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アリサからノアの本性を聞いた時は、本当に驚いた。
政略結婚だが彼に好意を持ち始めていた私にとって、辛い現実だったが、私は親友の言葉を信じることにした。
アリサの計画通り、私はわざとノアに婚約破棄をされ、彼の元を去ることができた。
その後、二人で新聞社に行き、アリサの友人であるという新聞記者にノアの本性を暴露した。
それから少したって私とノアの婚約が正式に破棄されると、タイミングを見計らったように、朝刊にノアの本性が掲載された。
……あれから一年。
夜景の見える丘の上のレストランに私はいた。
目の前には椅子が二つ置いてあって、片方にはアリサが、もう一つは空いていた。
「それでアリサ。話ってなにかしら?」
婚約破棄の傷と興奮も完全に冷めてきた今日この頃、私はアリサに呼び出されていた。
ただの夕食ではないことは、彼女の笑顔から読み取れる。
「私ね、ずっと後悔していたの。なんでノアの本性にすぐに気づけなかったんだろうって。もし私がすぐに気づけていたら、メサも苦しまずに済んだのだし」
「ううん、アリサは私のことを考えて行動してくれたでしょ? 私にはそれだけで十分だよ。昔からそう……覚えてる? 私が自分の家で迷子になった時のこと」
それは恥ずかしい自分の過去だった。
アリサの家族と初めて会った日、私は大人たちの会話が退屈で、応接間を抜け出した。
屋敷を歩いていたらいつもは通らない道を通ってしまって、帰り道が分からなくなったのだ。
しかし、アリサが私を見つけてくれて、私を助けてくれた。
あの日の感動は今でもはっきりと覚えている。
アリサは私の言葉に嬉しそうに頷いた。
「もちろん覚えてるよ。でも、自分の家で迷子になるなんて……ふふっ……」
私も呆れたように笑う。
「あの時は子供だったから。でも、それからもアリサは事あるごとに私を助けてくれた。だからもう十分なんだよ。これ以上あなたに助けてもらうのは何だか申し訳ないもの……」
と、その時、店員がアリサに近づき、なにかを耳打ちした。
アリサは目を輝かせると、店の入り口に顔を向けた。
私も同じように顔を向けると、そこにはアリサの兄がいた。
彼はこちらまで歩いてくると、私に会釈をして、アリサの隣に座る。
「久しぶりだねメサ。僕のこと覚えているかな?」
「もちろんです! アリサのお兄様のダレンさんですよね?」
「おお、覚えていてくれてありがとう。それでアリサ、話ってなにかな?」
どうやらアリサは兄と私を同じ用件で呼んだらしい。
少女のような無邪気な笑みを浮かべると、私たちの顔を交互に見て、言った。
「実はね……私、いい方法を思いついたの」
「「え?」」
私とダレンは同時に困惑した声を上げる。
しかしアリサは構わず言葉を続けた。
「メサ、やっぱり私、親友としてあなたのことが心配なの。でも、自分の目の届かない所にいってしまったらもしもの時助けてあげられないでしょ? だから目の届く所にいればいいと思ったの!」
目をキラキラと輝かせる彼女の勢いに押され、訳も分からぬまま私は苦笑する。
「でね! いい方法を思いついたの! お兄ちゃんとメサが結婚すればいいんだよ! ね! これで全部解決!」
「「えぇ!?」」
私とダレンは、同時に先ほどよりも大きな動揺を見せた。
店員や客の視線が集まり、途端に恥ずかしくなる。
「おいアリサ……! お前は急に何を言っているんだ! 冗談も程々にしろよ!」
すかさず兄のダレンがアリサに耳打ちするも、当の本人は笑顔のまま首を横に振る。
そして私にも聞こえるように言った。
「だって、二人とも昔は両想いだったじゃない。ずっとそのまま何も進展しないなんてもったいないわ。ね?」
「え……両想い?」
私は体中が熱くなるのを感じた。
私の言葉に、アリサは頷き、立ち上がる。
「じゃあ後は二人で愉しんでね。じゃあね」
そして足早に店を出て行ってしまう。
ダレンと二人きりにされ、緊張する私。
何を言ったらいいのか困っていると、先にダレンが口を開いた。
「今の話、本当かい? その……両想いってやつ」
「え、えっと……は、はい……ダレンさんも、もしかして……」
「ああ、本当だ……い、今も君のことが好きなんだ……」
「え?」
私たちは緊張の最中、しばし見つめ合う。
と、「失礼します」と店員が料理をテーブルに置く。
私たちの視線は離れ、テーブルの上の湯気が出るスープに注がれた。
店員が去った後で、ダレンは困ったように呟いた。
「今はちょっと飲めそうにない」
口には出さなかったが、私も同感だった……
政略結婚だが彼に好意を持ち始めていた私にとって、辛い現実だったが、私は親友の言葉を信じることにした。
アリサの計画通り、私はわざとノアに婚約破棄をされ、彼の元を去ることができた。
その後、二人で新聞社に行き、アリサの友人であるという新聞記者にノアの本性を暴露した。
それから少したって私とノアの婚約が正式に破棄されると、タイミングを見計らったように、朝刊にノアの本性が掲載された。
……あれから一年。
夜景の見える丘の上のレストランに私はいた。
目の前には椅子が二つ置いてあって、片方にはアリサが、もう一つは空いていた。
「それでアリサ。話ってなにかしら?」
婚約破棄の傷と興奮も完全に冷めてきた今日この頃、私はアリサに呼び出されていた。
ただの夕食ではないことは、彼女の笑顔から読み取れる。
「私ね、ずっと後悔していたの。なんでノアの本性にすぐに気づけなかったんだろうって。もし私がすぐに気づけていたら、メサも苦しまずに済んだのだし」
「ううん、アリサは私のことを考えて行動してくれたでしょ? 私にはそれだけで十分だよ。昔からそう……覚えてる? 私が自分の家で迷子になった時のこと」
それは恥ずかしい自分の過去だった。
アリサの家族と初めて会った日、私は大人たちの会話が退屈で、応接間を抜け出した。
屋敷を歩いていたらいつもは通らない道を通ってしまって、帰り道が分からなくなったのだ。
しかし、アリサが私を見つけてくれて、私を助けてくれた。
あの日の感動は今でもはっきりと覚えている。
アリサは私の言葉に嬉しそうに頷いた。
「もちろん覚えてるよ。でも、自分の家で迷子になるなんて……ふふっ……」
私も呆れたように笑う。
「あの時は子供だったから。でも、それからもアリサは事あるごとに私を助けてくれた。だからもう十分なんだよ。これ以上あなたに助けてもらうのは何だか申し訳ないもの……」
と、その時、店員がアリサに近づき、なにかを耳打ちした。
アリサは目を輝かせると、店の入り口に顔を向けた。
私も同じように顔を向けると、そこにはアリサの兄がいた。
彼はこちらまで歩いてくると、私に会釈をして、アリサの隣に座る。
「久しぶりだねメサ。僕のこと覚えているかな?」
「もちろんです! アリサのお兄様のダレンさんですよね?」
「おお、覚えていてくれてありがとう。それでアリサ、話ってなにかな?」
どうやらアリサは兄と私を同じ用件で呼んだらしい。
少女のような無邪気な笑みを浮かべると、私たちの顔を交互に見て、言った。
「実はね……私、いい方法を思いついたの」
「「え?」」
私とダレンは同時に困惑した声を上げる。
しかしアリサは構わず言葉を続けた。
「メサ、やっぱり私、親友としてあなたのことが心配なの。でも、自分の目の届かない所にいってしまったらもしもの時助けてあげられないでしょ? だから目の届く所にいればいいと思ったの!」
目をキラキラと輝かせる彼女の勢いに押され、訳も分からぬまま私は苦笑する。
「でね! いい方法を思いついたの! お兄ちゃんとメサが結婚すればいいんだよ! ね! これで全部解決!」
「「えぇ!?」」
私とダレンは、同時に先ほどよりも大きな動揺を見せた。
店員や客の視線が集まり、途端に恥ずかしくなる。
「おいアリサ……! お前は急に何を言っているんだ! 冗談も程々にしろよ!」
すかさず兄のダレンがアリサに耳打ちするも、当の本人は笑顔のまま首を横に振る。
そして私にも聞こえるように言った。
「だって、二人とも昔は両想いだったじゃない。ずっとそのまま何も進展しないなんてもったいないわ。ね?」
「え……両想い?」
私は体中が熱くなるのを感じた。
私の言葉に、アリサは頷き、立ち上がる。
「じゃあ後は二人で愉しんでね。じゃあね」
そして足早に店を出て行ってしまう。
ダレンと二人きりにされ、緊張する私。
何を言ったらいいのか困っていると、先にダレンが口を開いた。
「今の話、本当かい? その……両想いってやつ」
「え、えっと……は、はい……ダレンさんも、もしかして……」
「ああ、本当だ……い、今も君のことが好きなんだ……」
「え?」
私たちは緊張の最中、しばし見つめ合う。
と、「失礼します」と店員が料理をテーブルに置く。
私たちの視線は離れ、テーブルの上の湯気が出るスープに注がれた。
店員が去った後で、ダレンは困ったように呟いた。
「今はちょっと飲めそうにない」
口には出さなかったが、私も同感だった……
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