異世界転移物語

新リーダー決定

「スカウトさんのは謙遜が過ぎるような気がするけど、私は健太君でもいいかな、って思う」

    意外なことに真っ先に賛成したのは桂坂さんだった。

「この中では一番長く健太君と一緒に生活してるから言うけど、健太君は確かに普段はダメダメだけど、やるときにはやる人なんだって思うわ。実際、そんな場面も何度か見てきた」

    桂坂さんの話は妙に説得力があるのか、みんな静かに聞いている。

「仕事が出来ないってのは確かにそう。でもそれはリーダーの条件ではないわ。まとめる力っていうのは必ずしも仕事が出来るかどうかとは別じゃないかと思うの」

「まあな。それは一理ある」と電気さん。

「それに、なんでもバリバリこなすスーパーマンよりも、ちょっと抜けた頼りないリーダーのほうが、みなの団結力も高まるってものよ、ね？」

    桂坂さんはスカウトさんに同意を求める。

「そういうことだ」

「ちょっと待って。健太君はどうなのよ？   リーダーをやる意思はあるの？」

    料子さんが僕のほうを見る。

「ええと……スカウトさんから事前に話があって、その時は僕もなんで僕がって思ったんですけど。それに僕もスカウトさんがリーダーにふさわしいと思ってたんですが、色々話してたら」

「ごちゃごちゃしてるのはいいから！  結論だけ聞きたいの。健太君はリーダーやってもいいの？」

     僕はほんの少しだけ逡巡したあと、答えた。

「やれと言われればやります！」

    皆はしばらく互いに顔を見合わせたりしていたが、やがてぽつりぽつりと賛成意見を出し始めた。

「まあ、そういうことなら」

「健太君でいいかもね」

「僕も健太さんでいいと思います」

「ぼーっとしてる奴のほうが案外リーダーに向いてるかもな」

「結局、リーダーなんて誰がやっても大差ないんじゃない？」

    ガヤガヤし始めたのを見て、スカウトさんがまとめる。

「じゃ、新リーダーは健太でいいと思う者は手を挙げて！」

     スカウトさんの呼びかけで、集まっていたメンバーが手を挙げてゆく。消極的賛成だと思われる手のあげ方をしている者も数名見受けられたが、とりあえず満場一致で僕がリーダーに選出された。

    しかし、選考過程。なんだか、半分くらい貶されてたような気がするが……

「ほら、新リーダー、挨拶」

    スカウトさんが俺の背中を押す。

「ええと、この度、新リーダーに選ばれました田所健太でございます」

    笑いが起きるが、一体何を話せばいいのか。

「まあ、やれるだけやってみるので、よろしくお願いします」

「なんだ、それ。挨拶のつもりか。気の抜けた挨拶だな」