異世界転移物語

月夜

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向こうの世界についての考察

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   なるほど、とスカウトさんはうなずいた。

「では明日、路木さんにも同行してもらって、道作りのことも検討しよう。水汲みの方は健太と大工さんも加わってくれませんか」

    僕は勿論だが、大工さんも快く了承した。

「午後の迎えは?」と桂坂さん。

「ああ、水汲みは午前中に戻れるだろう。だから、昼一はいつも通りでいい」

    夕食のときには、路木さんが来た時に家族と一緒だったという話題になった。

「奥さんとお嬢さんはいくつぐらいなんですか?」

    保育士さんが興味深そうに訊く。

「妻は四十八、娘は高校二年だ」

「一緒に買い物行くなんて、仲が良いんですね」

「まあ日曜ぐらいは家族サービしないとな。使い勝手のいい荷物持ちってところだ」

「今頃、奥さんと娘さん、びっくりしてるんでしょうね」

   その桂坂さんの言葉には、僕は異議を挟んだ。

「さあ、それはどうだろう?  僕たちはみんな5月20日の午後1時にこちらの世界に来たんです。そのあと、向こうの世界がどうなっているか分からないよ」

「どういうこと?」

    僕は以前から考えていたことを話し出した。

「こんな不思議な事態を理屈で説明しようとしても出来ないけど、考えるだけなら出来る。向こうの世界で時間が止まっていることも考えられるし、あるいはその時刻で世界が終わっていることもあり得る」

    僕の話を理解できた人もいれば、訳がわからないと口を開けたままぽかんとしている人もいる。

「つまりこう考えたのね」

   理科さんが切り出した。

「毎日一人ずつこちら側の世界に来るとすれば、現在世界人口が七十億として、七十億日後には全員がこちらの世界に来てしまう。もし、そうなるなら向こうの世界が続く意味は少なくとも人間にはないってことね」

「なるほど。つまり妻や娘は、俺がいなくなってパニックになるんじゃなくて、そもそもその瞬間以降の時間を経験しないということか」

    路木さんはなかなか頭の回転が早いようだ。

「あくまでも可能性の一つですけどね」と僕。

「七十億日後ってどれくらい先なんですかね?」

   自転車君がそういうので、理科さんが手早く計算した。

「およそ一千九百万年てところかしら」

「そんなに!」

    僕たちは一様に驚愕の表情になった。

「途方もない時間ですね……」と生果さん。

「でも、別の考え方もある。こちらに来る法則がどこかで止まると考えた場合だ。例えば、百人ほどでストップするならば、向こうの世界では、百人の同時刻消失事件として騒がれることになるかもしれない」

   路木さんの考察は正しい。むしろ、そのほうがまだ現実的だ。
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