異世界転移物語

青年

    森の探索のほうは、夕方まで続けたが、やはりめぼしい収穫はなかった。僕はそちらの結果にも落胆の色を隠さなかったが、スカウトさんはある程度予想していたのか、成果が特になくとも全然がっかりする様子は見せなかった。

    日が暮れる頃に家に戻ると、家の前で思わぬものを発見した。
        
「おお！」

    僕とスカウトさんはそれを見た途端、揃って驚きの声を発してしまった。

「そりゃ、びっくりするわよね」

    桂坂さんが僕たちの声を聞きつけて、家の中から出てきた。生果さんも一緒である。

「まさか、今日来た人が持ってきたのか？」

 「そのまさかよ」

    スカウトさんの問いかけに、桂坂さんが大きくうなずいた。僕は早速、それのハンドルを握ってみた。

    僕たちが目にすることになったのは、一台の黒い自転車だった。ごく普通のタイプで、ただ前かごと荷台部分の作りが通常よりしっかりしているように思える。少し手が加えられているのかも知れない。

「この自転車の持ち主は今どこに？」

「彼なら中で荷物整理しているわ」

    生果さんが家のほうを見ながら答えた。僕たちは桂坂さんたちと一緒に家の中に入った。

「あ、どうも」

    僕たちに気づいた自転車の持ち主らしき人物は、軽く会釈をした。

「君が今日こっちに来たんだよね？」

    スカウトさんが一応確認する。

「はい。彼女たちからだいたいの話は聞きました。いやあ、驚きましたよ！」

「君の名前は？」

彼がそのまま興奮気味で語り続けそうなので、僕はそれを遮るように彼の名前を尋ねた。

「あ、言い忘れてました。僕の名前は林競輪っていいます」

「キョウワ？   珍しい名前だね」

「ええ、漢字で書くと競輪なんで、ニックネームは昔からけいりんでしたけどね。父親が競輪好きなんで」

「それはまたすごいな。ギャンブル好きな父親だと何かと苦労しただろ」

   スカウトさんの指摘に、彼は笑って答えた。

「いえ、父は競輪の選手だったんです」

「あ、そっちか」

「自転車君は、自転車だけじゃなくて、荷物もいっぱい持ってきてくれたのよ」

    僕たちの会話に、桂坂さんが割って入った。

「自転車君？」

「そう。なんか私たちの中では、その呼び名が定着しちゃつて」

    私たちというのは、桂坂さんら女性四人のことだろう。ハヤシキョウワならそんな難しい名前でもないとは思うが、誰かが最初に自転車君と呼んで、そのまま他の人も言い始めたのかも知れない。まあ、自転車君なら言いやすくはある。

「ちょうど色々買い出しに行った帰りだったんですよ。自転車に目一杯積んで、さあ出発というところで、目眩に襲われて……」