異世界転移物語

月夜

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豪華な食卓

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    その日の夕食には驚いたことに肉が出た。少量ではあるが、なんと牛肉だ。焼肉を食べるのはいつ以来だろう……

「私は一昨日焼肉食べたから、今日は遠慮しとくわ」

    全体量が少ないことも考えたのだろうが、生果さんはみんなを気遣ってそんな風に言った。僕は誰よりも興奮を隠さず、素直に喜びを体全体で表していた。そんな僕を他のメンバーは、唖然とした表情で見守っていてのだが。僕にとってはすごく久しぶりでも、最近転移してきた人ほどもの珍しさは弱いのだろう。

「この肉はもしかして自転車君が……」

    僕の問いかけに自転車君は照れたように笑った。

「いやあ、そんなに喜んでもらえるとはびっくりです」

「自転車君は、仲間内で食べる食事の食材などを仕入れに行ってたそうよ。野菜だって色々あるわよ」

    料子さんが横から解説してくれる。

「食材ばっかりでもないんですけどね。とにかく6人分の食材を買い出しに行っていて今回の事件に遭遇したんですよ。あまりにご都合主義的なタイミングでしたけどね」

    自転車君はそう言ってまた笑った。確かに思わず笑いが出てしまうほどのグッドタイミングではある。ドラマとかなら、出来すぎだろ!   と突っ込まれても仕方ないレベルであろう。

「本当は何日か分けて食べられたらいいんだけど、冷蔵庫もないし、さっさと食べちゃうしかないのよね」

    料子さんが少し残念そうに言う。

「大丈夫です!   今日食べたら、一ヶ月は余韻に浸れます!」

     僕は普段のキャラに似つかわしくないほどに、いつになくテンションが高くなっていた。

「保存が効きそうなものとしては、カップラーメンとか缶詰も少しあったわね」

    桂坂さんが思い出すように言った。昼間、一緒に荷物整理をしていたのだろう。

「ええ、安かったんでつい衝動買いで」

「透明ラップがあったのは衛生的にも色々助かりそうだわ」

   そう言ったのはナースさんだ。確かにラップがあれば、色々な用途に使えそうだ。

「いつも自転車に括り付けているバッグに入れている道具類も何かの役に立つかも知れませんね」

    自転車君がそう言ったので、僕は何が入っているのかを尋ねた。

「モバイルバッテリーに万能ナイフ、裁縫道具、接着剤、ハサミ、筆記用具、拡大鏡、方位磁針なんかですかね」

     結構色んなものを持ち歩いてるんだなあと思った。今すぐ役に立つかは分からないが、備品が充実していくのは悪くない。

「自転車君は大学生だって言ってたわよね。どこの大学?」

「あ、僕は埼玉に住んでて、S大学の法学部に通ってるんですが……」
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