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この世界はなんてつまらないんだろうと僕は絶望した。
毎日同じように学業に励み、マナーを覚え、剣術まで教えられる。
そこに僕の自由なんてなくて、感じるのは窮屈さだけだった。
しかしそれは仕方のないこと、僕が第一王子に生まれた性なのだ。

そうやって自分の気持ちを覆い隠していたが、ある日突然に限界は訪れた。
使用人の言葉がきっかけだった。

「そういえば最近、南の森で魔女が出たった噂よ」
「恐いわねぇ」
「なんでも人の血を吸いつくして、髪が真っ赤に染まっているらしいの」

彼女たちの言葉を聞いた時、僕の中で何かが弾けた。
そうだ、南の森へ行って魔女に会いに行こう。
理由は分からないが、そう思って、気づいたら王宮を飛び出していた。

しかし森に入ってすぐに、僕は自分の無謀さを痛感した。
まだ昼前だというのに、森は薄暗く、どこからともなく獣の唸り声がした。
その声がするたびに僕はいちいち体を震わせ、何度も背後を振り返った。

「大丈夫……大丈夫……」

呪文のように何度も呟いたが、そんなのは気休めに過ぎなかった。
獣の声は止まず、足音まで聞こえてくると、僕は完全にその場に立ち止まってしまった。
もう魔女に会うなんていう目的すら忘れ、頭が真っ白になっていた。

「はぁ……はぁ……」

呼吸が乱れ、立っているのもやっとだった。
そして最悪なタイミングで、茂みの奥から狼の群れが現れた。
常軌を逸した狂暴さを宿した目に、鋭い牙。
僕は腰が抜けてしまい、その場に尻もちをついた。

「グルルルル……」

四匹の狼がゆっくりと僕に近づいてくる。
ああ、僕の命はここで終わってしまうんだ。
そう確信したその時だった。

「消えろ!!!」

後ろから大きな女性の声がして、次の瞬間光が差し込んだ。
その光に狼は悶え苦しみ、茂みの奥へと逃げていく。
狼が完全に消え去ると光も消え、僕の肩に手が乗せられた。

「大丈夫?こんな所で何をしているの?」

心臓が高鳴っていた。
僕が後ろを振り返ると、そこには赤髪の女性がいた。
手に杖を持ち、出で立ちはまるで魔女だった。

「ぼ、僕は……ぼ、ぼ……」

まともに言葉を発することが出来ずにいると、彼女はふっと笑った。

「よかったら家来る?パンと水くらいしか出せないけど」

それが僕と赤髪の魔女の出会いだった。
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