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領地編
5 町へ行きましょう
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今日はお忍びなので、使用人の子どもの服を借りている。ラウルもラフな格好となり、兄妹に見えなくもない。
二人は侍女たちに見送られて、街へと向かう。ラウルは馬に乗ることができるので、エリーナはその前に座った。馬車は目立つので、お忍びには向かないのだ。
乗馬は慣れないと腹筋が痛くなるが、悪役令嬢のプロにかかれば朝飯前。士官学校を舞台にした悪役令嬢では、華麗に馬を乗りこなしたものだった。
が、今回はそうもいかない。
まだ成長しきっていない体は筋肉がなく、体幹も弱い。馬が歩くたびにエリーナの体はぐらぐら揺れていた。
(あぁぁ、腹筋がつりそう)
「エリー様。私の体に背をお預けください」
肩越しにラウルを見上げれば、彼は心配そうな表情でエリーナ見ていた。不安定で危なっかしいのだろう。
「……そうするわ」
エリーナは少し悔しい気持ちになりながらも、その言葉に甘える。ラウルにすっぽり包み込まれる形になり、声がずっと近くで聞こえる。
「この辺りは麦畑が広がっていましてね、王都でも高値で取引される有名な麦なんですよ」
ラウルは領地の有名なものや人々の暮らしについて説明をしてくれた。すっかり課外授業だ。授業でも学んだが、実物を見るのは初めてだ。
「やっぱり外はいいわね。ずっと屋敷の中じゃ退屈だもの」
ラウルはくすくすと笑い、振動が体に伝わる。
「あれだけお願いされれば、ご主人様も折れるしかありませんよ」
「目的のためなら、手段は選びませんわ!」
それが悪役令嬢というものだ。祖父に会うたびに上目遣いでお願いをし、図書室にあった領地の本やグルメ本をさりげなく執務室の机に置いておいた。
「エリー様はたくましいご令嬢になりそうですね」
「もちろんよ! 私は強くなるんだから!」
おしゃべりをしている間も、馬は進んでいく。徐々に民家が増え、街が見えてきた。
「わぁ! にぎわってるわ!」
馬を民家で預かってもらい、ラウルに手を引かれながら街の中央へと向かう。ここは街の大通りで、道沿いに出店が立ち並んでいた。果物が積まれた店、焼き鳥を売っている店、可愛い雑貨を売っている店と、目移りをしてしまう。
「先生、あれが食べたいわ!」
くいくいと手を引いてせがんだのはクレープ。チョコレートがたっぷり入っていた。店先で焼いているのがまたいい。
「あれだけ本が欲しいと言っていたのに、お菓子の誘惑に負けるんですね」
そう意地悪な笑みを浮かべてからかわれたエリーナは、頬を膨らませて手を放した。
「女の子には甘いものも必要なのよ」
ぷいっと顔を背けて、自分で買うわと出店に近づく。
「お嬢ちゃんいらっしゃい」
「一つもらうわ」
「あいよ」
店主は慣れた手つきで生地を薄く延ばし、焼き上げていく。クレープは好きなお菓子の一つだ。世界によってあったりなかったりするので、ここで逃す手はない。
ラウルがすっと寄ってきて、代金を払ってくれた。
「ほら、食べて機嫌を直してくださいね」
甘い笑顔を浮かべたラウルは、店主から受け取ったクレープを渡してくれる。
「いいわ。レディの扱いには気を付けるのよ」
高飛車風に言ってみるが、クレープにかぶりつきながらでは、迫力にかけたかもしれない。おいしそうなクレープが悪い。
笑いをこらえているラウルに、ジト目を向けてから歩き出す。
「エリー様、食べ歩きははしたないですよ」
「何言ってるの。これが醍醐味じゃない」
「……そんなことどこで覚えたんですか」
「小説よ」
本当は今までの経験からだが、こういうことは何でも小説のせいにしておけばいい。
クレープを味わっていると、ラウルにやれやれと手を取られ歩き出す。一つ食べれば次々と欲望が生まれてくる。
(この世界にプリンあるかしら。イチゴのケーキも食べたくなってきたわ)
屋敷では祖父の好みなのか、食後のデザートは果物かゼリー。正直甘い物欲が満たされない。
(帰ったら料理長に頼んでみましょ)
子どもの体も女の子の心も、甘いものを望んでいる。
ペロリと食べ終わったエリーナを見て、ラウルは足を止めた。
「先生?」
エリーナも足を止め、彼を見上げる。
「チョコレートが口についてますよ」
可愛いですねと、しゃがみ込んだラウルの顔が近づいてくる。その時、突然前のゲームのシチュエーションがエリーナの頭をよぎり、身を固くした。
それはお忍びで街を散策した時にあったイベントだ。デート中の主人公の頬についたチョコレートを、攻略対象が舐めるという赤面もののシーン。
当然悪役令嬢は憤怒し、主人公への嫌がらせが加速していったが……。
「レディは身だしなみに気を使わなくてはいけませんよ」
ふわりと頬に触れる柔らかいもの。しょうがないですねと微笑みながら、彼はハンカチで口周りをふいてくれた。
「ちょっ、と、突然何するのよ!」
思いがけない行動に、エリーナはラウルを払うようにじたばたと手を振る。なんだか顔が熱い気がする。
「いえ、つい可愛らしくて」
行きましょうと伸ばしてきた手を、少しむくれながら取る。
(子ども扱いはやめてほしいわ。中身はおばさんなんだからね!)
十数人の悪役令嬢を演じた時間を合わせると、若いとは言えない年齢になる。それだけ精神年齢も高くなり、そろそろ悟りが開けそうだ。
さて、気を取り直して次は念願の本屋に向かう。
(ドロドロの修羅場があるロマンス小説を見つけるわよ!)
二人は侍女たちに見送られて、街へと向かう。ラウルは馬に乗ることができるので、エリーナはその前に座った。馬車は目立つので、お忍びには向かないのだ。
乗馬は慣れないと腹筋が痛くなるが、悪役令嬢のプロにかかれば朝飯前。士官学校を舞台にした悪役令嬢では、華麗に馬を乗りこなしたものだった。
が、今回はそうもいかない。
まだ成長しきっていない体は筋肉がなく、体幹も弱い。馬が歩くたびにエリーナの体はぐらぐら揺れていた。
(あぁぁ、腹筋がつりそう)
「エリー様。私の体に背をお預けください」
肩越しにラウルを見上げれば、彼は心配そうな表情でエリーナ見ていた。不安定で危なっかしいのだろう。
「……そうするわ」
エリーナは少し悔しい気持ちになりながらも、その言葉に甘える。ラウルにすっぽり包み込まれる形になり、声がずっと近くで聞こえる。
「この辺りは麦畑が広がっていましてね、王都でも高値で取引される有名な麦なんですよ」
ラウルは領地の有名なものや人々の暮らしについて説明をしてくれた。すっかり課外授業だ。授業でも学んだが、実物を見るのは初めてだ。
「やっぱり外はいいわね。ずっと屋敷の中じゃ退屈だもの」
ラウルはくすくすと笑い、振動が体に伝わる。
「あれだけお願いされれば、ご主人様も折れるしかありませんよ」
「目的のためなら、手段は選びませんわ!」
それが悪役令嬢というものだ。祖父に会うたびに上目遣いでお願いをし、図書室にあった領地の本やグルメ本をさりげなく執務室の机に置いておいた。
「エリー様はたくましいご令嬢になりそうですね」
「もちろんよ! 私は強くなるんだから!」
おしゃべりをしている間も、馬は進んでいく。徐々に民家が増え、街が見えてきた。
「わぁ! にぎわってるわ!」
馬を民家で預かってもらい、ラウルに手を引かれながら街の中央へと向かう。ここは街の大通りで、道沿いに出店が立ち並んでいた。果物が積まれた店、焼き鳥を売っている店、可愛い雑貨を売っている店と、目移りをしてしまう。
「先生、あれが食べたいわ!」
くいくいと手を引いてせがんだのはクレープ。チョコレートがたっぷり入っていた。店先で焼いているのがまたいい。
「あれだけ本が欲しいと言っていたのに、お菓子の誘惑に負けるんですね」
そう意地悪な笑みを浮かべてからかわれたエリーナは、頬を膨らませて手を放した。
「女の子には甘いものも必要なのよ」
ぷいっと顔を背けて、自分で買うわと出店に近づく。
「お嬢ちゃんいらっしゃい」
「一つもらうわ」
「あいよ」
店主は慣れた手つきで生地を薄く延ばし、焼き上げていく。クレープは好きなお菓子の一つだ。世界によってあったりなかったりするので、ここで逃す手はない。
ラウルがすっと寄ってきて、代金を払ってくれた。
「ほら、食べて機嫌を直してくださいね」
甘い笑顔を浮かべたラウルは、店主から受け取ったクレープを渡してくれる。
「いいわ。レディの扱いには気を付けるのよ」
高飛車風に言ってみるが、クレープにかぶりつきながらでは、迫力にかけたかもしれない。おいしそうなクレープが悪い。
笑いをこらえているラウルに、ジト目を向けてから歩き出す。
「エリー様、食べ歩きははしたないですよ」
「何言ってるの。これが醍醐味じゃない」
「……そんなことどこで覚えたんですか」
「小説よ」
本当は今までの経験からだが、こういうことは何でも小説のせいにしておけばいい。
クレープを味わっていると、ラウルにやれやれと手を取られ歩き出す。一つ食べれば次々と欲望が生まれてくる。
(この世界にプリンあるかしら。イチゴのケーキも食べたくなってきたわ)
屋敷では祖父の好みなのか、食後のデザートは果物かゼリー。正直甘い物欲が満たされない。
(帰ったら料理長に頼んでみましょ)
子どもの体も女の子の心も、甘いものを望んでいる。
ペロリと食べ終わったエリーナを見て、ラウルは足を止めた。
「先生?」
エリーナも足を止め、彼を見上げる。
「チョコレートが口についてますよ」
可愛いですねと、しゃがみ込んだラウルの顔が近づいてくる。その時、突然前のゲームのシチュエーションがエリーナの頭をよぎり、身を固くした。
それはお忍びで街を散策した時にあったイベントだ。デート中の主人公の頬についたチョコレートを、攻略対象が舐めるという赤面もののシーン。
当然悪役令嬢は憤怒し、主人公への嫌がらせが加速していったが……。
「レディは身だしなみに気を使わなくてはいけませんよ」
ふわりと頬に触れる柔らかいもの。しょうがないですねと微笑みながら、彼はハンカチで口周りをふいてくれた。
「ちょっ、と、突然何するのよ!」
思いがけない行動に、エリーナはラウルを払うようにじたばたと手を振る。なんだか顔が熱い気がする。
「いえ、つい可愛らしくて」
行きましょうと伸ばしてきた手を、少しむくれながら取る。
(子ども扱いはやめてほしいわ。中身はおばさんなんだからね!)
十数人の悪役令嬢を演じた時間を合わせると、若いとは言えない年齢になる。それだけ精神年齢も高くなり、そろそろ悟りが開けそうだ。
さて、気を取り直して次は念願の本屋に向かう。
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