悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 18歳

131 今後について話しましょう

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 ジークは高座から降り、クリスの正面に立った。エリーナはクリスに手招きされたため、しずしずと側に寄る。急展開に頭が追い付かないため、少しでも側にいたかった。

「では、改めて王女エリーナとクリス殿の今後について考えがあれば教えてほしい」

 ジークがそう切り出せば、隣にルドルフが近づいてくる。補佐を務めるようで、視線を合わせて頷き合っていた。クリスは涼しい顔で前もって用意してあったように、迷うことなく答えを返す。

「僕はエリーナを連れて西の国へ帰るよ。さっき、エリーナもこの国に未練はないって言ったし、僕も手放すつもりはないから」

 さすがにクリスの身分が明らかになった以上、ローゼンディアナ家を継ぐことはできない。ジークは予想のつく答えだったのか、顔色を変えずに吟味するそぶりをみせる。そこにルドルフが補足をいれた。

「先ほどの確認だが、現段階でエリーナ嬢が王女の身分になられても王位を継ぐことはできず、その身分を考えると王家か公爵家に嫁ぐことになるだろう。その上で、西の国の王家に嫁げば初めての王族同士の婚姻となり、外交上も大きな意義がある」

 ルドルフは冷静にエリーナの現状とクリスを選んだ時の国の利点を述べた。ジークは何度か頷き、エリーナに視線を向ける。その瞳は真剣でありながらも、どこか優しい。心の底からエリーナのことを心配し、力になりたいと思っていることが伝わってきた。

「エリーナ、クリス殿と共に西の国へ行きたいか?」

 そう問われ、エリーナは隣に立つクリスを見上げた。クリスがこの国に残るという選択肢はない。それならば……。

「はい。クリスについて行きます」

 心残りが無いと言えば嘘になる。視界に映る友人たちと離れるのは寂しく、心細い。だが、それよりもクリスと離れるのは身を切られるような苦痛だった。
 ジークはエリーナの想いを受け止め、一度頷くと微笑んだ。

「わかった。上は俺たちが押さえる。エリーナは笑って西の国へ行ってこい」

 頼もしいジークに、エリーナは満面の笑みを向けた。クリスも目礼をし、嬉しそうに口元を緩めている。だが、まとまりかけたところに小難しい顔をしたルドルフが懸念を示す。

「しかし、前王派はエリーナ嬢が異国に嫁ぐのをよく思わないかもしれません。前王の忘れ形見という象徴が現れたと思ったら、西の国へ嫁ぐのですから」

「……それはありうるな。クリス殿はいつ西の国へ立つつもりだ?」

「そうだね。できるだけ早くと思っていたけれど、そっちの事情もあるだろうし遅くても一か月後かな」

 二人はその返答に視線を合わせて頷き合い、ジークが何かを言おうと口を開いたところに、離れたところから鋭い声が飛んできた。

「一つよろしいかしら」

 気高く凛とした声は、聴くだけで安心感がある。声を発したベロニカが前に出てきて、四人に近づいた。

「どうしたベロニカ」

「エリーナ様とのつながりが希薄になることを懸念されるなら、一つ提案がございますわ」

 ベロニカは立場を重んじてエリーナを様付けした。エリーナは少し寂しくなって、しゅんとした表情をベロニカに向けたら「今だけよ」と口が小さく動いた。

「どんな提案だ?」

 ジークがそう促せばベロニカは未来の王妃に相応しい微笑を浮かべ、つつましく進言する。

「こちらと連絡役になる侍女をつけるというのはどうでしょうか。ローゼンディアナ家に仕えていた者から何人かは行くでしょうが、国側からも派遣してはどうでしょう」

「なるほど。それはいい案だな。そちらはどう思う」

 ジークに異存はなく、クリスにそう尋ねた。クリスが視線をエリーナに向けたので、小さく頷けば「異存はない」と返す。

「そして、ここで一人推薦しますわ。わたくし付きの侍女であれば信頼も厚く、所作も申し分ないでしょう」

「あぁ、それがいい」

 ジークの同意を得たベロニカは、すっと視線を人垣の方へ向け呼びかけた。

「リズ・スヴェル。前へ!」

「ふぇっ、は、はい!」

 間抜けな声が返ってきて、転がるようにリズが前に出た。その顔にはなぜ呼ばれたのかと混乱がありありと浮かんでいる。挙動不審でベロニカとエリーナの顔を交互に見ているリズは、少し頼りない。そこにベロニカの叱責が飛ぶ。

「胸を張りなさい! 栄えあるエリーナ王女付きに推薦するわ。両国の友好とエリーナ様に尽くしなさい!」

「もちろんでございます!」

 少し上ずった声で返したリズは涙目で、徐々に感極まったのかすすり泣きが漏れた。事の顛末をずっと側で見ていたのだ。エリーナの力になりたいのに何もできず、ただ祈るように見守ることしかできなかった。それが悔しく辛かったこともあり、役に立てると思ったとたん感情の抑えが効かなくなったのだ。

「なら、あとの人選はこちらでするとして他に決めることはあるか。皆も、意見があれば言ってほしい」

 ジークが皆をぐるりと見回し、意見が出ないのを確認すると高らかに宣言した。

「では、これで卒業パーティーを閉会とする。皆、後日王宮からの伝達が出るまで口外は慎むように!」

 ジークの言葉が終わるなり大広間は拍手に包まれ、口々に「エリーナ王女」と人々が叫ぶ。エリーナはその熱気に圧倒され、目を白黒させて周りを見回した。困惑しているところに肩を抱かれ、見上げるとクリスは微笑んでいた。

「エリー、愛している。僕を選んでくれてありがとう」

 そしてそっと、エリーナの頬に口づけたのだった。一際歓声が沸き、エリーナは恥ずかしさのあまりクリスの胸を押しのける。

「あ、あんまり馴れ馴れしくしたら怒るわよ!」

「怒ったエリーもかわいいよ。でもあんまり逃げると追い詰めたくなるから、気を付けてね」

「何かあったら、ベロニカ様のところに駆け込むわ! 国を超えて!」

 そうやりとりする二人はいつも通りで、周りは微笑ましく見守る。

 こうして、歴史を変えた卒業パーティーは幕を閉じたのだった。
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