悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 17歳

73 友達とおしゃべりをしましょう

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 南の国の王女来訪もとい襲来という気苦労の日々が終わり、エリーナは夏休みを迎えた。エリーナはクリスとともに領地にある本邸に戻り、羽を伸ばしていた。昨年の夏はデートイベントがあり、リズによれば二年目の夏もあるらしい。「夏休みはデートイベントに決まっているじゃないですか」と、夏休み前のサロンでリズは熱弁を振るっていたのだ。

 サロンで読書をしていたエリーナの下に、手紙を持ったクリスがやって来る。強い既視感を覚えた。昨年と同じだ。

「エリー。デートのお誘いが来ているよ。僕は特に言うこと無いから、暇つぶしに遊んでおいでよ」

 軽い口調でクリスはテーブルに手紙を三通置いていった。クリスがいなくなったサロンで、エリーナは手紙をじっと見つめる。三通だ。

「あら、殿下からのがないわ」

 失礼ながらめずらしいと思ってしまった。そういえばベロニカと話した時、この夏は王子と共に西の国へ使節団として訪れると言っていたことを思い出す。おそらく、その準備などで時間がないのだろう。
 エリーナは三通に目を通し、サリーにレターセットの準備を頼んで返事を書きに部屋へ戻る。

(ちゃんと、向き合わないといけないものね)

 ベロニカに言われた言葉はしっかり頭の中に残っている。そしてエリーナはそれぞれに合う便せんを選び、丁寧に文字をしたためるのだった。



 それから三日後、攻略キャラたちとのデートイベントの前に、リズが遊びに来た。リズは夏休みの間ベロニカの屋敷で侍女見習いとして働いており、ゆくゆくは王宮の侍女になりたいらしい。
 辻馬車でやって来たリズは、エリーナの自室でお茶を飲みくつろいでいた。昨年の夏から何度か本邸には来ており、だいぶ慣れたらしい。

「ベロニカ様のお屋敷はどう?」

「さすがは公爵家ですね。学園で学ぶ所作よりも細かく優美さが求められます」

 学園で学ぶ侍女の所作は基本的なレベルだ。伯爵家以下ならそれぐらいでもいいが、侯爵以上となるとより洗練されたものが求められる。特に王宮となればなおさらだ。

「私も何度かベロニカ様のところに遊びに行ったけれど、侍女たちの動きには見惚れるわ。それでいてすっと存在感が消えるもの」

「王宮の侍女はあれ以上ですからね。なってみせますよ!」

 ガッツポーズをするリズは、その時点で王宮侍女に必要なお淑やかさがない気がするが、エリーナは優しい微笑みをおくっておいた。

「なれるといいわね」

 王宮で働けば将来王になるだろうジークに、役人志望のルドルフを確実に見ることができ、さらに各国と関わりのあるイケメンにお目にかかれるかもしれないというのが理由なので、エリーナはさらに微笑みを薄くするのだった。ファン魂にあっぱれだ。

「そういえば、エリーナ様のお母様は王宮で侍女をされていたんですよね」

「えぇ。私が生まれる前にね。王女様付きの侍女だったらしいわ」

「所作は美しかったんですか?」

「あまり覚えてないわ。でも、美しくて儚い感じだったわね」

 ゲームの中でエリーナの母はぼんやりとした後ろ姿だけだったらしい。ローゼンディアナ家の古くからの知り合いも、社交界でおしゃべり好きな令嬢たちも、誰の子か分からないエリーナを身ごもったからか、母親の話題を出すことはほとんどなかった。罵られる時だけだ。

「そうですか……。そういえば、デートのお誘いが来ましたよね」

「えぇ。ラウル先生にミシェル、ルドルフ様よ」

「あれ、ジーク殿下はないんですか?」

「なかったわね」

 リズによるとジークとのデートイベントは、無理矢理婚約者になったベロニカと共に西の国への小旅行へ同行するというものだったらしい。ここでベロニカとの間で熾烈な争いが繰り広げられ、名所の観光と夜会への出席をこなしながら親密度と自分のスキルを上げなくてはいけないそうだ。

「とんだ地獄ね」

 だがここで同行を断るとベロニカの勢いに負け、ジークルートは閉ざされお友達エンドになる。戦うしかないのだ。

「ということは、エリーナ様はジークルートから外れつつあるのかもしれませんね。ただ、もうシナリオが綻びだしているので、当てにはなりませんが」

 ゲームと同じ世界とはいえ、エリーナを含めキャラクターたちは生きている。一人一人の意思と行動で、少しずつ物語が変わってきているのだ。

「まぁいいわ。好きにさせてもらうわよ」

 その後、他の三人のイベントについて詳しく聞き、最近のロマンス小説について語り合ったのだった。

 そしてエリーナの地獄は、この後始まった。

 夕食の席で顔を合わせたクリスとリズは、お酒を酌み交わしながら熱く語り合う。もちろん、エリーナについてだ。あの誘拐事件で協力したのをきっかけに、その信頼と絆は強固なものになっていた。

「エリーナ様が大のプリン好きというのは学園の常識になっていまして、学食でプリンがある日はエリーナ様がプリンを好きなだけお取りになってから、他の学生は取るという暗黙のルールがあるんです」

「さすが、学生たちは分かっているね。エリーナがプリンを食べられないなんてことがあれば、メニューを全てプリンだけにしてしまうよ」

 軽やかに笑いながら二人は談笑している。それをエリーナは心を無にして聞き流し、もくもくと食べ進めていた。あまり味を感じられない。

(聞きたくない。これ以上は聞きたくないわ)

 自分の知らない情報がどんどん出てくる状況に、エリーナは恐れおののく。プリンのために全学生に遠慮させていたなど、これからは申し訳ないので真っ先に学食に行くと決めた。そして、さすがに全メニューがプリンは嫌だ。
 ワイングラスを揺らし、目を細めたクリスはあぁと思い出して言葉を続ける。

「君が案をくれた『お嬢様の本棚』は需要があったようで、売れ行きは好調だよ」

 それはエリーナの本棚に収められているロマンス小説の中から五十作品を選んで紹介した本だ。その編纂作業はミシェルが行った。本の紹介欄にストーリーや恋の特徴を載せたところ恋愛指南書にもなると平民貴族を問わず、女性の間で大人気となったのだ。

「エリーナ様のロマンス小説への愛が成せる技ですよ」

「それについては、わたくしも驚いたわ。あんなに反響があるなんて」

 最近はどの茶会や夜会に行っても、ロマンス小説の話を振られる。ロマンス令嬢が正式名になりそうで怖い。

「エリーのロマンス小説にかける愛は相当だからね。別邸に移る時に、あらゆるトランクとドレスに小説を忍ばせて持って行ったのには、本当に驚いたよ」

「学園の図書室にあるロマンス小説は全て読破されましたからね」

「市場がエリーナに追いつかないから、そろそろロマンス小説家の育成を始めようかと思っているんだ」

「それは素敵です!」

 気づけば話が大きくなる二人。エリーナは間に入るのを止め、大人しく食事に戻った。それにその話は悪い話ではない。

 そして二人の熱い語り合いは場所をサロンに移しても続き、エリーナは毎回こうなるのかしらと気が重くなるのであった。
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