異世界転移物語

楽観視

　僕が出現予定地を目を凝らして見ていると、例の白い靄がかかった。

「誰か来る！」

　僕は思わず叫んだが、徐々に靄は晴れ、その間から一人の男が姿を現した。それは意外な人物だった。

「栗原さん！」

　僕らは慌てて栗原さんに駆け寄る。栗原さんは工学部の院生の男性である。林さんや海原君と同時に行方不明になった人だ。

「海原君！　みんな揃って……一体どうなってるんだ？」

　栗原さんは戸惑うばかりだった。僕は手早く簡単に今の状況を説明した。その後の栗原さんの話によると、彼は林さんたちと森の中を歩いている時にめまいがしたらしい。そして気がついたらここにいたってわけだ。やはり、栗原さんの中では、あの時点から時が進んでいない。

　結果的に四人という大所帯で迎えに行く必要はなかったわけだが、海原君がいたおかげで行方不明になった時点の状態を再確認できて良かった。和也はもちろん初対面なので、互いに自己紹介などしつつ、家へと向かう。

「まあ、栗原さん」

　家に着くと料子さんが驚いて、口元に手をやる。

「それにしても金田さんがそんなことになっているとは」

　栗原さんが深刻な表情で顔を伏せる。僕は栗原さんの心情に共感した。

「ええ。栗原さんにとっては、林さんに案内されてすぐだから、何がなんだか分からないと思いますが、その間色々あったんですよ。そんなに何日も経ってるわけでもないのにね」

「林さんや海原君が先に戻っていたことにもびっくりしたんだけど、逆に楓さんがまだ戻ってないのはちょっと心配だな。健太君はどう思う？」

「法則とかまったく見当がつきませんが、三人が帰ってきたことから考えると、楓さんもいずれ帰ってくるんじゃないかな、って割と楽観視はしています。むしろ、今は金田さんのほうが心配の種ですね」

　その後はしばらく栗原さんに当時の状況をさらに詳しく聞いていたが、そうしていたところ、林さんと理科さん、陽子さんが顔を出した。どうやらちょっと外へ出かけていたらしい。

「おお、栗原君やないか。無事に帰って来れたんやな」

「ええ、おかげさまで」

　林さんが声をかけたのに続き、理科さんと陽子さんもそれぞれ栗原君と互いに自己紹介を交わした。林さんはすぐにまた出て行き、栗原さんと陽子さんは研究内容が近いのか、話が弾んでいるようだった。

「どこに行ってたんです？」と僕は理科さんに尋ねた。

「うん。集落の近くに少し高い木があるの知ってる？」

「あ、はい。南側にあるやつですよね。ちょっと頭一つ抜きん出てる感じの」