悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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アスタリア王国編

144 兄と話そうか

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 エリーナがクリスの母親とお茶会をしていた頃。クリスはシルヴィオに捕まって、サロンへと連行されていた。腹違いの一個上の兄は小さい時から強引なところがあり、クリスは度々わがままに付き合わされていたのだ。
 もともとその予定だったようで、テーブルの上にはクリスの好物が並んでおり、お茶もクリスが好きな茶葉が用意されていた。クリスは仏頂面でお茶をすすり、酸味の効いたチーズケーキを一口食べる。その様子をシルヴィオはにこにこと満面の笑みで頬杖をついて眺めていた。

「案外変わらないんだね。ラルフレアではいいチーズがなかったでしょ? 好きなだけ食べてよ」

 そう言ってさらにケーキを勧めるシルヴィオを険しい顔で一瞥し、澄ました顔でお茶をすする。

「別に、ラルフレアでは牧場を持っていたからチーズぐらい作ってたよ。そうやって子ども時代を引きずるのやめてくれるかな」

「つれないなぁ。可愛い弟が帰って来たんだよ? 遊ばせてよ」

 ここが可愛がらせてよではなく、遊ばせてよであるところが面倒なのだ。クリスは軽く舌打ちし、侍女にお茶のお代わりをもらった。エリーナが母親とお茶をしてさえいなければ、二人でどこかへいったのに。

「クリス、あんまりエリーナにかまいすぎると嫌がられるよ? 女の子は繊細なんだから」

 そうお兄さんぶるシルヴィオに、クリスは冷めた視線を向けた。

「その女の子に振られ続ける兄さんに言われても説得力がありません」

「ちょっ、誰から聞いたのさ」

「母君です」

 クリスは実母を母上、シルヴィオたちの母を母君と呼んでいた。その母親がため息交じりにシルヴィオが結婚できないことを嘆いていたのだ。しかもフラれる理由がなかなか同情を誘った。
 母君曰く、「貴方の側にいると女性としての自信を失います」とその美貌ゆえにフラれるのだ。

「あーもう……」

 シルヴィオは兄の威厳がとむくれるが、クリスに言わせればそもそも威厳などない。五つ離れた第一王子なら、兄の威厳があり兄上と呼んで慕っているが。

「兄さん、僕にかまってないで早く結婚相手を見つけなよ」

「だから今夜会と茶会ばっかりだ。みんな僕の顔しか見てないから、面白くない」

 その芸術的で神々しさすら感じる美形なのだ。顔に注目が集まるのはある意味仕方がない。

「まぁ、いい人が見つかるといいね……」

 あまり興味のないクリスは適当に流し、チーズケーキを口に運ぶ。酸味が効いていて、一日寝かしたためチーズの味が強い。クリス好みのしっとりチーズケーキだ。
 機嫌よくケーキを食べているクリスに、シルヴィオはジト目を向けてつまらなそうに口を開く。

「で? そういうお前は、浮かない顔をしているけど。何に悩んでいるのさ」

「え?」

 クリスは目を丸くして、ケーキに突き刺したフォークを持つ手を止める。確かに最近考え事をしているが、それを兄に指摘されるとは思わなかったからだ。

「まぁ、エリーナ関係だろうけど。ぼんやりしているだろ」

 クリスは身に覚えがあるので口を閉ざし、フォークを置く。悩みが悩みなので、あまり人に話すこともできない。その様子に苛立ったシルヴィオは人差し指でトントンとテーブルを叩いて催促をした。これは言わないと帰してもらえないと、クリスは何重にもオブラートに包んで話すことにする。

「その……王族だったことを含めて、色々エリーには隠しているから……どうやって話そうかと」

「お前、昔から裏で工作するの好きだったもんな」

「工作って……人聞きの悪い」

 それではまるでスパイのようだ。だが、やってきたことはあながち間違いでもない。

「その隠し事は話さないといけないことなのか?」

「……話せる範囲のものを隠しているのは、嘘をついているようで心苦しい」

 話せないものは一生話すつもりはない。ただ、自分もエリーナと同じくゲーム世界を渡り歩いていたことは伝えたかった。ずっと側にいたと、一人ではなかったと言いたいのだ。

「話せることなら、なんで今まで隠してたんだよ」

「エリーの選択の邪魔になると思って……」

 その返答にシルヴィオは深々と溜息をついて、うんざりした表情を浮かべる。

「ラルフレアで会った時も思ったけど、お前はエリーナを甘く見てないか? あの子はお前が世話を焼かなくても自分で生きていけるだろ。それを過保護に……」

「そういうことじゃない!」

 クリスが声を荒げたので、シルヴィオは少し驚いて表情に戸惑いを浮かべる。常に冷静で飄々としたクリスが感情的になることは珍しい。

「ただ、助けになりたいだけなんだ。少し、甘やかしてしまうけど」

 少しかとシルヴィオは思ったが、刺激したくないので口には出さない。クリスは浮かない顔で視線を落としている。

「まぁ、あの子なら隠し事も受けいれてくれるだろ。さっさと話してしまえばいい」

「受け入れてくれたらいいけど、黙ってたことを軽蔑されないかと思って……」

 うだうだとした態度に、これは堂々巡りになるとシルヴィオは見切りをつける。

「なら、エリーナをよく知る人にも相談してみればいい。サリーとかリズとか、いろいろいるだろ」

 具体的な助言に、クリスは表情を和らげてシルヴィオに視線を向けた。

「そう……だね。ありがと、サリーにそれとなく話をしてみるよ」

 クリスは何度か頷くとフォークを手に取ってケーキを再び食べ始める。少しだけ兄を慕う弟の顔をしたクリスを見て、シルヴィオは常にそうだったら可愛いのにと苦笑いを浮かべるのだった。
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