暁~双子の冒険者~

岡本梨紅

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第四章 王子の依頼

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 そのとき、扉が開いてドアベルが軽い音を立てた。三人の視線が一斉に、ドアに向けられる。そこには話の中心になっていた兄妹がいた。

 アサギはリチャードたちに一礼をしてから離れると、兄妹に声をかけた。

「おかえり。二人とも」
「ただいま、アサギさん」
「ただいまー」

 夜斗はパッと表情を明るくして、夜那も気の抜けた緩い返事する。

「王子様たちがお待ちだよ。ご依頼があるそうだ」
「ですよねぇ」

 夜斗はテーブルに視線を向ける。
 リチャードは満面の笑みで、手をひらひらと振り、ファルは申し訳なさそうに軽く頭を下げた。
 夜斗は深々とため息をついた。それにアサギは苦笑する。

「なにか食べるかい?」
「いえ。俺は別に「パンケーキ」

 夜那が夜斗の言葉を遮って、リチャードの前にあるパンケーキを指差す。

「パンケーキ。食べたい」
「おまえ、あんだけクッキー食べといて、まだ食べるわけ?」

 夜斗が呆れたように言うと、夜那はキリッとした表情を向ける。

「クッキーとパンケーキは別腹」
「どっちも甘いものだぞ」
「食べたい」
「……その意欲、普通の食事にも向けてくれねぇかな」

 夜斗はガリガリと頭を掻いた。

「すみません。夜那の分だけでいいので、お願いします」
「あいよ。三枚くらいあれば、足りるかい?」
「うん」

 夜那は満面の笑みで頷く。

「じゃあ、その間に、王子様たちから話をお聞き。このままじゃいけないこと、わかるだろう?」

 夜斗は肩をすくめて、主従たちが座る席に向かう。その際、我関せずでカウンター席に座ろうとしていた夜那の襟首をつかんで、引きずることも忘れない。

「よっ。俺のこと、覚えてるか?」
「えぇ、覚えていますよ。リチャード王子」

 夜斗は嫌味ったらしく、張り付けた笑顔で言った。

「ハハッ。嫌われてんなー」

 リチャードは乾いた笑いをこぼす。

「夜那。ん」

 夜斗は夜那を放し、ファルの向かいになる、窓際の席を顔で示す。夜那が座ると、夜斗はリチャードの前に座った。

「時計塔広場の事件の時は、名乗っていませんでしたね。俺は夜斗。こっちは妹の夜那。暁というフリーの冒険者です。王子のご依頼内容は、しつこいほど送られてきた手紙の内容と同じ、クリスティナ街道に出る盗賊の討伐依頼で、よろしいですか?」
「しつこくて、悪かったな。どうしても、おまえたちに受けてほしかったんだ」

 リチャード謝罪はするものの、真剣な眼差しを二人に向ける。

「以前、盗賊たちを追い詰めたことがあるのですよね? ならば今回も俺たちの手を借りずに、片すことができるのでは?」

 夜斗が問いかけると、リチャードは首を横に振った。

「奴らは隠れるのがうまい。一度やって逃げられたから、同じ手は使えない」
「なら少数にしては? それか冒険者ギルドに依頼。または俺たちと同じように、ミスリル級の冒険者を紹介してもらって、その者らに頼めばよいでしょう? 彼らは少数で動くことに慣れているはずですし」

 続けて夜斗が質問を重ねると、リチャードも真剣に答えを返した。

「正直言って、冒険者ギルドの者たちは信用できないんだ。なにより、この国の王子である俺から依頼を受けたと、吹聴してほしくないんだよ」
「俺たちが、それをするとは、思わないのですか?」
「しねぇだろ? おまえたちの目的は、冒険者として名前を売ることじゃない。もっと別の目的があって、旅をしている。ただ生きるのにはお金が必要だ。だから冒険者をしているにすぎない。違うか?」
(こいつ、ただの馬鹿じゃねぇな。俺たちの本質を、見ていやがる)

 夜斗は内心で評価を改めながら、リチャードを見つめる。リチャードも、夜斗を見つめ返した。
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