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スーパーハッカーの意図
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「なんか雲をつかむような話ですね」
「もちろん、こっちの世界ではもう関係ない話なんだけどね」
陽子さんは一つ咳払いをして続けた。
「もしそんな高度なテクニックを持ったアクセス者がいるとすれば、それは私たちの今の情報処理レベルをはるかに超えた存在かもね。スーパーハッカーとでも言うような。特異的に生まれた驚異の天才かも知れない」
「でもちょっと待ってください。それだけの技術があれば完全にアクセスした痕跡を消すことすら可能なんじゃないですか?」
「いいところに気が付いたね。まさしくそこが噂が広まった原因の一つなんだと思う。どうもわざと痕跡を残しているようにしか思えないんだよね、これが」
「アクセスしたことを伝えたい、ってことですかね?」
「いや、そうじゃない。こちらに表明するというよりも、アクセス者自身の記録のために行っているんじゃないか、というのが大方の研究者の見解みたい」
「なんでそんなことするんですか?」
和也は解せぬと言わんばかりの顔をする。
「いろんな説があるけどね。私はおそらく何度も何度もアクセスして新情報に更新するためじゃないかと考えてるわ。二度目以降のアクセスをさらにスムーズにするため、と言い換えてもいいかも」
なんだかかなり難しい話になってきた。聞き耳を立てているだけの僕には理解しがたい領域に突入している。
「うーんと、それはアクセス者自身の目印に、ということなのかな……。もしそうだとすれば、こちらでその痕跡を消してやれば再度のアクセスはしづらくなると思うんだけど、どうなんだろう?」
理科さんが言葉を選びながら探るように意見を出す。
「それがね。そう簡単にはいかないみたい。痕跡を消そうと試みた者はたくさんいるけど、誰も成功したものはいないの。それだけ謎の仕組みで足跡を残しているってこと」
和也ではないが、それこそまさしく実態のない雲を掴むような話だ。その後も三人の会話は続けられたが、この世界では調べようのないテーマなのでそれ以上の身のある話に発展することはなかった。
そうこうするうちに、元の集落にかなり近づいてきたので、僕は金田さんに声をかけた。
「どうですか、金田さん。苦しいですか」
「ああ、いや、大丈夫だ」
金田さんはしっかりと歩き続けてはいるが、やはりまだハーハー言っていて苦しい様子が見てとれる。
「もう少しなんで、しばらくの辛抱ですよ」
僕は、こんな時にお医者さんがいたらなあ、と願わずにいられなかった。以前、ドクターや看護士さんがいたことで、いかに安心して暮らせていたか、今痛感している。
「もちろん、こっちの世界ではもう関係ない話なんだけどね」
陽子さんは一つ咳払いをして続けた。
「もしそんな高度なテクニックを持ったアクセス者がいるとすれば、それは私たちの今の情報処理レベルをはるかに超えた存在かもね。スーパーハッカーとでも言うような。特異的に生まれた驚異の天才かも知れない」
「でもちょっと待ってください。それだけの技術があれば完全にアクセスした痕跡を消すことすら可能なんじゃないですか?」
「いいところに気が付いたね。まさしくそこが噂が広まった原因の一つなんだと思う。どうもわざと痕跡を残しているようにしか思えないんだよね、これが」
「アクセスしたことを伝えたい、ってことですかね?」
「いや、そうじゃない。こちらに表明するというよりも、アクセス者自身の記録のために行っているんじゃないか、というのが大方の研究者の見解みたい」
「なんでそんなことするんですか?」
和也は解せぬと言わんばかりの顔をする。
「いろんな説があるけどね。私はおそらく何度も何度もアクセスして新情報に更新するためじゃないかと考えてるわ。二度目以降のアクセスをさらにスムーズにするため、と言い換えてもいいかも」
なんだかかなり難しい話になってきた。聞き耳を立てているだけの僕には理解しがたい領域に突入している。
「うーんと、それはアクセス者自身の目印に、ということなのかな……。もしそうだとすれば、こちらでその痕跡を消してやれば再度のアクセスはしづらくなると思うんだけど、どうなんだろう?」
理科さんが言葉を選びながら探るように意見を出す。
「それがね。そう簡単にはいかないみたい。痕跡を消そうと試みた者はたくさんいるけど、誰も成功したものはいないの。それだけ謎の仕組みで足跡を残しているってこと」
和也ではないが、それこそまさしく実態のない雲を掴むような話だ。その後も三人の会話は続けられたが、この世界では調べようのないテーマなのでそれ以上の身のある話に発展することはなかった。
そうこうするうちに、元の集落にかなり近づいてきたので、僕は金田さんに声をかけた。
「どうですか、金田さん。苦しいですか」
「ああ、いや、大丈夫だ」
金田さんはしっかりと歩き続けてはいるが、やはりまだハーハー言っていて苦しい様子が見てとれる。
「もう少しなんで、しばらくの辛抱ですよ」
僕は、こんな時にお医者さんがいたらなあ、と願わずにいられなかった。以前、ドクターや看護士さんがいたことで、いかに安心して暮らせていたか、今痛感している。
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