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使用人に渡された紅茶入りのカップが、突然に割れた。

「きゃっ!」

私と彼女は同時に声を出し、少しの間固まってしまう。
いち早く我に返った使用人が「拭くものを持ってきます!」と言って部屋を出て行く。
カップから飛び出した紅茶は床に染みを作っていて、それを見ていたらなぜか背筋が寒くなった。

「……」

嫌な予感に苛まれていると、使用人が戻ってきて、手早く片づけをした。
床にこぼれた紅茶は綺麗に拭き取られ、カップの破片も一つ残らず回収された。
しかし、私の心の中にはまだ、言い難い不安が残っていた。

「アカネ様、申し訳ありません」

使用人が頭を下げ部屋を去っていく。
それと入れ違いに、父が部屋に入ってきた。

「アカネ。今すぐ支度をして応接室に来い。お前に客だ」

……支度を終え、応接室に入ると、中央のソファーに美しい女性が座っていた。
まるで貴族のように豪華な衣装に身を包んでいる。

「あなたがアカネ様ですね。ブルーノ王子の婚約者の」

「は、はい!」

透き通るような美しい声に、私はうっとりしながらカーテシーをする。
すると彼女がふふっと笑う。

「あまり綺麗なカーテシーではないわね。この国の貴族様はあまりそういうことは勉強なさらないのかしら?」

「……え?」

辛辣な言葉に、一瞬聞き間違いかと思ってしまう。
だが、彼女は見せつけるように、私よりも何倍も美しいカーテシーを披露して言った。

「これが本来のカーテシーというものです。ご理解頂けましたか?」

「えっと……」

何なのだろうこの人は……。
先ほどの嫌な予感が的中したように、危険信号が頭の中で鳴っていた。

「あの……どなたか存じ上げませんが、私に何か御用でしょうか?私のことを馬鹿にしにきたのなら……」

「ふふっ、あなた何にも知らないのね」

彼女はやはり不敵な笑みで言った。

「申し遅れましたが、私は隣国アーストの第一王女クローネと申します。今日はあなたにブルーノ王子との婚約を破棄して頂たく、参りました」

「……え?」
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