異世界転移物語

帰村した僕たち

「あとどれぐらいなの？」

　理科さんが隣に来て、金田さんを支えながら僕に尋ねた。

「そうですね。あと１時間くらいじゃないでしょうか」

「となると、着くのは午後１時頃か……」

　いつの間にか金田さんの横に来ていた和也が呟くと理科さんが言った。

「そう言えば、前の集落だと午後１時頃に毎日新しい人が来てたよね」

「そうでしたね。でもこっちでは毎日人が来るってことはなくて、不定期みたいですけど」

「ふーん。そうなんだ」

「陽子さんのいたところも不定期に人が来てたんですよね？」

　同じく金田さんのそばに寄り添っていた陽子さんに確認する。確か聞いた話だと陽子さん以外に８人いて、そこに３人ほど新しい人が来たということであったはず。だとすれば毎日ではない。

「そうよ。時間はいつも１時頃だったけどね」

「不思議なことに時間は一緒なんですよね。場所や日付は違っても、消えた瞬間の時間が１時のせいか、出現する時間だけは」

　それは奇妙にも思えるし、逆に当たり前と言われればそんな感じもする。

「陽子さん、その双眼鏡で遠くが見えたりします？」

　和也が陽子さんが首からぶら下げている双眼鏡を見ながら興味本位といった態度で訊く。

「そりゃ、双眼鏡だから遠くは見えるわよ。って、そういうことが聞きたいわけじゃないわよね。この森の中じゃ、正直まったく戦力にならないわ。樹々のせいで見通しは悪いし、光の量だって足りない」

「ですよね～」

　本当に興味本位だったらしく、あっさり同意して終わった。こういうところはちょっと馬鹿っぽい。

　そして僕たちは一時間ほど歩いて、なんとか元の村に無事にたどり着いた。時間は午後を一時をわずかに過ぎたところだった。

「あ、お帰りなさい！」

　料子さんが家の中から出てきて出迎えてくれた。僕は反射的に答える。

「ただいま」

「はじめまして」

　僕の横からすかさず陽子さんが挨拶する。

「あら、誰かしら。はじめましてよね。あら！理科さん！」

　陽子さんに続いて顔を見せた理科さんを見た途端、料子さんの顔がほころぶ。ふいに懐かしい知り合いに会うというのは、いつでも嬉しいものだ。

「それより金子さんを早く休ませないと」

　金子さんを横で抱えていた和也が大きな声を上げる。

「ああ、そうだった。金子さん、早く中に入って横になってください」

「金子さん！　どうしたの？　健太君、何があったの？」

　料子さんは和也と金子さんが家の中に入るのを見ながら、僕に事情を問いただした。

「向こうにいるうちに金子さんの具合が悪くなって……。帰るのを延期しようかとも思ったんですが、金子さんが大丈夫だって言うんで、無理して帰って来たんですよ」

「まあ……無茶するわね……」