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幸人の妹
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声が聞こえる。いつも聞いてる声。気の強そうなハリのある声。
何をしていたんだろう?学校の授業をして…そして帰りのホームルームを聞いていて…その後の記憶がない。
「いい加減起きろー!」
「うわぁ!」
耳元でものすごく大きな声が響く。びっくりして私は跳ね上がった。
どうやら眠っていたようだ。ホームルームはすでに終わっていたらしく、周りには私たち以外誰もいない。
「やっと起きた!何回も声かけたのに、全然起きないんだもん!」
ああ…あれは夢だったのか。嫌な夢だ。ただでさえ、毎日焦がれているのに。随分と大きな時差で頭が回らない。
確か今は高校三年生、川島夢叶。よし、大丈夫。
「どっかで見たことのある顔…」
何を言っているのだろう、まだ寝ぼけてるのだろうか。
すると、目の前の少女はブチ切れる。
「はぁ!?寝ぼけてんの!?」
「アハハ、そうみたい…」
「アハハじゃねえよ!」
と、いつも通りの何気ない会話をする。
「つまんなそうな顔してんね」と最初に言われた時、夢叶は本当にびっくりした。失礼極まりない。実際つまらなかったが。
男の子のような気の強い喋り方が清々しくて、「この子になら心を開けるかも知れない」と思えてすぐに仲良くなった。
お互いに自己紹介をした時には「私は岩崎結愛!あまり高校に馴染めてないんだけど、仲間がいて安心した!」と、またもや失礼なことを言われたものだ。
学校に馴染めていない、というところには驚いた。
どうやら結愛は心を開くまでに時間がかかるらしい。夢叶には親近感が湧いたから勇気を持って話しかけられたとのこと。本当にたまに失礼なことを言う。
「何か夢でも見てたの?」
一年の春のことを思い出し、記憶に浸っていたところを現実に戻される。
「ん~…」
確かに見ていた。懐かしい夢を。愛しくてたまらない夢を。
しかし、それを話したところで何になる。
「さぁ?忘れちゃったな」
嘘をついた。自分でも思ってることを言われたくなかったから。「未練がましい」と自分でも思う。
言い方を変えれば「一途」なんて綺麗な言葉にできるが、依存していた私からしたらそんな綺麗な言葉を使うには分不相応だ。
「ふーん、まあいいや。帰る」と、結愛は言う。
外に出ると、日差しが私たちを突き刺すように照らす。六月も終盤に差し掛かってもうすぐ七月になるという時期だ。
「あっつーい」
と、結愛は太陽に向かって悪態をつく。
実際暑い。最近まで梅雨だったこともあってジメジメする。毛穴という毛穴から汗が噴き出てくる。
結愛はショートカットだからいいが、私は髪の毛が長い。腰まで伸ばし、下ろしている。幸人に振られたあの日から髪の毛は切っていない。
首周りに熱と水分が溜まり、髪の毛が張り付いて鬱陶しい。
(そろそろ髪の毛、結ぼうかな)
もう夏、受験シーズンだ。人によっては就職という道もあるだろう。でも私は大学に行かなくてはならない理由がある。
勉強もそこまで好きではないが、やって損はない。
「てか、もうすぐ期末テストじゃない?」
そう言うと、結愛はあからさまに嫌そうな顔をする。
「勉強してる?」
「は?してるわけないじゃん」
どうやら開き直っているようだ。
「大学受験に響くよ」
「大学なんて行かなーい」
よほど勉強がめんどうくさいのだろう。拗ねたように口をとんがらせる結愛を見て、ため息をつく。
「それじゃあ、四年間大学で自由な時間を持ちつつ勉強するか。会社に就職して自由な時間を持つはずだった四年間を社畜として働くか、どっちがいい?」
「…夢叶、勉強教えて」と、暗い声で結愛は言う。
社畜よりも自由。さすがは結愛だ。
まぁ大学には行きたくなくても「とりあえず行く」というだけでも楽しい四年間を過ごすこともある。
青春は本当にわずかな時間しかないということを、自覚している若者は少ない。
でも私は知っている。幸人と過ごす時間が終わってしまったから。永遠なんてないということを知ってしまったから。
「分かったよ、それじゃ今から図書館に行こうか」
右の方から黒いオーラが見える気もするが、あえてスルーをする。
私は結構な頻度で結愛に「勉強を教えて」と頼まれる。
私が学年上位の成績をキープし続けているからだろう。結愛に勉強を教えるために勉強していると言っても過言ではない。
数分歩いて図書館に着いた。冷房がよく効いていて気持ちいい。
二時間ほど勉強して結愛とは解散した。それなりに解ける問題は増えたと思う。
その時、携帯にメッセージが来た。よく知っている人物だ。
幸人には妹がいる。付き合っていた頃、幸人に会いに行きたくてその子を理由によく家に行っていた。
人から別れの連絡を受けた時に「妹とは仲良くしてやってくれ」と言われ、たまに連絡をとっている。
しかし、こんなことを言われることを予想できる人間がいるだろうか。
幸人の妹、岩田かすみ。とても可愛らしい女の子。
その子から衝撃の一言が放たれた。
「幸人が肝臓癌になった」
何をしていたんだろう?学校の授業をして…そして帰りのホームルームを聞いていて…その後の記憶がない。
「いい加減起きろー!」
「うわぁ!」
耳元でものすごく大きな声が響く。びっくりして私は跳ね上がった。
どうやら眠っていたようだ。ホームルームはすでに終わっていたらしく、周りには私たち以外誰もいない。
「やっと起きた!何回も声かけたのに、全然起きないんだもん!」
ああ…あれは夢だったのか。嫌な夢だ。ただでさえ、毎日焦がれているのに。随分と大きな時差で頭が回らない。
確か今は高校三年生、川島夢叶。よし、大丈夫。
「どっかで見たことのある顔…」
何を言っているのだろう、まだ寝ぼけてるのだろうか。
すると、目の前の少女はブチ切れる。
「はぁ!?寝ぼけてんの!?」
「アハハ、そうみたい…」
「アハハじゃねえよ!」
と、いつも通りの何気ない会話をする。
「つまんなそうな顔してんね」と最初に言われた時、夢叶は本当にびっくりした。失礼極まりない。実際つまらなかったが。
男の子のような気の強い喋り方が清々しくて、「この子になら心を開けるかも知れない」と思えてすぐに仲良くなった。
お互いに自己紹介をした時には「私は岩崎結愛!あまり高校に馴染めてないんだけど、仲間がいて安心した!」と、またもや失礼なことを言われたものだ。
学校に馴染めていない、というところには驚いた。
どうやら結愛は心を開くまでに時間がかかるらしい。夢叶には親近感が湧いたから勇気を持って話しかけられたとのこと。本当にたまに失礼なことを言う。
「何か夢でも見てたの?」
一年の春のことを思い出し、記憶に浸っていたところを現実に戻される。
「ん~…」
確かに見ていた。懐かしい夢を。愛しくてたまらない夢を。
しかし、それを話したところで何になる。
「さぁ?忘れちゃったな」
嘘をついた。自分でも思ってることを言われたくなかったから。「未練がましい」と自分でも思う。
言い方を変えれば「一途」なんて綺麗な言葉にできるが、依存していた私からしたらそんな綺麗な言葉を使うには分不相応だ。
「ふーん、まあいいや。帰る」と、結愛は言う。
外に出ると、日差しが私たちを突き刺すように照らす。六月も終盤に差し掛かってもうすぐ七月になるという時期だ。
「あっつーい」
と、結愛は太陽に向かって悪態をつく。
実際暑い。最近まで梅雨だったこともあってジメジメする。毛穴という毛穴から汗が噴き出てくる。
結愛はショートカットだからいいが、私は髪の毛が長い。腰まで伸ばし、下ろしている。幸人に振られたあの日から髪の毛は切っていない。
首周りに熱と水分が溜まり、髪の毛が張り付いて鬱陶しい。
(そろそろ髪の毛、結ぼうかな)
もう夏、受験シーズンだ。人によっては就職という道もあるだろう。でも私は大学に行かなくてはならない理由がある。
勉強もそこまで好きではないが、やって損はない。
「てか、もうすぐ期末テストじゃない?」
そう言うと、結愛はあからさまに嫌そうな顔をする。
「勉強してる?」
「は?してるわけないじゃん」
どうやら開き直っているようだ。
「大学受験に響くよ」
「大学なんて行かなーい」
よほど勉強がめんどうくさいのだろう。拗ねたように口をとんがらせる結愛を見て、ため息をつく。
「それじゃあ、四年間大学で自由な時間を持ちつつ勉強するか。会社に就職して自由な時間を持つはずだった四年間を社畜として働くか、どっちがいい?」
「…夢叶、勉強教えて」と、暗い声で結愛は言う。
社畜よりも自由。さすがは結愛だ。
まぁ大学には行きたくなくても「とりあえず行く」というだけでも楽しい四年間を過ごすこともある。
青春は本当にわずかな時間しかないということを、自覚している若者は少ない。
でも私は知っている。幸人と過ごす時間が終わってしまったから。永遠なんてないということを知ってしまったから。
「分かったよ、それじゃ今から図書館に行こうか」
右の方から黒いオーラが見える気もするが、あえてスルーをする。
私は結構な頻度で結愛に「勉強を教えて」と頼まれる。
私が学年上位の成績をキープし続けているからだろう。結愛に勉強を教えるために勉強していると言っても過言ではない。
数分歩いて図書館に着いた。冷房がよく効いていて気持ちいい。
二時間ほど勉強して結愛とは解散した。それなりに解ける問題は増えたと思う。
その時、携帯にメッセージが来た。よく知っている人物だ。
幸人には妹がいる。付き合っていた頃、幸人に会いに行きたくてその子を理由によく家に行っていた。
人から別れの連絡を受けた時に「妹とは仲良くしてやってくれ」と言われ、たまに連絡をとっている。
しかし、こんなことを言われることを予想できる人間がいるだろうか。
幸人の妹、岩田かすみ。とても可愛らしい女の子。
その子から衝撃の一言が放たれた。
「幸人が肝臓癌になった」
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