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自転車君
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自転車君が事の次第を説明してくれた。やはり5月20日の午後1時頃にいきなり目眩に襲われて、気がついたらこの世界に来ていた、というのはみんな一緒だ。
「それにしても、まさかこんなことになるとは」
腕を組みながら、自転車君は「うーん」と唸った。自転車君は痩せてすらっとしているが、その割には筋肉はあるようだ。腕や足は結構太い。普段から自転車に乗って鍛えてるのかも知れない。顔は決してイケメンとは言えないが、やや浅黒く、スポーツマンタイプだ。
「自転車君は歳いくつなの?」
同い歳くらいかな、と思いながら訊いてみた。
「19歳です。大学一年生なんですよ」
「それなら、僕より二つ下だね。よろしく。僕は田所健太っていうんだ。みんなからは健太って呼ばれてる」
「俺のことはスカウトって呼んでくれ」
スカウトさんが本名を端折って自己紹介したのには少々驚いたが、よく考えるとここでは本名はさして意味を持たないので、どうせ覚えられないなら、呼び名だけ告げれば事足りるのではないだろうか。その方が理に適っている。
「スカウトさん、自転車が手に入ったのはすごくないですか?」
互いの自己紹介が終わったところで、僕は少し興奮気味にスカウトさんに話しかけた。
「そうだな。ちょっと驚いたな」
「これで、遠くまで森の調査に行けるかも知れませんね」
僕は声を弾ませて嬉しさを表したが、スカウトさんは意外にも浮かぬ顔だった。
「どうしたんですか?」
「うん。自転車があるとは言っても、それで俺たちの行動範囲が広がるとは考えにくいと思ってな」
「どういうことですか?」
「考えてもみろ。自転車で森の中を走り回れると思うか?」
「あっ」
森の中に人間が通るような道があるわけではない。僕たちは草が生い茂っている樹々の間をかき分けながら森の探索をしていてのだ。
「自転車で動けないこともないが、スイスイ走るというわけにはいかない。結局、歩くのとそれほど変わらないだろう」
「そうですね。今日、この家に来る時も、自転車を押して来たんですが、ただ歩くよりむしろきつかったぐらいです」
自転車君の報告を聞いて、僕は落胆した。ちょっと期待してたんだけどな。
「そうがっかりするな。自転車が全く無駄ってわけじゃない。集落の中の家の間の移動には使えると思う。使い方とか、誰が使うとか考える必要はあると思うけどな」
スカウトさんがそう励ましてくれたのに重ねるように、自転車君も補足した。
「それに自転車なら多少の荷物が積めるので、手で運ぶより楽だと思います。そのために少し改造した自転車ですから」
ああ、あれはやっぱり改造してたんだ。それは都合がいい。考えてみれば、自転車も結構役に立つかも知れない。
「それにしても、まさかこんなことになるとは」
腕を組みながら、自転車君は「うーん」と唸った。自転車君は痩せてすらっとしているが、その割には筋肉はあるようだ。腕や足は結構太い。普段から自転車に乗って鍛えてるのかも知れない。顔は決してイケメンとは言えないが、やや浅黒く、スポーツマンタイプだ。
「自転車君は歳いくつなの?」
同い歳くらいかな、と思いながら訊いてみた。
「19歳です。大学一年生なんですよ」
「それなら、僕より二つ下だね。よろしく。僕は田所健太っていうんだ。みんなからは健太って呼ばれてる」
「俺のことはスカウトって呼んでくれ」
スカウトさんが本名を端折って自己紹介したのには少々驚いたが、よく考えるとここでは本名はさして意味を持たないので、どうせ覚えられないなら、呼び名だけ告げれば事足りるのではないだろうか。その方が理に適っている。
「スカウトさん、自転車が手に入ったのはすごくないですか?」
互いの自己紹介が終わったところで、僕は少し興奮気味にスカウトさんに話しかけた。
「そうだな。ちょっと驚いたな」
「これで、遠くまで森の調査に行けるかも知れませんね」
僕は声を弾ませて嬉しさを表したが、スカウトさんは意外にも浮かぬ顔だった。
「どうしたんですか?」
「うん。自転車があるとは言っても、それで俺たちの行動範囲が広がるとは考えにくいと思ってな」
「どういうことですか?」
「考えてもみろ。自転車で森の中を走り回れると思うか?」
「あっ」
森の中に人間が通るような道があるわけではない。僕たちは草が生い茂っている樹々の間をかき分けながら森の探索をしていてのだ。
「自転車で動けないこともないが、スイスイ走るというわけにはいかない。結局、歩くのとそれほど変わらないだろう」
「そうですね。今日、この家に来る時も、自転車を押して来たんですが、ただ歩くよりむしろきつかったぐらいです」
自転車君の報告を聞いて、僕は落胆した。ちょっと期待してたんだけどな。
「そうがっかりするな。自転車が全く無駄ってわけじゃない。集落の中の家の間の移動には使えると思う。使い方とか、誰が使うとか考える必要はあると思うけどな」
スカウトさんがそう励ましてくれたのに重ねるように、自転車君も補足した。
「それに自転車なら多少の荷物が積めるので、手で運ぶより楽だと思います。そのために少し改造した自転車ですから」
ああ、あれはやっぱり改造してたんだ。それは都合がいい。考えてみれば、自転車も結構役に立つかも知れない。
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