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第四章 王子の依頼
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夜斗と夜那が仕事を終えて、街へ戻ろうとしていたその頃。
溜まりに溜まった仕事からようやく解放されたリチャードが、ファルを伴ってチーア食堂を訪れていた。
ドアベルが軽やかな音をたてて、二人を店に迎え入れる。
「こんにちは」
「いらっしゃい。あら、王子様にファル様ではありませんか」
出迎えたアサギは、二人の姿に目を丸くする。
「こんにちは。暁の兄妹はいますか?」
リチャードは人当たりの良い笑顔を浮かべ、夜斗と夜那のことを尋ねた。するとアサギは、困ったような表情を浮かべる。
「申し訳ありません。二人はいま、仕事で外にでているんです。ですが、すぐ近くでの仕事ですので、もうじき戻ってくる頃かと」
「仕事? へぇ。あいつらなんかに依頼する物好きが、いってぇ!」
リチャードはファルに、思い切り頭を叩かれた。
「失礼なこと言わない」
「ほんと、俺に対して容赦ないな!」
「教育係として当然です」
「それを言えば、全部許されると思ってんのか?」
リチャードが文句を言うも、ファルは無視してアサギに顔を向ける。
「すみません。待たせてもらってもよろしいですか? もちろん、注文はいたしますので」
「はい。では、そこの四人席にどうぞ」
アサギは窓際の四人掛けテーブルに座るよう促し、二人に水を差し出す。
「ありがとうございます。注文は、アイスロッソを二つ」
「と、パンケーキ一つ」
ファルの言葉につなげるように、リチャードが追加で注文をした。
「殿下」
「いいじゃん。頭が疲れてるから、甘い物食べたいんだよ」
ニコニコと笑うリチャードに、ファルが冷めた目を向ける。
「そういって、先ほどケーキを召し上がっていらしたではありませんか」
「細かいことは気にすんな! 注文はそれだけで!」
「かしこまりました。少々、お待ちください」
アサギは頭を下げ、注文の品を作るため、カウンターに入った。
「あの兄妹、俺らを見たら、どんな反応すると思う? 仕事が入るって喜ぶかな?」
「そんなわけないでしょう。間違いなく、嫌がりますよ。あんなにしつこく手紙も送って」
「だって、依頼を受けてほしいから」
ファルはやれやれと、ため息をつく。
「というか、俺ってそんな性悪そうに見える?」
「いえ。むしろ殿下の場合、馬鹿丸出し、おっと失礼」
「言ってるから! 全部、言っちゃってるから! 区切るとこ違う!」
リチャードがわめく。ファルは苦笑しながら、彼を宥めた。
「冗談ですよ。……殿下。彼ら、特に〈剣銃の死神〉の彼にとって、すべて同じくくりに入るんです。人となりよりも、貴族や王族という位を持つ者すべてが憎悪の対象となります」
「……」
リチャードは黙り込む。
「お待たせしました。アイスロッソ二つと、パンケーキです」
アサギが注文の品を、テーブルに置いた。
「ありがとうございます」
「ありがとう。えっと、アサギさん、であってる?」
「はい。ここの女主人をしております、アサギです。王子様に名前を知っていてもらえるなんて、光栄です」
アサギの言葉に、リチャードはほがらかに笑う。
「ここの食事はうまいって、有名だから、前から来てみたいと思ってたんだ。今日は昼過ぎまで仕事があったから、もうお昼食べてきちゃって、軽食しか頼めないんだけどさ」
「いつでもいらしてください。お城で出されるものと比べると、とても質素ですが」
「大事なのは見た目とかじゃなくて、味と作り手の愛情っすよ」
「まぁ。王子様はずいぶんと、口がお上手ですね」
アサギはうれしそうに、微笑みを浮かべる。
溜まりに溜まった仕事からようやく解放されたリチャードが、ファルを伴ってチーア食堂を訪れていた。
ドアベルが軽やかな音をたてて、二人を店に迎え入れる。
「こんにちは」
「いらっしゃい。あら、王子様にファル様ではありませんか」
出迎えたアサギは、二人の姿に目を丸くする。
「こんにちは。暁の兄妹はいますか?」
リチャードは人当たりの良い笑顔を浮かべ、夜斗と夜那のことを尋ねた。するとアサギは、困ったような表情を浮かべる。
「申し訳ありません。二人はいま、仕事で外にでているんです。ですが、すぐ近くでの仕事ですので、もうじき戻ってくる頃かと」
「仕事? へぇ。あいつらなんかに依頼する物好きが、いってぇ!」
リチャードはファルに、思い切り頭を叩かれた。
「失礼なこと言わない」
「ほんと、俺に対して容赦ないな!」
「教育係として当然です」
「それを言えば、全部許されると思ってんのか?」
リチャードが文句を言うも、ファルは無視してアサギに顔を向ける。
「すみません。待たせてもらってもよろしいですか? もちろん、注文はいたしますので」
「はい。では、そこの四人席にどうぞ」
アサギは窓際の四人掛けテーブルに座るよう促し、二人に水を差し出す。
「ありがとうございます。注文は、アイスロッソを二つ」
「と、パンケーキ一つ」
ファルの言葉につなげるように、リチャードが追加で注文をした。
「殿下」
「いいじゃん。頭が疲れてるから、甘い物食べたいんだよ」
ニコニコと笑うリチャードに、ファルが冷めた目を向ける。
「そういって、先ほどケーキを召し上がっていらしたではありませんか」
「細かいことは気にすんな! 注文はそれだけで!」
「かしこまりました。少々、お待ちください」
アサギは頭を下げ、注文の品を作るため、カウンターに入った。
「あの兄妹、俺らを見たら、どんな反応すると思う? 仕事が入るって喜ぶかな?」
「そんなわけないでしょう。間違いなく、嫌がりますよ。あんなにしつこく手紙も送って」
「だって、依頼を受けてほしいから」
ファルはやれやれと、ため息をつく。
「というか、俺ってそんな性悪そうに見える?」
「いえ。むしろ殿下の場合、馬鹿丸出し、おっと失礼」
「言ってるから! 全部、言っちゃってるから! 区切るとこ違う!」
リチャードがわめく。ファルは苦笑しながら、彼を宥めた。
「冗談ですよ。……殿下。彼ら、特に〈剣銃の死神〉の彼にとって、すべて同じくくりに入るんです。人となりよりも、貴族や王族という位を持つ者すべてが憎悪の対象となります」
「……」
リチャードは黙り込む。
「お待たせしました。アイスロッソ二つと、パンケーキです」
アサギが注文の品を、テーブルに置いた。
「ありがとうございます」
「ありがとう。えっと、アサギさん、であってる?」
「はい。ここの女主人をしております、アサギです。王子様に名前を知っていてもらえるなんて、光栄です」
アサギの言葉に、リチャードはほがらかに笑う。
「ここの食事はうまいって、有名だから、前から来てみたいと思ってたんだ。今日は昼過ぎまで仕事があったから、もうお昼食べてきちゃって、軽食しか頼めないんだけどさ」
「いつでもいらしてください。お城で出されるものと比べると、とても質素ですが」
「大事なのは見た目とかじゃなくて、味と作り手の愛情っすよ」
「まぁ。王子様はずいぶんと、口がお上手ですね」
アサギはうれしそうに、微笑みを浮かべる。
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