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家出令嬢①
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気持ちよく晴れた秋の空を見上げながらリード伯爵家メリアナはため息をついた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
いつかは嫁がなければいけないことはわかっていたがこんなタイミングで。
そもそも、貴族に生まれたからには政略結婚は免れない。
メリアナの住んでいる王都シュメールは事の他、その風潮が顕著であるが。
メリアナはつい先刻交わした父、リード伯爵家当主エイドとの会話を思い出してはまた一つため息をついた。
「そろそろメリアナも14になる。貴族の役目はわかっているね?」
王家に連なる由緒正しき銀の頭髪、碧玉の瞳、涼しげな目元と、誰もが見惚れる相貌。
そのどちらもメリアナに向けず、手元の書類を見ながら父は語りかけた。
「理解しています」
こちらを見ようともしない父を見てメリアナは胸のうちでそっとため息をついた。
生まれてから、父とはずっとこの調子であるためメリアナは慣れていた。
メリアナは5歳の時に母を失った。
父は後妻を取る様に周囲から勧められていたが一向に娶る気配はなく
母だけを生涯の伴侶と認めていた様に思う。
それゆえに自分は愛されているはずだ。
その願望とも言える思いに捉われ、必死で努力を重ねてきた。
父の望む娘、父の望む完璧な貴婦人に。
その血の滲むような努力で、メリアナは社交界でもかなり評判が良く、ここ数年では毎日の様に縁談の申し込みが来ていたはずだ。
しかしなかなか父は首を縦に振らず、メリアナは決まった相手がいないままであった。
そのため、14から17歳までの才ある者のみ入れると言われている王立学園に入学できる。
周囲も、自身もまたそう思っていたのに。
王立学園は才ある者のみ入れる学園と言われている。
言葉に違わず、【教養】【国政】【騎士】【文官】の4つの分野からなる学び場で王立学園出身という経歴は国を担う出世コースとなる。
王族は必ず、国政のコースを卒業しなければならず、卒業ができないものは王位継承権に入ることができないため王配偶という序列に下がる事となる。
しかし、王立学園は平民も通うことができ、才あるものは平等であるという理念のもと設立されているが、物心ついた頃から王立学園へ入学するため研鑽を行う貴族と違って、子どもも労働力として数えられる平民の生徒は【騎士】を除いてかなり珍しい存在であると聞いている。
『お父様、わたしは王立学園に入学できるのではないのですか』
その言葉が口から飛び出そうになるのを必死で飲み込んだ。
「お嬢様、浮かない顔ですね」
メリアナ付きの侍女リーナが温かい紅茶を準備してくれる。
「ありがとう」
少し表情をゆるめたメリアナはリーナに向かって微笑みかける。
「旦那様とのお話、また上手くいかなかったのですか?」
「そうね、お父様の考えていることがわからないの」
「王立学園に入学させて娘の価値を上げてから婚約者を確定させると思っていたけど見当違いだったみたいね」
そう言って、淡々と話すメリアナにリーナは何か言いた気な視線を向けてきたが、結局は口に出すことはなかった。
おいたわしいお嬢様
幼い頃から血の滲むような努力をされ、誰からも称賛を得られるような立派な方に成長されたのに
唯一褒めて欲しい方に褒めてもらえないなんて
少し歳の離れた姉程度の歳の差はあるが、実の姉、娘のように見守ってきたメリアナが見たこともない程暗い表情をしておりリーナはどうにか元気付けようと声をかけた。
これが、のちにあのような結果をもたらすとは誰も思いつかなかっただろう。
「お嬢様、ご婚約者はどなたかご存知でしょうか」
「それが、まだ詳しくは教えてもらっていないの」
「わたしは婿を取る必要があるから伯爵以上の長男以外の方とは思うけれど」
「伯爵以上の方であればもしかするかもしれません」
リーナはメリアナの手を励ますように包み込んで話し始めた
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
いつかは嫁がなければいけないことはわかっていたがこんなタイミングで。
そもそも、貴族に生まれたからには政略結婚は免れない。
メリアナの住んでいる王都シュメールは事の他、その風潮が顕著であるが。
メリアナはつい先刻交わした父、リード伯爵家当主エイドとの会話を思い出してはまた一つため息をついた。
「そろそろメリアナも14になる。貴族の役目はわかっているね?」
王家に連なる由緒正しき銀の頭髪、碧玉の瞳、涼しげな目元と、誰もが見惚れる相貌。
そのどちらもメリアナに向けず、手元の書類を見ながら父は語りかけた。
「理解しています」
こちらを見ようともしない父を見てメリアナは胸のうちでそっとため息をついた。
生まれてから、父とはずっとこの調子であるためメリアナは慣れていた。
メリアナは5歳の時に母を失った。
父は後妻を取る様に周囲から勧められていたが一向に娶る気配はなく
母だけを生涯の伴侶と認めていた様に思う。
それゆえに自分は愛されているはずだ。
その願望とも言える思いに捉われ、必死で努力を重ねてきた。
父の望む娘、父の望む完璧な貴婦人に。
その血の滲むような努力で、メリアナは社交界でもかなり評判が良く、ここ数年では毎日の様に縁談の申し込みが来ていたはずだ。
しかしなかなか父は首を縦に振らず、メリアナは決まった相手がいないままであった。
そのため、14から17歳までの才ある者のみ入れると言われている王立学園に入学できる。
周囲も、自身もまたそう思っていたのに。
王立学園は才ある者のみ入れる学園と言われている。
言葉に違わず、【教養】【国政】【騎士】【文官】の4つの分野からなる学び場で王立学園出身という経歴は国を担う出世コースとなる。
王族は必ず、国政のコースを卒業しなければならず、卒業ができないものは王位継承権に入ることができないため王配偶という序列に下がる事となる。
しかし、王立学園は平民も通うことができ、才あるものは平等であるという理念のもと設立されているが、物心ついた頃から王立学園へ入学するため研鑽を行う貴族と違って、子どもも労働力として数えられる平民の生徒は【騎士】を除いてかなり珍しい存在であると聞いている。
『お父様、わたしは王立学園に入学できるのではないのですか』
その言葉が口から飛び出そうになるのを必死で飲み込んだ。
「お嬢様、浮かない顔ですね」
メリアナ付きの侍女リーナが温かい紅茶を準備してくれる。
「ありがとう」
少し表情をゆるめたメリアナはリーナに向かって微笑みかける。
「旦那様とのお話、また上手くいかなかったのですか?」
「そうね、お父様の考えていることがわからないの」
「王立学園に入学させて娘の価値を上げてから婚約者を確定させると思っていたけど見当違いだったみたいね」
そう言って、淡々と話すメリアナにリーナは何か言いた気な視線を向けてきたが、結局は口に出すことはなかった。
おいたわしいお嬢様
幼い頃から血の滲むような努力をされ、誰からも称賛を得られるような立派な方に成長されたのに
唯一褒めて欲しい方に褒めてもらえないなんて
少し歳の離れた姉程度の歳の差はあるが、実の姉、娘のように見守ってきたメリアナが見たこともない程暗い表情をしておりリーナはどうにか元気付けようと声をかけた。
これが、のちにあのような結果をもたらすとは誰も思いつかなかっただろう。
「お嬢様、ご婚約者はどなたかご存知でしょうか」
「それが、まだ詳しくは教えてもらっていないの」
「わたしは婿を取る必要があるから伯爵以上の長男以外の方とは思うけれど」
「伯爵以上の方であればもしかするかもしれません」
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