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「それから僕はその魔女の家で少しの間時間を過ごした。魔女はたくさん僕の知らないことを教えてくれて、まだ十歳だった僕にはとても貴重な体験だったよ」

一通り王子は話し終えると、水を一杯飲んだ。

「彼女は言っていた、たくさん冒険をした方がいいと。だから僕は彼女の意見に従って、今も冒険を止めないんだ。たまに父上に怒られちゃうけどね」

王子はそう言うと苦笑した。
ずっと不思議だった、なぜ王子が私を婚約者に選んだのか。
この赤髪を恐れることをしないのか。
だが、今の王子の話しを聞いて、納得することができた。

「話してくれてありがとうございます。王子のことを知れて、私嬉しいです」

「そうか?それなら……よかったよ」

王子は恥ずかしそうにまた窓に顔を向けた。
しかし今度は夜空を見るでもなく、自分の顔を見つめている。
窓に反射した王子の顔を見ていたら、ぱちりと視線が合う。
急に気恥ずかしくなって、私はテーブルのデザートに目を落とした。

「今、僕のこと見てたね?」

顔を上げると、王子がいらずらっぽい笑みを浮かべていた。

「い、いえ……見てませんよ?」

動揺した心でついた嘘は、私の口調を不自然なものにさせた。

「いや、完全に見ていたよ。王子の言葉が信用できないかい?」

「信用はしていますけど……勘違いということもありますし……」

急に喉が渇き水を一杯飲む。
しかしまだ喉は乾いていた。

「ふふっ……じゃあそういうことにしておこうかな」

「はい。そういうことにしてください」

昔はこんな赤髪が嫌だった。
自分を責めて、親を責めて、周りの人を責めた。
しかし今はこの髪が大好きだった。
だって、こんなに素敵な人と私を巡り合わせてくれたのだから。

「アカネ」

王子は真剣な顔をしていた。

「なんですか?」

彼の目をじっと見つめるのは恥ずかしかったが、とても嬉しかった。
王子は屈帯のない笑顔で言う。

「好きだよ」

「え……」

心臓が急激に鼓動を早める。
世界が色づき、もう王子しか見えなくなる。

「アカネは僕のことどう思ってる?」

「えっと……」

私は胸に手をあてると、呼吸を繰り返し、言った。

「私も好きです」

この時は、この幸せが永遠に続くものだと思っていた。
苦しいことや悲しいことなんて何もなくて、王子と一緒に歩いていけると思っていた……
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