15 / 319
動物のいない森
しおりを挟む
しかし、午前中、目一杯使って、歩き回ったが、結局、何も進展しなかった。昨日はまだ湖を見つけられた分だけラッキーだったが、今朝は本当に行けども行けども森ばかりだ。活動範囲は確実に広がっているのだけれど。
「一体、どうなってるの? この森は」
桂坂さんが歩きながら、疲れた表情で呟く。
「これじゃ、まるで迷宮だね」
「私たちは、迷路から出られなくなったマウスってことね」
「でもさ、まだ恵まれている方だと思うよ。これで凶暴な猛獣とかいたら、僕ら一瞬でお陀仏だよ」
「映画なんかではお決まりの展開よね」
は僕は桂坂さんの言葉で、昔見た映画を思い出した。無人島で置き去りにされた主人公が、仲間とサバイバルするが、森の怪物に次々と襲われて、最後には一人だけ生き残るみたいな話だった。
怪物に襲われるシーンは、今思い浮かべてもゾッとする。いろんなサスペンス映画を見てきたが、一番と言っていいくらい恐怖感を感じたのかも知れない。
「こんな話、やめよう。もっと希望の持てる明るい話題にしようよ」
僕は桂坂さんに提案した。
「あら、もしかして怖いの? まあ、でも私だって実際には怖くて、こうやって強がってるだけだから、あなたを馬鹿には出来ないけどね」
桂坂さんは意外と素直に白状した。
「とりあえず怪物に遭遇していないのはいいとしても、鳥一匹目にしないというのはやっぱり違和感あるな」
僕は少し話題を変えた。
「そう? 私は特に感じないけど。普段、あんまり鳥とか見ないからかなあ。近所にいるのはカラスぐらいだもんね」
「虫だけはちょこちょこいるんだけど、リスとかウサギとか全然いない」
「リスとかウサギって、日本の山じゃもともとそんなに居ないんじゃないの? 私も全然その辺の知識はないけど」
「例えば、で例を挙げただけだよ。僕がそれに詳しいわけでもない。日本の山なら、猿とか鹿とかイノシシ、熊なんかがいたりするよね」
「ああ、時々、人里に降りてきたり、車に轢かれたりしてニュースになってたりするわね」
「うん。僕が言いたいのは、それらよりもっと小さいトカゲみたいなものすら目にしないってのが気になるってことさ」
「うーん。それがどれほど重要なことなのかピンと来ないわね」
桂坂さんはそう表現したが、僕だってこのことがどんな意味を持つのか、答えを持っているわけではない。
「まあ、そのうち何か分かるといいけどな」
これ以上、この話を続けていても、実りあるものが得られるとは思えなかった。時が経つのを待つしかないのだろうか。それでも一人だけでいたときに比べれば、桂坂さんと話せるだけで随分多様な見方が出来るようになった気がした。
「一体、どうなってるの? この森は」
桂坂さんが歩きながら、疲れた表情で呟く。
「これじゃ、まるで迷宮だね」
「私たちは、迷路から出られなくなったマウスってことね」
「でもさ、まだ恵まれている方だと思うよ。これで凶暴な猛獣とかいたら、僕ら一瞬でお陀仏だよ」
「映画なんかではお決まりの展開よね」
は僕は桂坂さんの言葉で、昔見た映画を思い出した。無人島で置き去りにされた主人公が、仲間とサバイバルするが、森の怪物に次々と襲われて、最後には一人だけ生き残るみたいな話だった。
怪物に襲われるシーンは、今思い浮かべてもゾッとする。いろんなサスペンス映画を見てきたが、一番と言っていいくらい恐怖感を感じたのかも知れない。
「こんな話、やめよう。もっと希望の持てる明るい話題にしようよ」
僕は桂坂さんに提案した。
「あら、もしかして怖いの? まあ、でも私だって実際には怖くて、こうやって強がってるだけだから、あなたを馬鹿には出来ないけどね」
桂坂さんは意外と素直に白状した。
「とりあえず怪物に遭遇していないのはいいとしても、鳥一匹目にしないというのはやっぱり違和感あるな」
僕は少し話題を変えた。
「そう? 私は特に感じないけど。普段、あんまり鳥とか見ないからかなあ。近所にいるのはカラスぐらいだもんね」
「虫だけはちょこちょこいるんだけど、リスとかウサギとか全然いない」
「リスとかウサギって、日本の山じゃもともとそんなに居ないんじゃないの? 私も全然その辺の知識はないけど」
「例えば、で例を挙げただけだよ。僕がそれに詳しいわけでもない。日本の山なら、猿とか鹿とかイノシシ、熊なんかがいたりするよね」
「ああ、時々、人里に降りてきたり、車に轢かれたりしてニュースになってたりするわね」
「うん。僕が言いたいのは、それらよりもっと小さいトカゲみたいなものすら目にしないってのが気になるってことさ」
「うーん。それがどれほど重要なことなのかピンと来ないわね」
桂坂さんはそう表現したが、僕だってこのことがどんな意味を持つのか、答えを持っているわけではない。
「まあ、そのうち何か分かるといいけどな」
これ以上、この話を続けていても、実りあるものが得られるとは思えなかった。時が経つのを待つしかないのだろうか。それでも一人だけでいたときに比べれば、桂坂さんと話せるだけで随分多様な見方が出来るようになった気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる