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恋と愛
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「恋と愛って違うんだよ」
そんな言葉を聞いたことがある。どんな風に違うんだろう。
感情的にも「これが愛なんだ」って分かる日が来るのかな。
そう思っていた。
「ねぇ、夢叶」
名前を呼ばれて私は体を向ける。
「恋と愛の違いって知ってる?」
いきなりそんなことを言われた。
最後にそんな疑問を持ったのはいつだったっけ。
昔、恋をしたことがない時は考える余裕があったが、中学にはいる頃にはそんなこと考えることは無くなっていた。
「分かんない、幸人は知ってるの?」
と聞くと、すぐそこに座っている岩田幸人という少年は得意げな顔をする。
「“恋”とは自分の興味関心であり、短期間で成立するもの。“愛”は相手のため、2人のためのものであり、長期間かけて育むもの。って感じで決定的な違いがあるんよ」
ネットにでも書いてあったのか、スラスラと述べた。
その後に「でも、」と否定する言葉が聞こえた。
「俺的にはね、“恋”は欲しがるものだと思う」
「へ?欲しがるもの?」
聞いたことがない見解だ。
「“恋”は欲しがるもの」なんて、幸人以外に誰が思いつくだろう。
「そう。“付き合いたい”とか、“ずっとそばにいて欲しい”とか、相手の気持ちを考えずに思うじゃん?」
まあ確かにそうかもしれない。
相手と一緒に居られることに喜びを感じることが“恋”なのだから。
では、“愛”は…?
「“愛”は、相手の幸せを願うことだと思う」
「幸せ?」
「うん。自分はどうなってもいいから、相手には笑っていて欲しいって思えることだと思う」
一理ある。でもそれは…
「それってただの自己犠牲じゃない?」
自己犠牲が愛になるなんて、なんて皮肉な話だろう。一緒にいるだけで幸せと思えることも“愛”と呼べると思うが。
「そんなもんだよ、夢叶」と、幸人は笑う。
「“愛”とは何かの答えは星の数ほどある。その中にはさっき夢叶が言った“自己犠生”も入ってるよ」
確かに、「“愛”とは何か」の答えはそれこそ人の数だけあるだろう。
愛は自己犠生。なんという皮肉。
でも、いきなりこんな話を始めた幸人の意思が掴めない。
「でね、俺が何を言いたいかと言うと...」
珍しかった。幸人はいつもはこんなにも勿体ぶることはしない。
すごく気になって幸人の目をじっと見る。
「夢叶を愛してるって話!」
満面の笑みで言われた。顔が少しずつ熱くなっていくのを感じる。
笑顔が眩しかった。この笑顔を守りたい。なんとしてでも。何をしてでも。
「幸せにしたい」
そう思った。
あぁ…私は幸人を愛してる…
私はこの時初めて愛を知った。幸人とは中一の冬から付き合い始めていた。
愛を初めて実感したのは、付き合い始めてから半年くらい経った時期。
その日から幸人は家で二人きりになるたびに「愛してる」と言うようになった。
それに対し私は「ありがとう」としか言わなかった。
言いたくないとか、言うつもりがないとかそういうことじゃない。
この関係が続き、二十歳になったときに言おう。そう決めていた。
でも、中三の冬あたりから幸人は「愛してる」と言わなくなった。
心なしか態度も冷たくなった気がした。
それでも好きだった。「愛してる」と言われなかろうが、冷たい態度を取られようが、私は幸人を好いていた。
今考えたらこれはただ依存してるだけだったかもしれない。
依存というのは怖いものだ。なんとか柱に支えられてる倒れかけの板のようで。
その柱がなくなった途端にパタンと寂しい音を立て、倒れる。私もそうだった。
中学を卒業し、高校が別々になり顔を見る頻度は格段に減った。
連絡先は交換していたので、たまにメッセージを交わした。
しかし、やはりメッセージ上でも態度は冷たい。メッセージを先に送るのはいつも私からだった。
そして六月。珍しく幸人からメッセージが来た。嫌な予感がした。そして、その嫌な予感は当たった。
「別れよう」
その一言が胸に突き刺さる。流石に半年以上冷たい態度をとられれば、こうなることも想像がつく。
だが、傷つかないわけではない。
泣いた。一晩中、文字通り涙が枯れるまで。
私はあんなにも大きな感情を誰かに抱いたことはなかった。
それ故に、2年以上経ち、高三になった今でも幸人に対して「愛してる」と言うことができる。
いつから考え始めたのか、もう思い出せない。この言葉を忘れたことは一瞬たりともなかった。
『太陽と月が仲良くしてくれたら良かったのに』
この言葉は中学の理科の授業で、先生がついでに教えてくれた言葉だ。
太陽は昼、月は夜の象徴。
昼と夜が仲良くなる、でも、一緒になるなんてありえない。
しかし、もしも昼と夜が仲良くなり、昼夜が混在すれば「時」という概念は無くなり、時間が止まる。
「太陽と月が仲良くすればいいのに」の意味としては『時が止まればいいのに」という願いになる。
しかしそれは、文が現在形であればの話だ。
私が願ったのは過去形。
つまり、願いも一緒になって意味が変わる。
『あの時に戻りたい』
私は未だに過去に囚われている。
そんな言葉を聞いたことがある。どんな風に違うんだろう。
感情的にも「これが愛なんだ」って分かる日が来るのかな。
そう思っていた。
「ねぇ、夢叶」
名前を呼ばれて私は体を向ける。
「恋と愛の違いって知ってる?」
いきなりそんなことを言われた。
最後にそんな疑問を持ったのはいつだったっけ。
昔、恋をしたことがない時は考える余裕があったが、中学にはいる頃にはそんなこと考えることは無くなっていた。
「分かんない、幸人は知ってるの?」
と聞くと、すぐそこに座っている岩田幸人という少年は得意げな顔をする。
「“恋”とは自分の興味関心であり、短期間で成立するもの。“愛”は相手のため、2人のためのものであり、長期間かけて育むもの。って感じで決定的な違いがあるんよ」
ネットにでも書いてあったのか、スラスラと述べた。
その後に「でも、」と否定する言葉が聞こえた。
「俺的にはね、“恋”は欲しがるものだと思う」
「へ?欲しがるもの?」
聞いたことがない見解だ。
「“恋”は欲しがるもの」なんて、幸人以外に誰が思いつくだろう。
「そう。“付き合いたい”とか、“ずっとそばにいて欲しい”とか、相手の気持ちを考えずに思うじゃん?」
まあ確かにそうかもしれない。
相手と一緒に居られることに喜びを感じることが“恋”なのだから。
では、“愛”は…?
「“愛”は、相手の幸せを願うことだと思う」
「幸せ?」
「うん。自分はどうなってもいいから、相手には笑っていて欲しいって思えることだと思う」
一理ある。でもそれは…
「それってただの自己犠牲じゃない?」
自己犠牲が愛になるなんて、なんて皮肉な話だろう。一緒にいるだけで幸せと思えることも“愛”と呼べると思うが。
「そんなもんだよ、夢叶」と、幸人は笑う。
「“愛”とは何かの答えは星の数ほどある。その中にはさっき夢叶が言った“自己犠生”も入ってるよ」
確かに、「“愛”とは何か」の答えはそれこそ人の数だけあるだろう。
愛は自己犠生。なんという皮肉。
でも、いきなりこんな話を始めた幸人の意思が掴めない。
「でね、俺が何を言いたいかと言うと...」
珍しかった。幸人はいつもはこんなにも勿体ぶることはしない。
すごく気になって幸人の目をじっと見る。
「夢叶を愛してるって話!」
満面の笑みで言われた。顔が少しずつ熱くなっていくのを感じる。
笑顔が眩しかった。この笑顔を守りたい。なんとしてでも。何をしてでも。
「幸せにしたい」
そう思った。
あぁ…私は幸人を愛してる…
私はこの時初めて愛を知った。幸人とは中一の冬から付き合い始めていた。
愛を初めて実感したのは、付き合い始めてから半年くらい経った時期。
その日から幸人は家で二人きりになるたびに「愛してる」と言うようになった。
それに対し私は「ありがとう」としか言わなかった。
言いたくないとか、言うつもりがないとかそういうことじゃない。
この関係が続き、二十歳になったときに言おう。そう決めていた。
でも、中三の冬あたりから幸人は「愛してる」と言わなくなった。
心なしか態度も冷たくなった気がした。
それでも好きだった。「愛してる」と言われなかろうが、冷たい態度を取られようが、私は幸人を好いていた。
今考えたらこれはただ依存してるだけだったかもしれない。
依存というのは怖いものだ。なんとか柱に支えられてる倒れかけの板のようで。
その柱がなくなった途端にパタンと寂しい音を立て、倒れる。私もそうだった。
中学を卒業し、高校が別々になり顔を見る頻度は格段に減った。
連絡先は交換していたので、たまにメッセージを交わした。
しかし、やはりメッセージ上でも態度は冷たい。メッセージを先に送るのはいつも私からだった。
そして六月。珍しく幸人からメッセージが来た。嫌な予感がした。そして、その嫌な予感は当たった。
「別れよう」
その一言が胸に突き刺さる。流石に半年以上冷たい態度をとられれば、こうなることも想像がつく。
だが、傷つかないわけではない。
泣いた。一晩中、文字通り涙が枯れるまで。
私はあんなにも大きな感情を誰かに抱いたことはなかった。
それ故に、2年以上経ち、高三になった今でも幸人に対して「愛してる」と言うことができる。
いつから考え始めたのか、もう思い出せない。この言葉を忘れたことは一瞬たりともなかった。
『太陽と月が仲良くしてくれたら良かったのに』
この言葉は中学の理科の授業で、先生がついでに教えてくれた言葉だ。
太陽は昼、月は夜の象徴。
昼と夜が仲良くなる、でも、一緒になるなんてありえない。
しかし、もしも昼と夜が仲良くなり、昼夜が混在すれば「時」という概念は無くなり、時間が止まる。
「太陽と月が仲良くすればいいのに」の意味としては『時が止まればいいのに」という願いになる。
しかしそれは、文が現在形であればの話だ。
私が願ったのは過去形。
つまり、願いも一緒になって意味が変わる。
『あの時に戻りたい』
私は未だに過去に囚われている。
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