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学園編 17歳
75 商談しましょう
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夏休みも半分が過ぎた頃、ドルトン商会の二人がローゼンディアナ家に商談に来た。ミシェルからの手紙はデートというより、作ったものを見て欲しいというものだったのだ。ミシェルは大きなカバンを持ってサロンでエリーナと、カイルは書類の束を持って書斎でクリスと話をする。別れ際、カイルが必死の形相でミシェルに何かを耳打ちしていたが、クリスに名前を呼ばれてすっ飛んでいった。
「エリーナ様、元気だった~?」
サロンでテーブルを挟んで向かい合い座る。ミシェルは柔らかいソファーだねとその感触を楽しんでいた。
「元気よ。ミシェルは?」
「僕も変わらないよ~。ずっと部屋に籠って商品作ってた」
それは逆に不健康そうで、確かに兄のカイルに比べてミシェルの肌は白い。
「それで、今日は見て欲しい商品を持ってきたんだ」
ミシェルはそう言いながら、喜々として大きなカバンから木箱を取り出した。厳重にしまわれており、箱の中にはいくつも布が入っている。緩衝材がわりなのだろう。
「エリー様、読書が好きでしょ? でも、夜に読むと目が悪くなるってサリーさんに怒られるって言ってたから」
そう言いながらミシェルは布を取っていき、何かを箱から取り出す。そしてテーブルに置かれたのは、ランプだった。
「ランプ?」
エリーナが首を傾げたのは、ランプを最近使っていないからだ。今王都で使われているものはいわゆる燭台である。だがこれにはろうそくを立てる場所がなく、そこは不思議な突起になっていて紐が見えた。
「うん、最近はろうそくが主流だけど、オイルランプを改良したんだ。遠い国では灯りの技術が発達しているらしくて、そこから一つ仕入れて研究したんだよ」
ためしにミシェルがつけてみると、パッと火が点いて明るくなる。火の周りはガラスで囲まれ危なくないようになっていた。
「倒れてもオイルは出ないから、昔のより安全なんだ。これで、夜でも本が読めるでしょ?」
しかも傘の部分は光を反射しやすいように磨き上げられ、角度を変えられるようになっている。技術と工夫が光る一品だ。
「すごいわ。ミシェルは天才ね」
技術に疎いエリーナでも、これにどれだけ努力が詰まっているかは見て分かる。賞賛の言葉を贈れば、ミシェルは得意げに笑った。
「僕はエリーナ様に快適に過ごしてほしいからね。後は、お嬢様シリーズとして枕や布団を開発する予定だよ」
そのうちエリーナの身の回りは全てお嬢様シリーズになってしまいそうだ。細やかに配慮された美容用品に、おいしいプリンたち、読書を支えるランプに優しく睡眠を守る布団まで揃ったら……。
「ミシェル……わたくし、駄目人間になってしまいそうよ」
「あはは。それは嬉しいや。僕は、僕が創ったものでエリーナ様を彩りたいんだ。幸せになってほしいんだよ」
そう純粋に歯を見せて笑うミシェルは、根っからの職人だ。
「……クリスと一緒になって悪だくみするのはほどほどにしてね」
「え~。エリーナ様のためだよ」
ミシェルとクリスが盛り上がって案を出すのはいいが、それを調整して段取りをするのはカイルだ。つまり、二人が高い理想を掲げるほど、素材を調達するカイルが泣くはめになる。そのことを最近理解したエリーナであり、時々カイルに差し入れをしていた。
ミシェルは、次はどうしようかなと呟きながら果実水を飲んだ。暑い夏は冷たい果実水が欲しくなる。エリーナも果実水で喉を潤し、一息つく。
「あ、ねぇエリーナ様。エリーナ様は気になる人いるの?」
完全に気が緩んでいたところにそんな爆弾を投げ込まれ、エリーナは盛大にむせた。サリーがすっと寄ってきて、ハンカチを手渡してくれる。
「急に何を言い出すの」
「だって、気になるじゃない」
そう悪意の無い笑顔を向けられれば、怒る気にもなれない。
「そんなこと言われても……まだいないわよ」
「ふ~ん。まだかぁ」
そうニヤニヤとからかうように笑うミシェルは、じゃぁと挑むような目を向けてきた。
「僕はどう? 可能性ある?」
直球で訊かれ、さすがのエリーナも言葉を詰まらせた。鋭い相手をはかる商人の視線を向けられ、表情が強張る。するとミシェルがニコッと歯を見せ、
「あはは。冗談だよ。そんな困った顔しないで」
と軽く手を振って話を流した。
「もっと頑張らないとねー。エリーナ様に意識してもらえるように」
あははと笑うミシェルに、エリーナは一つ訊きたくなった。彼らの気持ちに向き合うために。
「ねぇ……好きってどんな気持ちなの?」
唐突な問いに、ミシェルは目を丸くしてついで顔を赤らめて頬をかいた。
「……胸がね、ぽかぽか温かくなるんだよ。その人が幸せなら僕も幸せで、笑っていてほしいって思うかな……だから、いつかエリーナ様にそう思わせてみせるよ」
覚悟してねと片目を瞑ったミシェルは不敵に笑い、その表情に男っぽさを感じた。この一年の間に、ミシェルは少し大人っぽくなったのだ。
それは、カイルに呼ばれて書斎に向かおうと立ち上がった時によりはっきりする。カイルの肩ぐらいまでだった身長が、首の辺りまで伸びていた。
「じゃ、また遊びに来るよ。エリーナ様を虜にする商品を作ってさ」
手を振ってサロンを後にしたミシェルを見送り、エリーナは贈られたランプをもう一度見る。よく見れば土台には細かな装飾が施されており、調度品としても十分使える品だ。自然とミシェルに対する尊敬と親愛の情がわく。
エリーナは灯る火の暖かさを感じ、目元を和ませたのだった。
「エリーナ様、元気だった~?」
サロンでテーブルを挟んで向かい合い座る。ミシェルは柔らかいソファーだねとその感触を楽しんでいた。
「元気よ。ミシェルは?」
「僕も変わらないよ~。ずっと部屋に籠って商品作ってた」
それは逆に不健康そうで、確かに兄のカイルに比べてミシェルの肌は白い。
「それで、今日は見て欲しい商品を持ってきたんだ」
ミシェルはそう言いながら、喜々として大きなカバンから木箱を取り出した。厳重にしまわれており、箱の中にはいくつも布が入っている。緩衝材がわりなのだろう。
「エリー様、読書が好きでしょ? でも、夜に読むと目が悪くなるってサリーさんに怒られるって言ってたから」
そう言いながらミシェルは布を取っていき、何かを箱から取り出す。そしてテーブルに置かれたのは、ランプだった。
「ランプ?」
エリーナが首を傾げたのは、ランプを最近使っていないからだ。今王都で使われているものはいわゆる燭台である。だがこれにはろうそくを立てる場所がなく、そこは不思議な突起になっていて紐が見えた。
「うん、最近はろうそくが主流だけど、オイルランプを改良したんだ。遠い国では灯りの技術が発達しているらしくて、そこから一つ仕入れて研究したんだよ」
ためしにミシェルがつけてみると、パッと火が点いて明るくなる。火の周りはガラスで囲まれ危なくないようになっていた。
「倒れてもオイルは出ないから、昔のより安全なんだ。これで、夜でも本が読めるでしょ?」
しかも傘の部分は光を反射しやすいように磨き上げられ、角度を変えられるようになっている。技術と工夫が光る一品だ。
「すごいわ。ミシェルは天才ね」
技術に疎いエリーナでも、これにどれだけ努力が詰まっているかは見て分かる。賞賛の言葉を贈れば、ミシェルは得意げに笑った。
「僕はエリーナ様に快適に過ごしてほしいからね。後は、お嬢様シリーズとして枕や布団を開発する予定だよ」
そのうちエリーナの身の回りは全てお嬢様シリーズになってしまいそうだ。細やかに配慮された美容用品に、おいしいプリンたち、読書を支えるランプに優しく睡眠を守る布団まで揃ったら……。
「ミシェル……わたくし、駄目人間になってしまいそうよ」
「あはは。それは嬉しいや。僕は、僕が創ったものでエリーナ様を彩りたいんだ。幸せになってほしいんだよ」
そう純粋に歯を見せて笑うミシェルは、根っからの職人だ。
「……クリスと一緒になって悪だくみするのはほどほどにしてね」
「え~。エリーナ様のためだよ」
ミシェルとクリスが盛り上がって案を出すのはいいが、それを調整して段取りをするのはカイルだ。つまり、二人が高い理想を掲げるほど、素材を調達するカイルが泣くはめになる。そのことを最近理解したエリーナであり、時々カイルに差し入れをしていた。
ミシェルは、次はどうしようかなと呟きながら果実水を飲んだ。暑い夏は冷たい果実水が欲しくなる。エリーナも果実水で喉を潤し、一息つく。
「あ、ねぇエリーナ様。エリーナ様は気になる人いるの?」
完全に気が緩んでいたところにそんな爆弾を投げ込まれ、エリーナは盛大にむせた。サリーがすっと寄ってきて、ハンカチを手渡してくれる。
「急に何を言い出すの」
「だって、気になるじゃない」
そう悪意の無い笑顔を向けられれば、怒る気にもなれない。
「そんなこと言われても……まだいないわよ」
「ふ~ん。まだかぁ」
そうニヤニヤとからかうように笑うミシェルは、じゃぁと挑むような目を向けてきた。
「僕はどう? 可能性ある?」
直球で訊かれ、さすがのエリーナも言葉を詰まらせた。鋭い相手をはかる商人の視線を向けられ、表情が強張る。するとミシェルがニコッと歯を見せ、
「あはは。冗談だよ。そんな困った顔しないで」
と軽く手を振って話を流した。
「もっと頑張らないとねー。エリーナ様に意識してもらえるように」
あははと笑うミシェルに、エリーナは一つ訊きたくなった。彼らの気持ちに向き合うために。
「ねぇ……好きってどんな気持ちなの?」
唐突な問いに、ミシェルは目を丸くしてついで顔を赤らめて頬をかいた。
「……胸がね、ぽかぽか温かくなるんだよ。その人が幸せなら僕も幸せで、笑っていてほしいって思うかな……だから、いつかエリーナ様にそう思わせてみせるよ」
覚悟してねと片目を瞑ったミシェルは不敵に笑い、その表情に男っぽさを感じた。この一年の間に、ミシェルは少し大人っぽくなったのだ。
それは、カイルに呼ばれて書斎に向かおうと立ち上がった時によりはっきりする。カイルの肩ぐらいまでだった身長が、首の辺りまで伸びていた。
「じゃ、また遊びに来るよ。エリーナ様を虜にする商品を作ってさ」
手を振ってサロンを後にしたミシェルを見送り、エリーナは贈られたランプをもう一度見る。よく見れば土台には細かな装飾が施されており、調度品としても十分使える品だ。自然とミシェルに対する尊敬と親愛の情がわく。
エリーナは灯る火の暖かさを感じ、目元を和ませたのだった。
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