悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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アスタリア王国編

186 愛する人と共に歩みましょう

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 ベロニカの結婚披露宴が終わり、エリーナはローゼンディアナ家に帰って来た。出迎えてくれたリズが、うずうずと話を聞きたそうにしているので後でたっぷり話すつもりだ。だがその前に、クリスに書斎へ呼ばれているので、リズにドレスと髪を整えてもらって書斎に向かう。
 軽くノックしてから入れば、懐かしさに襲われた。蝋燭の灯りで照らされた書斎には、色々な思い出がある。クリスと出会い、クリスに想いを伝えたのもここだった。

「エリー、疲れてない?」

 応接用のソファーで休んでいたクリスは立ち上がって歩み寄り、そう気遣ってくれる。やわらかい明かりを返している紅い髪は艶めいて美しく、金色の瞳はいつだって温かくエリーナだけを映していた。

「大丈夫よ。興奮して元気なくらい」
 
 そう言ってから、エリーナはぐるりと部屋を見回した。

「ここに立っていると、クリスと初めて会った時のことを思い出すわ。弟だと思っていたから、すごくびっくりした」

 クリスはくすくすと小さく笑い、懐かしそうに目を細めてエリーナの前に立つ。

「目が飛び出るくらい開いてたよね。……僕は、やっと会えて泣きそうになってた。抱きしめないようにするので、必死だったかな」

 クリスはエリーナの頭を撫で、髪をすくって滑らせる。触れてもらえるのが嬉しくて、エリーナはその温かさに目を閉じた。

「エリーがシナリオを知らなくて、悪役令嬢を目指したのは予想外だったけど、エリーらしいと思った」

「言ってくれればよかったのに」

 少し呆れた表情を向ければ、クリスは深い愛情がこもった瞳を向けている。

「僕は、エリーにこの世界で生きて欲しかったからね。僕の勝手な想いだったけど」

 お互いの秘密を打ち明けた時にも聞いた想い。その献身に胸が熱くなった。

「クリスには本当に感謝しているわ」

「僕もだよ。エリーは僕に希望をくれて、救ってくれたから」

 重いクリスの愛も、エリーナには心地よい。悪役令嬢時代を含めて全てを受け入れ、愛してくれることは途方もなく嬉しく、幸せな思いになる。

(だから……これからもずっと、一緒にいたい)

 もう次の悪役令嬢は無い。ここで温かな友達と、最愛のクリスと共に生きていける。その嬉しさと愛しさが胸で弾けて、それを言葉にしようと口を開きかけた時、クリスが動いた。

「エリー」

 片膝をつき、エリーナを真剣な瞳で見つめる。その表情だけでエリーナの鼓動は早くなった。惹きこまれる美しさがある。

「僕は一生、エリーの側を離れない。どんな障害も困難も打ち勝ってみせる。もう、エリーに悲しい想いをさせない」

 そこで一息つき、クリスはエリーナに右手を指し伸ばした。その動作はアスタリアのロマンス小説や劇でお馴染みのもの。期待と驚きが胸に広がる。

「クリス・ディン・アスタリアはエリーナ・フォン・ラルフレアへの愛を告白し、一生側に寄り添い守り、幸せにすると誓う。エリー、僕と結婚し、一生側にいてくれませんか」

 それはアスタリアの伝統的な愛の告白だった。交際や結婚を申し込む時に行われ、令嬢たちの憧れである。当然エリーナもそのシーンに胸をときめかせた一人であり、感動が押し寄せ涙が込み上げてきた。真摯なクリスの表情に、今日見たばかりの幸せな二人の姿が重なる。
 次はエリーナの番。ベロニカの言葉に背中を押された気がした。エリーナは涙を拭って、強気な瞳をクリスに向ける。

「わたくしはプロの悪役令嬢よ? 一度手に入れたら、絶対離さないんだから」

 悪役令嬢は常に、好きになった相手だけを見ていた。エリーナの想いだって負けていない。 

「僕だって同じだよ。絶対に離してあげない。エリーを愛しているから」

 愛している。

 その言葉をクリスは惜しげもなく、エリーナにかけてくれる。甘く温かな言葉に、とろけてしまいそうだ。
 エリーナは静かに深呼吸をして、真剣な表情でクリスを見つめ返す。ずっと側で見守ってくれた、大切で愛しい人。誰よりも、自分を分かってくれる人。だから、胸に溢れる想いを伝えたい。

「クリス。わたくしも愛しているわ。この世の中で一番、貴方を愛している」

 涙交じりの笑顔を浮かべ、愛する人の手を取る。この先、一生つないでいられるように。

「エリー、ありがとう!」

 そして手を取った瞬間、立ち上がったクリスに抱きすくめられ、心臓が跳ねる。

「あぁどうしよう。嬉しすぎてこのまま閉じ込めたい」

「ちょっと、愛が過激よ……」

 だがそんな独占欲が嫌ではない。服越しに伝わるぬくもりに、ますます愛しさが増していく。クリスの温かさと大きさを感じていると、頭を撫でられ指が頬を滑った。顎に手をかけられ、上を向かされたと思えば目の前にクリスの扇情的な顔が迫っていた。

(クリス……)

 初めに感じたのは柔らかさ。そして熱。口づけされたと理解した時には、耳まで赤くなっていた。背中に手が回り、頬に手が添えられる。何度もついばむようにキスをされ、幸せが血液に乗って体中をかけめぐった。

(なんて……幸せなんだろう)

 そっと離れた唇に寂しさを感じ、クリスと目を合わせれば困ったように笑われた。

「そんな顔をしないで。今手を出すと、ベロニカ様から結婚の許しが出ないから」

 そう言って名残惜しそうにクリスは体を離し、代わりに頭を撫でた。その言葉にエリーナはますます顔を赤くする。

「クリス……ずるい」

 モブのくせにと心の中でなじる。クリスに翻弄されるのがなんだか悔しい。拗ねた表情を見せるエリーナはますます可愛く、クリスは愛おしそうに微笑むのだった。

 そしてお別れの挨拶としてクリスから頬にキスをもらい、自室に帰ったエリーナは湯あみを終え、待ち構えていたリズと結婚式について話す。
 その後先ほどクリスにプロポーズされたことを伝えれば、リズは目を真ん丸にした後、涙を流して抱き着いてきた。「さすがクリス様!」と体を跳ねて喜んでいる。喜んでくれる友人の姿に、エリーナもたまらなく嬉しくなった。
 当然一瞬で広まり、翌日は旧ローゼンディアナ家の使用人たち全員で、祝宴が開かれたのである。


 その後正式に婚約が結ばれ、一年後に結婚式が両国で盛大に行われた。二人は結婚後、王都に近い領地に移り住み、酪農に力を入れてプリンを名産にする。領地はエリーナの愛称からプリン領と呼ばれるようになり、長く愛されるのである。

 こうして、数多くの乙女ゲームを渡り歩いたプロの悪役令嬢と、モブキャラの物語はここで幸せな結末を迎えるのだった。


Fin
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みんなの感想(11件)

なるし温泉卿

167のクリスとエリーナがお互いに踏み込めない様子が面白くてが好きです(笑)いや、真剣なんだろうけど(笑)そりゃリズもやきもきしますよ。
そして、逃げの口上すらプリンなエリーナが愛おしいです。

2021.06.02 幸路ことは

ね~。じれったくてもどかしいんですよ。口に出してしまえばすぐ終わるのに、それが難しいんですよね。エリーナはプリン姫ですから。ゆるぎません!

解除
なるし温泉卿

127話〜130話は何度読んでも胸が熱くなります(≧∀≦)

2021.06.02 幸路ことは

Σ(゚Д゚) き、気づきませんでした。ひえぇぇ。申し訳ございません!

クライマックスのシーンは、書いていて熱くなったところですね。やっとここまで来たって思ってました。

解除
ももんが38
2021.03.02 ももんが38

お久しぶりです。もう完結したと思っていたこのお話の続編が始まって嬉しい限りです❗このサイトのお知らせにタイトルを見た時は「えっ?!書籍化のお知らせ?」とか声に出てしまいました(笑)読んでてスゴくワクワクして一気に読みきりました。ああ、幸せ💕何か新しいキャラクターも登場して舞台を新たにどんな展開が待っているか今から楽しみで仕方がありません。お身体に気を付けて頑張って下さいませ。更新を楽しみに待ってます。追伸、私としては書籍化するなら鳳凰マークのマメ文庫とか良いなぁとか妄想してます(笑)スミマセン

2021.03.03 幸路ことは

うわぁぁぁΣ(゚Д゚) こちらこそすみません! 更新作業止めててすみませんでしたぁぁ(ノД`)・゜・。
そのお言葉で頑張ります。一気読みだなんて、心からありがたいです。そしてなんだかぬか喜びをさせてしまいました……。
ももんがさんもお体に気を付けてくださいね! 

解除

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