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学園編 17歳
78 近況報告をいたしましょう
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夏休みの終わりが近づき、西の国アスタリア王国から戻って来たベロニカが大量のお土産を持ってローゼンディアナ家に訪れていた。サロンの隣の部屋に積まれたお土産たちを、エリーナは目を丸くして見ている。ジークからの分も含まれており、自分で手渡したかったそうだがしばらくは政務で城から出られないらしい。
申し訳なさが先にたったが、「国賓として招かれたため義理と見栄で色々と買っただけだから、気にする必要はないわ」と返ってきた。西の国は絹織物が有名で、お土産の半分は色とりどりの絹織物だった。ドレスに仕立ててもらえばさぞいいものができそうだ。
他には西の国で流行っているロマンス小説があり、エリーナは狂喜乱舞した。お返しに読み終わった南の国のロマンス小説をお貸しする。そしてお酒やお菓子などもあり、ちらりと通りかかったクリスが懐かしそうにしていた。
そしてお土産を一通り手に取り説明を受けた後、サロンでゆっくりお茶をすることになったのだ。
「それで、西の国はどうでしたか?」
西の国は南の国と同様に、言語や文字はラルフレア王国と同じである。文化も似ているが、それぞれ特色がある。
「文化はそれほど違わなかったわね。ここより少し空気が乾燥していて、食べ物もおいしかったわ。でも、クリスさんのような赤い髪の人が多くてピアスをする習慣があるわ」
「そうなんですか」
クリスは、母親が西の国の人だと言っていた。先ほども西の特産品を見て懐かしそうにしていたから、見覚えがあるのだろう。
ジークとベロニカはあちらの王族と交流したり、各地を視察したりしたそうだ。着々と次期正妃という立場を内外に示しており、各方面で主要な貴族たちと縁をつないだらしい。それなりに大変だったようだが、ベロニカはやりきったという満足感を滲ませる表情をしていた。
「それに、ジーク様が熱心に王族の方や学問所の方と交流されてて驚いたわ。前まではつまらなそうにしていたのに」
「あら、よかったじゃありませんか」
「ラウル先生の影響みたい。政治や歴史に興味を持ち始めたみたいで、自国のことをより深く知ろうとしていたわ」
ベロニカは表情を柔らかくして、その光景を思い出すかのように目元を和ませていた。以前よりジークのことを話す口調から棘が無くなり、二人の仲が良好であることが伺える。そのことに、エリーナまで嬉しくなってきた。
「前までは不安だったけど、いい王になれるかもしれないわ。自分の頭で考えようとしているもの」
「ベロニカ様の支えがあってこそですわ」
「まだまだ甘いけどね」
ベロニカは紅茶をすすり、プリンクッキーに手を伸ばすと「ひさしぶり」と零した。そして「そうそう」と思い出して、話を変える。
「冬頃に、西の国の第二王子が学術院に留学にいらっしゃることになったわ」
「……そうなんですか」
王子が来ると聞いてつい声が暗くなってしまった。南の国の王女来訪事件を思い出してしまったからだ。これもイベントなのだろうかと、頭が痛くなる。日が近くなればリズに確認を取らなくてはいけない。
「第二王子は聡明で芸術肌の方よ。将来は兄を補佐するために幅広い知識をつけたいとおっしゃっていたわ」
「それは、すばらしい方ですね」
ならばイベントがあったとしても、前ほど疲れるものではないかもしれない。そこでふと、以前第三王子が話題に上ったことを思い出す。
「そう言えば、ベロニカ様は昔第三王子に婚約を申し込まれたんでしたよね。お会いになったんですか?」
「いいえ……第三王子は早くに継承権を放棄されて、領地の経営に専念されているらしいの。どんな人だったのか気になっていたけれど、残念だったわ」
「そうなんですね」
王族にもいろいろな人がいるのだなと、プリンクッキーを齧りながらエリーナは思った。
「それで、貴女のほうはどうなの? 三人とデートしたのでしょう?」
今度はエリーナの番だと、ベロニカは話を振った。その口元は面白そうに弧を描いている。
「……まぁ。なんだか心が温かくなったり、心臓が跳ねたりするというのは少しわかりましたわ」
それぞれとの話を掻い摘んで伝えると、ベロニカは愉快そうに声をあげて笑った。
「亀のような足取りでも、前に進めているじゃない。これでもダメだったら、男たちをかき集めてエリーナを口説き落とす会でも開こうと思ってたのよ?」
「やめてください」
そんなもの、想像しただけで背筋が凍る。何より、その後クリスを始めとする彼らを相手にしたとき、絶対に面倒なことになる。
「それが嫌なら、頑張ることね」
「もちろんです!」
どう頑張って恋をすればいいのかはわからないが、意気込みだけは見せておくエリーナだった。
そしていつもの如く小説談義に突入し、ロマンス小説を題材にした歌劇があるそうなので観劇の予定を組む。エリーナは心待ちにし、これから王宮に行くというベロニカを見送ったのだった。
その夜、サロンで食休みにクリスとお土産の品々を鑑賞、選別することにした。丁寧にそれぞれの産地や特質まで書かれた目録が添えられており、それをもとに用途を考えていく。絹織物のほとんどは贔屓にしているオートクチュールに渡して、何着か仕立ててもらうことになった。肌ざわりが最高なので、夜着も作ることにする。クリスは絹織物の一部を枕と布団にすると言いだしたので、お嬢様シリーズに寝具が加わるようだ。
そしてクリスはお菓子をまじまじと手に取って見る。
「懐かしいな。小さい頃食べたことがある」
そう言うなり包装を解いて、クッキーを口に放り込む。エリーナも一つもらって食べれば、素朴な優しい味わいのクッキーだった。ナッツが入っていて食感と風味が豊かになっている。
「おいしいわね。クリスが生まれたところは、西の国のものが多かったの?」
たしか西の国と接している領だと言っていた。西との関わりが深い領地なのだろう。
「そうだね。西の国の雑貨や食品を扱う店は多かったと思うよ。西の国の人も良く見たしね」
ふ~んと頷いてから、エリーナはベロニカの話を思い出す。
「そうそう、冬頃に西の第二王子が学術院に留学に来るらしいわよ」
クリスはへぇと驚いて目を少し見開いた。
「第二王子というと……シルヴィオ殿下だったかな」
さすが夜会の貴族たちの名前をしっかり憶えているクリスだ。難なく第二王子の名前を口にした。
「えぇ、そうらしいわ」
「熱心な方なんだね」
たいして興味はないようで、先ほどからクッキーを食べる手が止まっていない。よほど懐かしくおいしかったようだ。そして二人はお菓子をつまみながら話をし、楽しい時間を過ごしたのだった。
申し訳なさが先にたったが、「国賓として招かれたため義理と見栄で色々と買っただけだから、気にする必要はないわ」と返ってきた。西の国は絹織物が有名で、お土産の半分は色とりどりの絹織物だった。ドレスに仕立ててもらえばさぞいいものができそうだ。
他には西の国で流行っているロマンス小説があり、エリーナは狂喜乱舞した。お返しに読み終わった南の国のロマンス小説をお貸しする。そしてお酒やお菓子などもあり、ちらりと通りかかったクリスが懐かしそうにしていた。
そしてお土産を一通り手に取り説明を受けた後、サロンでゆっくりお茶をすることになったのだ。
「それで、西の国はどうでしたか?」
西の国は南の国と同様に、言語や文字はラルフレア王国と同じである。文化も似ているが、それぞれ特色がある。
「文化はそれほど違わなかったわね。ここより少し空気が乾燥していて、食べ物もおいしかったわ。でも、クリスさんのような赤い髪の人が多くてピアスをする習慣があるわ」
「そうなんですか」
クリスは、母親が西の国の人だと言っていた。先ほども西の特産品を見て懐かしそうにしていたから、見覚えがあるのだろう。
ジークとベロニカはあちらの王族と交流したり、各地を視察したりしたそうだ。着々と次期正妃という立場を内外に示しており、各方面で主要な貴族たちと縁をつないだらしい。それなりに大変だったようだが、ベロニカはやりきったという満足感を滲ませる表情をしていた。
「それに、ジーク様が熱心に王族の方や学問所の方と交流されてて驚いたわ。前まではつまらなそうにしていたのに」
「あら、よかったじゃありませんか」
「ラウル先生の影響みたい。政治や歴史に興味を持ち始めたみたいで、自国のことをより深く知ろうとしていたわ」
ベロニカは表情を柔らかくして、その光景を思い出すかのように目元を和ませていた。以前よりジークのことを話す口調から棘が無くなり、二人の仲が良好であることが伺える。そのことに、エリーナまで嬉しくなってきた。
「前までは不安だったけど、いい王になれるかもしれないわ。自分の頭で考えようとしているもの」
「ベロニカ様の支えがあってこそですわ」
「まだまだ甘いけどね」
ベロニカは紅茶をすすり、プリンクッキーに手を伸ばすと「ひさしぶり」と零した。そして「そうそう」と思い出して、話を変える。
「冬頃に、西の国の第二王子が学術院に留学にいらっしゃることになったわ」
「……そうなんですか」
王子が来ると聞いてつい声が暗くなってしまった。南の国の王女来訪事件を思い出してしまったからだ。これもイベントなのだろうかと、頭が痛くなる。日が近くなればリズに確認を取らなくてはいけない。
「第二王子は聡明で芸術肌の方よ。将来は兄を補佐するために幅広い知識をつけたいとおっしゃっていたわ」
「それは、すばらしい方ですね」
ならばイベントがあったとしても、前ほど疲れるものではないかもしれない。そこでふと、以前第三王子が話題に上ったことを思い出す。
「そう言えば、ベロニカ様は昔第三王子に婚約を申し込まれたんでしたよね。お会いになったんですか?」
「いいえ……第三王子は早くに継承権を放棄されて、領地の経営に専念されているらしいの。どんな人だったのか気になっていたけれど、残念だったわ」
「そうなんですね」
王族にもいろいろな人がいるのだなと、プリンクッキーを齧りながらエリーナは思った。
「それで、貴女のほうはどうなの? 三人とデートしたのでしょう?」
今度はエリーナの番だと、ベロニカは話を振った。その口元は面白そうに弧を描いている。
「……まぁ。なんだか心が温かくなったり、心臓が跳ねたりするというのは少しわかりましたわ」
それぞれとの話を掻い摘んで伝えると、ベロニカは愉快そうに声をあげて笑った。
「亀のような足取りでも、前に進めているじゃない。これでもダメだったら、男たちをかき集めてエリーナを口説き落とす会でも開こうと思ってたのよ?」
「やめてください」
そんなもの、想像しただけで背筋が凍る。何より、その後クリスを始めとする彼らを相手にしたとき、絶対に面倒なことになる。
「それが嫌なら、頑張ることね」
「もちろんです!」
どう頑張って恋をすればいいのかはわからないが、意気込みだけは見せておくエリーナだった。
そしていつもの如く小説談義に突入し、ロマンス小説を題材にした歌劇があるそうなので観劇の予定を組む。エリーナは心待ちにし、これから王宮に行くというベロニカを見送ったのだった。
その夜、サロンで食休みにクリスとお土産の品々を鑑賞、選別することにした。丁寧にそれぞれの産地や特質まで書かれた目録が添えられており、それをもとに用途を考えていく。絹織物のほとんどは贔屓にしているオートクチュールに渡して、何着か仕立ててもらうことになった。肌ざわりが最高なので、夜着も作ることにする。クリスは絹織物の一部を枕と布団にすると言いだしたので、お嬢様シリーズに寝具が加わるようだ。
そしてクリスはお菓子をまじまじと手に取って見る。
「懐かしいな。小さい頃食べたことがある」
そう言うなり包装を解いて、クッキーを口に放り込む。エリーナも一つもらって食べれば、素朴な優しい味わいのクッキーだった。ナッツが入っていて食感と風味が豊かになっている。
「おいしいわね。クリスが生まれたところは、西の国のものが多かったの?」
たしか西の国と接している領だと言っていた。西との関わりが深い領地なのだろう。
「そうだね。西の国の雑貨や食品を扱う店は多かったと思うよ。西の国の人も良く見たしね」
ふ~んと頷いてから、エリーナはベロニカの話を思い出す。
「そうそう、冬頃に西の第二王子が学術院に留学に来るらしいわよ」
クリスはへぇと驚いて目を少し見開いた。
「第二王子というと……シルヴィオ殿下だったかな」
さすが夜会の貴族たちの名前をしっかり憶えているクリスだ。難なく第二王子の名前を口にした。
「えぇ、そうらしいわ」
「熱心な方なんだね」
たいして興味はないようで、先ほどからクッキーを食べる手が止まっていない。よほど懐かしくおいしかったようだ。そして二人はお菓子をつまみながら話をし、楽しい時間を過ごしたのだった。
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