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 メサと出会ったのは、私が六歳の時。
 この街に引っ越してきて日の浅い私は、両親に言われるがまま、隣の家の住人と交流を図ることになった。
 
 隣家の応接間で互いの両親が楽しそうに話す中、一人の少女は静かに部屋を出ていった。
 大人たちは彼女が消えたことに気づく様子はなく、なぜか彼女のことが気になった私は、そっと応接間を後にした。

 よく知りもしない家の中を歩き回るのは、子供の私にとって、とても刺激的な体験だった。
 途中から消えた女の子を探すという目的はなくなり、この家を探検することに変更された。

「あ、いた!」

 しかししばらく歩いて、私は廊下を歩く彼女を発見した。
 自分の家で迷子にでもなっているのか、不安そうにあたりをキョロキョロしていた。
 私は駆け寄って手を差し伸べる。

「私はアリサ。あなたは何ていうの?」

「わ、私は……メサ……」

 まるで小動物のようにメサは怯えていた。
 あまり人付き合いが得意ではないのだろう、声も震えていた。
 しかし彼女は私の手をぎゅっと握ると、決してそれを離そうとはしなかった。

「メサ。もしかして自分の家で迷子になったの?」

 私が訊くと、彼女は恥ずかしそうに頷く。

「そう。じゃあ早い所応接間に戻らないとね。きっと今頃私たちの親が心配しているわ」

「で、でも……帰り道が分からなくて……」

「それなら大丈夫よ。私、記憶力は良い方だから」

 事実、私は応接間からここまでの道のりを完璧に記憶していた。
 メサの手を引き応接間に辿り着いた時、彼女は勇者でも見るような輝いた目で私を見つめた。
 
「ありがとうアリサ! あなたって……魔法使いみたい!」

 この日から私たちは二人でよく遊ぶようになった。
 
 だが、幸せな時ほどあっという間に過ぎるものだ。 
 そのうちメサの婚約者が決まって、彼女は家を離れていった。
 親友という間柄が邪魔して、会えなくても繋がっているという都合の良い関係になってしまう。

 私は少し寂しくなった。
 自分が寂しくないと思いたくて、両親に頼んで実家を離れた。 
 しかしメサのいない生活はやはり寂しかった。

 気分を変えたくて、私は街を練り歩いた。
 しかし、そこで衝撃的な光景を見てしまった。

 メサの婚約者であるノアが、彼女ではない女性と手を繋ぎ歩いていたのだ。
 生憎記憶力には自信があったから、これが間違いでないことは確かだった。
 私はすぐにメサを呼びつけた。

「メサ。あなたに伝えなければいけないことがあるの」

 私は全てをメサに伝えた。
 彼女は最初、私の話を信じなかった。
 しかし彼女もノアに対し不審に思っていた所があるのか、程なくして、目に怒りが灯り始めた。

 メサは男爵令嬢であったから、ノアとの婚約を破棄するのは難しかった。
 不貞の証拠を突きつけた所で反故にされる可能性があるし、被害が彼女の家にまで及ぶ可能性もあった。
 だから婚約破棄をするのなら、ノアの意志で行わなければいけなかった。

 彼女をたきつけたのは私だ。
 ならば、私が率先して行動の責任を取る必要がある。
 
 私はノアを誘惑し、手玉に取ることを思いついた。
 メサは心配そうな目をしていたが、私は既に覚悟を決めていた。
 何とか彼女を説得し、計画をスタートさせた。

 ノアは私の誘惑に簡単に引っかかった。
 予定していたよりも容易く彼を手玉にとることができた私は、彼を操り、メサと婚約破棄をするように言いつけた。
 あくまでも提案という形で。

 もちろん私とノアの間には男女の関係などないし、不貞に見なされるような怪しい行動もとっていない。
 ただ、頭の悪いノアが全てを勘違いしたのだ。
 
 私たちの計画は成功した。
 だが、最終段階がまだ残っていた。

 ノアは色情の悪魔と呼べるくらいに、卑劣な行為をしていたのだ。
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