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死体が跡形もなく消えたのを確認したあと、黎明は懐紙で刀身についた血を拭い、キンッと鞘に収めた。
「黎明様っ!」
「おっと」
比奈は黎明に駆け寄り、抱き付いた。そんな彼女を、彼は難なく受け止める。
「ご無事で、本当に良かった」
「あんなのに、俺は負けねぇよ。それより、本当にごめんな。俺がいつものように来ていれば、あんな目に遭わせなかったのに」
比奈はふるふると、首を横に振る。
「しかし、今日は来られないと、兄様が……」
「あぁ。さっきの坊さんもどきのことを、調べていてな。そうしたら、このお守りが反応したのがわかって」
黎明は自分がはめている腕飾りを、比奈に見せる。比奈も己の腕輪を撫でた。
「黎明様がくださったお守りのおかげで、わたしは無事でいられたのです。これがなければ、どうなっていたか……」
そう呟いてから、比奈はあることに気づいた。
「母様と父様は?」
「大丈夫。あの化物、外にばれないように、遮断の結界のようなものを張っていたようだ。他の妖怪の気配もない」
「よかった」
安心したように、息をつく比奈。
「……比奈」
黎明は気持ちを落ち着けるように、息を深く吐き出した。
比奈も黎明がなにかを告白するのを感じ、じっと彼を見つめる。
「この角や瞳を見てわかると思うが、俺は人間じゃない。妖怪……鬼、なんだ。ずっと、黙っててごめん!」
黎明は勢いよく、頭を下げた。
「れ、黎明様! 顔をお上げください! あなたさまが頭を下げる理由はございません!」
「騙していたのは事実だ」
「でもそれは、わたしを怖がらせないためだったのでしょう?」
比奈にそう言われ、黎明は恐る恐る顔を上げる。どこか怯えた様子を見せる彼に、比奈は微笑む。
「わたしが妖怪を恐れていることは、兄様からお聞きになっていたのですよね? だからわざわざ人間の姿で、来てくださっていたのですよね?」
「ああ。……比奈は、鬼がどんな役職についてるか、知ってるか?」
黎明の問いに、比奈はきょとんとした表情を見せる。それに黎明は内心で頭を抱えた。
(そこは気づいて欲しかったような、欲しくないような)
「黎明様は、兄様と同じお仕事ではないんですか?」
「あー。まあ、上司と部下に近い形ではあるわな。
神流には昔、助けてもらったことがあったんだよ。んで、仕事探し中だっていうから、今の番方の仕事を紹介した。で、ずっと交流が続いてるってわけ。そんなあるとき、大事な友達が、妹の状況に頭を悩ましているって聞いて」
「それで、わたしに会いに?」
黎明は頷く。
「だけど、鬼である俺がこの姿のまま会いに行ったら、怖がられることは明白だった。それで、人間に化けられる薬を使っていたんだ」
「そう、だったのですね」
「でも、これだけは勘違いしないでほしい」
黎明はきゅっと、手に力を込めた。
「神流の妹だから会いたいって気持ちは、確かにあった。でもそれは最初だけで、実際に会って話してみて、これからも会いたいって思ったんだ」
黎明は唇を噛む。視線をあちこちさ迷わせていくうちに、彼の顔が赤くなる。
「比奈。お、れは、その、比奈の、ことが」
すると、家の中から荒々しい足音が聞こえてくる。その音に、黎明は言葉を切って顔を上げた。
「ようやくお目覚めか……」
黎明はどこか呆れたように、そうこぼした。
「黎明様っ!」
「おっと」
比奈は黎明に駆け寄り、抱き付いた。そんな彼女を、彼は難なく受け止める。
「ご無事で、本当に良かった」
「あんなのに、俺は負けねぇよ。それより、本当にごめんな。俺がいつものように来ていれば、あんな目に遭わせなかったのに」
比奈はふるふると、首を横に振る。
「しかし、今日は来られないと、兄様が……」
「あぁ。さっきの坊さんもどきのことを、調べていてな。そうしたら、このお守りが反応したのがわかって」
黎明は自分がはめている腕飾りを、比奈に見せる。比奈も己の腕輪を撫でた。
「黎明様がくださったお守りのおかげで、わたしは無事でいられたのです。これがなければ、どうなっていたか……」
そう呟いてから、比奈はあることに気づいた。
「母様と父様は?」
「大丈夫。あの化物、外にばれないように、遮断の結界のようなものを張っていたようだ。他の妖怪の気配もない」
「よかった」
安心したように、息をつく比奈。
「……比奈」
黎明は気持ちを落ち着けるように、息を深く吐き出した。
比奈も黎明がなにかを告白するのを感じ、じっと彼を見つめる。
「この角や瞳を見てわかると思うが、俺は人間じゃない。妖怪……鬼、なんだ。ずっと、黙っててごめん!」
黎明は勢いよく、頭を下げた。
「れ、黎明様! 顔をお上げください! あなたさまが頭を下げる理由はございません!」
「騙していたのは事実だ」
「でもそれは、わたしを怖がらせないためだったのでしょう?」
比奈にそう言われ、黎明は恐る恐る顔を上げる。どこか怯えた様子を見せる彼に、比奈は微笑む。
「わたしが妖怪を恐れていることは、兄様からお聞きになっていたのですよね? だからわざわざ人間の姿で、来てくださっていたのですよね?」
「ああ。……比奈は、鬼がどんな役職についてるか、知ってるか?」
黎明の問いに、比奈はきょとんとした表情を見せる。それに黎明は内心で頭を抱えた。
(そこは気づいて欲しかったような、欲しくないような)
「黎明様は、兄様と同じお仕事ではないんですか?」
「あー。まあ、上司と部下に近い形ではあるわな。
神流には昔、助けてもらったことがあったんだよ。んで、仕事探し中だっていうから、今の番方の仕事を紹介した。で、ずっと交流が続いてるってわけ。そんなあるとき、大事な友達が、妹の状況に頭を悩ましているって聞いて」
「それで、わたしに会いに?」
黎明は頷く。
「だけど、鬼である俺がこの姿のまま会いに行ったら、怖がられることは明白だった。それで、人間に化けられる薬を使っていたんだ」
「そう、だったのですね」
「でも、これだけは勘違いしないでほしい」
黎明はきゅっと、手に力を込めた。
「神流の妹だから会いたいって気持ちは、確かにあった。でもそれは最初だけで、実際に会って話してみて、これからも会いたいって思ったんだ」
黎明は唇を噛む。視線をあちこちさ迷わせていくうちに、彼の顔が赤くなる。
「比奈。お、れは、その、比奈の、ことが」
すると、家の中から荒々しい足音が聞こえてくる。その音に、黎明は言葉を切って顔を上げた。
「ようやくお目覚めか……」
黎明はどこか呆れたように、そうこぼした。
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