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領地編
16 入学準備をしましょう
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祖父の葬儀が終わり、少しずつ落ち着いた日常に戻りつつあった。入学式まではあと一か月となり、制服の準備や持っていくドレスの選定と、侍女たちはどこか嬉しそうな顔で用意をしてくれている。王立ミスティア学園には寮があり、王都以外に住んでいる者は寮から通うことができる。クリスも学園にいた三年間は寮におり、エリーナもサリーを連れて寮に住むつもりだ。
そのため膨れ上がったロマンス小説コレクションを厳選していたのだが、書斎に呼ばれクリスから話を聞かされたエリーナは目をパチクリと瞬かせる。
「え、王都に住むの?」
「提案だよ。寮だと不便なこともあるし、何かあった時にすぐに助けにいけないからさ。王都に手ごろな屋敷が空いているから、別邸にするのもいいかと思って」
「みんなでそちらに引っ越すの?」
「この屋敷の管理もあるから、エルディと数名は残ってもらうよ。僕は領地と王都を行き来する感じかな」
クリスの提案はなかなか魅力的だ。サリーが一緒とはいえ、寮での生活は大変そうだと思っていた。だが、寮だからこそできる嫌がらせもある。ヒロインが寮にいたらであるが。
(う~ん……賭けよね)
思案顔のエリーナに、難しく考えないでとクリスは軽く手を振る。
「今年から当主代行として社交界に出る回数も増えるし、王都に家が欲しかったんだよ。それに、エリーも今年は社交界デビューだから、エスコートは僕が務めるからね。もちろん僕の資金から出すから、ローゼンディアナ家には負担がかからないし、将来はそこに僕が住んでもいいわけだし」
なるほどそういうことかと、エリーナは頷いた。クリスが先のことまで考えて屋敷の購入を検討しているなら、任せるのがいいだろう。
「問題ありませんわ。私も寮よりは、クリスやみんながいる家の方がいいもの」
それに、ヒロインがクリスに接触した場合は把握がしやすいという利点もある。
「じゃあ、必要な荷物をまとめて、一週間後に引っ越しするよ」
「わ、わかりましたわ」
クリスは本当に仕事が早い。どうも王都の屋敷はすでに押さえているようで、エリーナが寮を選んでも、クリスは王都に住むつもりだったのだろう。
(ほんと、律儀ね)
エリーナを守るという祖父との約束を、忠実に守ろうとしている。そして選択の機会をエリーナに与えてくれている。
(あ、でもこれで、ロマンス小説を全部持っていけるわ)
これは僥倖とパッと顔を明るくする。集めに集めたロマンス小説は、図書室の壁一面を埋め尽くしている。本棚にして十個分ほどで、貸本屋が開けるよとラウルとクリスには呆れられた。
「でもエリーナ。ロマンス小説は厳選して持って行ってね」
表情から考えていることを読み取ったのか、クリスは柔和な笑みを浮かべてそう釘を刺した。笑顔だが目が笑っていない。
「善処いたしますわ」
エリーナは素直な妹の笑顔を作り、書斎を後にする。頭の中でどうやってドレスの間に小説を詰め込むかの算段を付け始めていた。ロマンス小説は悪役令嬢にとって聖書(バイブル)なのだ。手放せるわけがない。
日の差し込む廊下を歩きながら、入学後の段取りを考える。
(ひとまず、入学したらヒロインを見つけないとね。攻略対象と話している時に、不自然に止まったら当たりなんだけど)
いわゆる、乙女ゲームの選択肢をヒロインが選ぶのである。即決のヒロインもいるが、たいていは攻略サイトを見たり熟考したりするため、ヒロインが固まるのである。ヒロインが固まっても周りは気にせず待っている。滑稽な様子だが、ヒロインのための世界なのだから当然だ。
その間は悪役令嬢のオートモードも切れるため、自由に動けた。暇なときはヒロインに向けて舌を出したり、変な顔をしたり、つついたりもしたが、ヒロインはまったく感知できない。一度ヒロインと攻略対象とのデートを邪魔するイベントで、選択肢を迷うヒロインを置いて明後日の方向へ歩いていったことがあった。いくらでも歩いて行けたが、ヒロインが選択肢を押した瞬間に彼女の前に飛び、イベントはオートモードで進むのだから笑えた。
(けど、このゲームは不具合が多いから、望み薄かもしれないわね)
シナリオも、スチルのシャッター音も、攻略対象の好感度バロメーターもない。
(それでもやってやるわ。悪役令嬢の誇りにかけてね!)
そして意気揚々と図書室のドアを開ける。学園で輝かしい悪役令嬢デビューを迎えるためにも、この参考書たちを厳選しなくてはならない。そして選定のためにちょっと目を通すつもりが熟読し、全く作業が進まないまま日が暮れるのがここ数日のパターンなのである。
そのため膨れ上がったロマンス小説コレクションを厳選していたのだが、書斎に呼ばれクリスから話を聞かされたエリーナは目をパチクリと瞬かせる。
「え、王都に住むの?」
「提案だよ。寮だと不便なこともあるし、何かあった時にすぐに助けにいけないからさ。王都に手ごろな屋敷が空いているから、別邸にするのもいいかと思って」
「みんなでそちらに引っ越すの?」
「この屋敷の管理もあるから、エルディと数名は残ってもらうよ。僕は領地と王都を行き来する感じかな」
クリスの提案はなかなか魅力的だ。サリーが一緒とはいえ、寮での生活は大変そうだと思っていた。だが、寮だからこそできる嫌がらせもある。ヒロインが寮にいたらであるが。
(う~ん……賭けよね)
思案顔のエリーナに、難しく考えないでとクリスは軽く手を振る。
「今年から当主代行として社交界に出る回数も増えるし、王都に家が欲しかったんだよ。それに、エリーも今年は社交界デビューだから、エスコートは僕が務めるからね。もちろん僕の資金から出すから、ローゼンディアナ家には負担がかからないし、将来はそこに僕が住んでもいいわけだし」
なるほどそういうことかと、エリーナは頷いた。クリスが先のことまで考えて屋敷の購入を検討しているなら、任せるのがいいだろう。
「問題ありませんわ。私も寮よりは、クリスやみんながいる家の方がいいもの」
それに、ヒロインがクリスに接触した場合は把握がしやすいという利点もある。
「じゃあ、必要な荷物をまとめて、一週間後に引っ越しするよ」
「わ、わかりましたわ」
クリスは本当に仕事が早い。どうも王都の屋敷はすでに押さえているようで、エリーナが寮を選んでも、クリスは王都に住むつもりだったのだろう。
(ほんと、律儀ね)
エリーナを守るという祖父との約束を、忠実に守ろうとしている。そして選択の機会をエリーナに与えてくれている。
(あ、でもこれで、ロマンス小説を全部持っていけるわ)
これは僥倖とパッと顔を明るくする。集めに集めたロマンス小説は、図書室の壁一面を埋め尽くしている。本棚にして十個分ほどで、貸本屋が開けるよとラウルとクリスには呆れられた。
「でもエリーナ。ロマンス小説は厳選して持って行ってね」
表情から考えていることを読み取ったのか、クリスは柔和な笑みを浮かべてそう釘を刺した。笑顔だが目が笑っていない。
「善処いたしますわ」
エリーナは素直な妹の笑顔を作り、書斎を後にする。頭の中でどうやってドレスの間に小説を詰め込むかの算段を付け始めていた。ロマンス小説は悪役令嬢にとって聖書(バイブル)なのだ。手放せるわけがない。
日の差し込む廊下を歩きながら、入学後の段取りを考える。
(ひとまず、入学したらヒロインを見つけないとね。攻略対象と話している時に、不自然に止まったら当たりなんだけど)
いわゆる、乙女ゲームの選択肢をヒロインが選ぶのである。即決のヒロインもいるが、たいていは攻略サイトを見たり熟考したりするため、ヒロインが固まるのである。ヒロインが固まっても周りは気にせず待っている。滑稽な様子だが、ヒロインのための世界なのだから当然だ。
その間は悪役令嬢のオートモードも切れるため、自由に動けた。暇なときはヒロインに向けて舌を出したり、変な顔をしたり、つついたりもしたが、ヒロインはまったく感知できない。一度ヒロインと攻略対象とのデートを邪魔するイベントで、選択肢を迷うヒロインを置いて明後日の方向へ歩いていったことがあった。いくらでも歩いて行けたが、ヒロインが選択肢を押した瞬間に彼女の前に飛び、イベントはオートモードで進むのだから笑えた。
(けど、このゲームは不具合が多いから、望み薄かもしれないわね)
シナリオも、スチルのシャッター音も、攻略対象の好感度バロメーターもない。
(それでもやってやるわ。悪役令嬢の誇りにかけてね!)
そして意気揚々と図書室のドアを開ける。学園で輝かしい悪役令嬢デビューを迎えるためにも、この参考書たちを厳選しなくてはならない。そして選定のためにちょっと目を通すつもりが熟読し、全く作業が進まないまま日が暮れるのがここ数日のパターンなのである。
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