異世界転移物語

湖

    確かにそれは見事な光景だった。森の中の単調な風景に飽き飽きしていた僕らにとって、それは一筋の光明ともいえよう。

「この水、飲めるかなあ……」

「いや、それはまだやめといた方がいいと思うけど」

    緑色になっているのが、樹々が映り込んているせいなのか定かではなかったが、この水が綺麗かどうかは分からない。慎重に判断したほうが良いだろう。

    流れのある川ならば、もしかしたら水も飲めるかも知れないが……。この湖につながる川でもあれば……。

    そんな期待を込めて、周辺を調べようとしたが、湖岸は草が生い茂っていて、湖周りの移動が困難だったため、反対側に川があるのかは確認出来なかった。

「湖には魚もいるね」

    魚も泳いでいるようだ。

「そうだ。健太君、魚釣ろうよ！」

    桂坂さんは名案を思いついたとばかりに手を打ってはしゃいでいる。だが、僕はそれに対して小さく首を振る。

「ごめん。僕、釣りやったことないんだ。釣竿だってないし……」

「ええっ！  健太君て使えない男だったんだ……」

    桂坂さんはさもガッカリとばかり、大げさに落胆の意を示す。僕だって力になれるならなりたいさ。でも今は無理。

「じゃあ、さあ。湖に飛び込んで魚捕まえて来てよ」

「おい！  無茶言うなよ！  この季節なら水温はそんなに冷たくないだろうけど、魚捕まえるなんて無理だよ」

    僕は一応カナヅチではないが、そんなに泳ぎが得意というわけではない。それに、人食いワニとかいたらどうするんだよ。

「冗談よ」

    桂坂さんは、それでも未練がましく湖面を見つめる。

「まあ、でも、どうしても食べ物がない、ってことならば、何でもやるしかないかもな……」

    僕はせめてもの慰めにそう声をかけた。だが、それは本心だ。最終手段の一つの選択肢としては頭の隅に置いとく必要はあるだろう。

     僕らは水を持ち帰る容器も持って来てなかったので、明日また出直すことにして、とぼとぼと帰路についた。とりあえず水のあるところを確認出来ただけでも良しとせねばなるまい。