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アスタリア王国編
142 お義母様とお茶をしましょう
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混乱し半泣き状態のナディヤをなんとか宥め、次に会う約束を取り付けたエリーナは昼食をとり、午後の勉強を終えてクリスの母親とお茶をしていた。恋人の母親に会うというのは緊張するもので、エリーナは笑顔が引きつっていないか心配になる。
クリスは母親似であり、優しく微笑む様子はよく似ていた。紅い髪は結い上げられ、興味に彩られた金目がエリーナに向けられている。深みのあるオレンジ色のドレスを着ており、活発な性格を表しているようだった。
先ほどからラルフレアでのクリスの話を聞いてコロコロと笑っていた。
「クリスは難しい子だったけど、こうやっていい人を捕まえて戻ってきたのを見て安心したわ。クリスが今笑えているのはエリーナさんのおかげね」
彼女は紅茶をすすって、ふわりと微笑んだ。
「いえ、むしろわたくしが今こうしていられるのは、クリスさんのおかげですわ」
彼女の微笑みからは母親として子の成長を喜んでいることがわかった。優しいお母さんなのだろうと思ったとたん、その表情に怒りが滲む。
「でも、十年も碌に手紙も送らずに家出したことは、当分許さないけれど……。あの子、エリーナさんには弱いから、からかいがいがあるのよ」
と手を口にあてて、いたずらっぽく笑う。からかわれているクリスを想像して、エリーナもくすりと笑った。いつも飄々としているクリスがやりこめられていると思うと、なんだかおかしい。
「クリスさんの昔はどんな感じだったんですか」
「そうね……大人しくて優しい子だったんだけど、十二歳の時に病気で寝込んでから人が変わったように活発になったのよね。大人びて、懸命に勉強をしていたわ。王族としての役目にでも目覚めたのかと思えば、ラルフレアの公爵令嬢に婚約を申し込んだり、王位継承権を放棄して領地に引っ込んだりと忙しない子だったわね。挙句に勝手に諸国を放浪すると言って出て行ったし……」
声から積る苦労が感じられ、エリーナまで申し訳なくなる。クリスがローゼンディアナ家に養子入りしたのは自分がきっかけだったことを知っているからだ。
そして思わぬつながりに目を瞬かせる。そう言えば、以前ベロニカから西の第三王子に求婚された話は聞いていたが、それがクリスだとは繋がっていなかった。
(ベロニカ様に求婚してたんだ……それも含めて、いつか、クリスから話してくれるかしら)
子ども時代についてはあまり話したくなさそうだったので、エリーナから話題にすることは避けていた。だが出会う前のことを知りたいと思うのは自然なことで、エリーナは母親の話に相槌を打ちながら詳しく聞いていく。
子どものころはシルヴィオとよく遊んでは喧嘩していたことや、剣の筋がよく将来を有望視されていたことなどを話してもらい、エリーナは目を輝かせて聞き入っていた。
そしてエリーナが、クリスは自分をいつだって尊重してくれたこと、大好きなプリンをたくさん開発してくれたこと、誘拐事件の時は率先して助けに来てくれたことを丁寧に話した。どれも感謝の想いがある。
「エリーナさんも、クリスのことを想ってくれているのが伝わってきて嬉しいわ。向こう見ずなところがある危なっかしい子だけど、よろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
話をしていると緊張の中にも温かさと安らぎがある。エリーナの中で母親の記憶は薄く、母親の温かさに触れ心地よさを味わった。
そして楽しいお茶会が終わり、部屋に戻って一人になればふと不安が鎌首をもたげる。エリーナは窓際に置かれた安楽椅子に座り、庭園に視線を飛ばす。
クリスの母の話を聞いて、ますますクリスについて知りたくなった。話してほしいと思った。だが、素直にそれを尋ねるには胸に抱える秘密が邪魔をする。
(まずは私の秘密を話さないと……)
ここはゲームに似た世界で、自分は悪役令嬢を何度も演じてきたなど到底信じてもらえるはずがない。この世界が続くかも不安だが、秘密を打ち明けるべきかもエリーナの頭を悩ませる一つだった。
その後、クリスや家族と夕食を取り楽しく会話をしても、いつ終わるともしれない不安と、隠し事をしている後ろめたさが背後に迫りよる。気晴らしにロマンス小説を読んでも、リズと話しても、一人になればそれは常に側にある。
エリーナは悶々としながら、寝付けない夜を過ごしたのだった。
クリスは母親似であり、優しく微笑む様子はよく似ていた。紅い髪は結い上げられ、興味に彩られた金目がエリーナに向けられている。深みのあるオレンジ色のドレスを着ており、活発な性格を表しているようだった。
先ほどからラルフレアでのクリスの話を聞いてコロコロと笑っていた。
「クリスは難しい子だったけど、こうやっていい人を捕まえて戻ってきたのを見て安心したわ。クリスが今笑えているのはエリーナさんのおかげね」
彼女は紅茶をすすって、ふわりと微笑んだ。
「いえ、むしろわたくしが今こうしていられるのは、クリスさんのおかげですわ」
彼女の微笑みからは母親として子の成長を喜んでいることがわかった。優しいお母さんなのだろうと思ったとたん、その表情に怒りが滲む。
「でも、十年も碌に手紙も送らずに家出したことは、当分許さないけれど……。あの子、エリーナさんには弱いから、からかいがいがあるのよ」
と手を口にあてて、いたずらっぽく笑う。からかわれているクリスを想像して、エリーナもくすりと笑った。いつも飄々としているクリスがやりこめられていると思うと、なんだかおかしい。
「クリスさんの昔はどんな感じだったんですか」
「そうね……大人しくて優しい子だったんだけど、十二歳の時に病気で寝込んでから人が変わったように活発になったのよね。大人びて、懸命に勉強をしていたわ。王族としての役目にでも目覚めたのかと思えば、ラルフレアの公爵令嬢に婚約を申し込んだり、王位継承権を放棄して領地に引っ込んだりと忙しない子だったわね。挙句に勝手に諸国を放浪すると言って出て行ったし……」
声から積る苦労が感じられ、エリーナまで申し訳なくなる。クリスがローゼンディアナ家に養子入りしたのは自分がきっかけだったことを知っているからだ。
そして思わぬつながりに目を瞬かせる。そう言えば、以前ベロニカから西の第三王子に求婚された話は聞いていたが、それがクリスだとは繋がっていなかった。
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子ども時代についてはあまり話したくなさそうだったので、エリーナから話題にすることは避けていた。だが出会う前のことを知りたいと思うのは自然なことで、エリーナは母親の話に相槌を打ちながら詳しく聞いていく。
子どものころはシルヴィオとよく遊んでは喧嘩していたことや、剣の筋がよく将来を有望視されていたことなどを話してもらい、エリーナは目を輝かせて聞き入っていた。
そしてエリーナが、クリスは自分をいつだって尊重してくれたこと、大好きなプリンをたくさん開発してくれたこと、誘拐事件の時は率先して助けに来てくれたことを丁寧に話した。どれも感謝の想いがある。
「エリーナさんも、クリスのことを想ってくれているのが伝わってきて嬉しいわ。向こう見ずなところがある危なっかしい子だけど、よろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
話をしていると緊張の中にも温かさと安らぎがある。エリーナの中で母親の記憶は薄く、母親の温かさに触れ心地よさを味わった。
そして楽しいお茶会が終わり、部屋に戻って一人になればふと不安が鎌首をもたげる。エリーナは窓際に置かれた安楽椅子に座り、庭園に視線を飛ばす。
クリスの母の話を聞いて、ますますクリスについて知りたくなった。話してほしいと思った。だが、素直にそれを尋ねるには胸に抱える秘密が邪魔をする。
(まずは私の秘密を話さないと……)
ここはゲームに似た世界で、自分は悪役令嬢を何度も演じてきたなど到底信じてもらえるはずがない。この世界が続くかも不安だが、秘密を打ち明けるべきかもエリーナの頭を悩ませる一つだった。
その後、クリスや家族と夕食を取り楽しく会話をしても、いつ終わるともしれない不安と、隠し事をしている後ろめたさが背後に迫りよる。気晴らしにロマンス小説を読んでも、リズと話しても、一人になればそれは常に側にある。
エリーナは悶々としながら、寝付けない夜を過ごしたのだった。
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