、彼女の実家は隣国にあるみたいで、実家とも仲が悪く、手紙の内容も彼女を侮辱するようなものだった。
レベッカの両親は、昔から彼女に厳しくしていたらしい。
時に暴言や体罰も行っていて、レベッカはそれを苦にして国を出たのだという。
私が彼女に生まれ変わったのも、同じような家庭環境という不思議な縁からかもしれない。
しかし何より問題であったのが、レベッカが周囲から避けられているということだった。
どうやら彼女は普段から横暴な態度を取っていたみたいで、幼馴染の侍女を除いて、近寄る者は誰もいなかった。
すでに中身が私になって半年が過ぎているというのに、周囲の目は変らないので、よっぽど嫌われていたのだろう。
家柄にも仲間にも頼れない女のいうことを誰が信じるだろうか。
私がいくらフィルの愚行を発言したところで、公爵家である彼の権力で押し潰されるのが関の山だった。
しかしだからといって諦めるわけにもいかない。
何かしらのヒントを得ようと、幼馴染の侍女であるマドに話を聞いてみることにした。
……その日、私の髪を結っていたマドに、私は話しかける。
「ねえマド。少し聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」
「え? あっ、は、はい!」
鏡に映る彼女は怯えたように目を見開く。
やはりまだ気を許してはもらえてないようだ……私は意を決して口を開いた。
「あの……こんな話信じてはくれないかもしれないけど……」
相手に好かれたいのなら、素直になる以外なかった。
私は自分が本当はエリーという人間だということ、フィルに殺されて、レベッカに生まれ変わったことは話した。
マドは髪を結っている手を止めて、私の話に聞き入っていた。
「……ということなの。私はフィル様を……いや、フィルを何としても断罪したい。でもレベッカには何もない……どうすればいいのか分からないの」
目頭が熱くなった。
この体に生まれ変わって半年たって、やっと悔しさが込み上げてきたようだ。
半ば愚痴のような私を聞き終えたマドは、眉間にしわを寄せて困惑を露わにしていた。
「レベッカ様の話はその……到底信用できるものではありません。し、しかし……最近のあなたを見ていて、どこか雰囲気が違うと私は秘かに思っていました」
「……え?」
わずかばかりの期待を抱いて、私は振り返る。
マドは苦笑すると言葉を続けた。
「昔のように敬語は止めてもいいですか? それがあなたを信じる条件です」
私は立ち上がると、笑顔で彼女を抱きしめた。
「もちろんよ! マド!」
心は冷え切ってしまい、しかしそれが逆に私を冷静にさせた。
「……私は止めておきます。エリーの墓なんかには触れたくもないので」
身を切る思いでそう告げると、フィルは「それもそうだな」と笑う。
私は倒された自分の墓石を見つめ、作り物の笑顔を浮かべた。
……その日から、私の中に復讐心の炎が静かに燃え始めた。
その炎にフィルへの愛情は次第に燃やされていき、やがて亡くなった。
彼は私を殺し、その墓石を蹴って侮辱したのだ。
そんな最低な男を許せるわけがなかった。
しかし、だからといって、今すぐに行動をしてフィルを地獄に突き落とせるほど、私は強い女性ではなかった。
もちろん私の性格が気弱だということもあるが、レベッカの問題もいくつかあった。
まずレベッカはフィルよりも爵位の低い、伯爵家の出身らしかった。
部屋の引きだしに家族からの手紙が残されていて、そこに伯爵家の紋章が描かれていたのだ。
しかし、彼女の実家は隣国にあるみたいで、実家とも仲が悪く、手紙の内容も彼女を侮辱するようなものだった。
レベッカの両親は、昔から彼女に厳しくしていたらしい。
時に暴言や体罰も行っていて、レベッカはそれを苦にして国を出たのだという。
私が彼女に生まれ変わったのも、同じような家庭環境という不思議な縁からかもしれない。
しかし何より問題であったのが、レベッカが周囲から避けられているということだった。
どうやら彼女は普段から横暴な態度を取っていたみたいで、幼馴染の侍女を除いて、近寄る者は誰もいなかった。
すでに中身が私になって半年が過ぎているというのに、周囲の目は変らないので、よっぽど嫌われていたのだろう。
家柄にも仲間にも頼れない女のいうことを誰が信じるだろうか。
私がいくらフィルの愚行を発言したところで、公爵家である彼の権力で押し潰されるのが関の山だった。
しかしだからといって諦めるわけにもいかない。
何かしらのヒントを得ようと、幼馴染の侍女であるマドに話を聞いてみることにした。
……その日、私の髪を結っていたマドに、私は話しかける。
「ねえマド。少し聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」
「え? あっ、は、はい!」
鏡に映る彼女は怯えたように目を見開く。
やはりまだ気を許してはもらえてないようだ……私は意を決して口を開いた。
「あの……こんな話信じてはくれないかもしれないけど……」
相手に好かれたいのなら、素直になる以外なかった。
私は自分が本当はエリーという人間だということ、フィルに殺されて、レベッカに生まれ変わったことは話した。
マドは髪を結っている手を止めて、私の話に聞き入っていた。
「……ということなの。私はフィル様を……いや、フィルを何としても断罪したい。でもレベッカには何もない……どうすればいいのか分からないの」
目頭が熱くなった。
この体に生まれ変わって半年たって、やっと悔しさが込み上げてきたようだ。
半ば愚痴のような私を聞き終えたマドは、眉間にしわを寄せて困惑を露わにしていた。
「レベッカ様の話はその……到底信用できるものではありません。し、しかし……最近のあなたを見ていて、どこか雰囲気が違うと私は秘かに思っていました」
「……え?」
わずかばかりの期待を抱いて、私は振り返る。
マドは苦笑すると言葉を続けた。
「昔のように敬語は止めてもいいですか? それがあなたを信じる条件です」
私は立ち上がると、笑顔で彼女を抱きしめた。
「もちろんよ! マド!」
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