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11 お菓子を食べながら噂話を聞きます
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鈴花が自分の宮である景雲宮に戻ると、臥室には服装をもとに戻した春明がいた。日は落ちかかっていて、瑠璃がはまった窓からは夕日が差し込んでいる。卓に向かって何か書き物をしており、そっと忍び足で入って来た鈴花に気づくと大げさに溜息をついた。
「おかえりなさいませ……」
「寝てたらよかったのに」
部屋の奥にある臥牀に視線を向けると、衾褥が盛り上がっていて、寝ているようには見せかけてくれたらしい。
「暇すぎて腐ります……それに、郭昭様がいらっしゃって、お話を聞いてましたので」
春明は筆を置くと、立ち上がって「お茶の用意をしてきます」と朱塗りの木戸を開けて出ていった。
(うわ~、郭昭様来たんだ。いなくてよかった~)
受けることにはしたが、それでも心づもりはいる。鈴花はさっそくお土産を食べようと、臥室を出て、堂室に置いてある卓子にお土産を置いた。待ちきれないと竹皮の包みを開け、麻花を一つ口にいれた。小麦粉の生地を捻って油で揚げたお菓子で、砂糖がまぶされているため甘くてカリカリしている。
(手が油っぽくなるのが嫌だけど、止められないのよね~)
鈴花が顎を使って咀嚼していると、春明が茶器をお盆の上に乗せて運んできた。すでにつまみ食いをしている鈴花を見つけて、目頭を立てる。
「鈴花様……夕餉はいらないということですか?」
「ち、違うわよ。ちょっと毒見を」
「玄妃様が毒見をしてどうするのですか」
春明は盆を卓子に置き、茶を茶杯に注ぐ。鈴花は「どうぞ」と竹の包みを押しやって、春明にも座るように勧めた。一緒に食べるつもりだろうが、一応主人としての立場もある。
春明は軽く礼をしてから椅子に座り、麻花に手を伸ばした。これは春明の大好物で、有名店のものを買ってきたのだ。
「それで、郭昭様は早く返事をしろって?」
「あ、いえ。返事を伺いに来たようでしたが、体調を崩していると伝えるとただ愚痴をこぼしていかれましたね」
「しっかり情報収集をしたのね」
噂話が大好きな春明の得技だ。相手の気持ちによりそい、肯定し、気持ちよく情報を出させる。くだらない不満や愚痴が多いが、ぽろりと重要事項が漏れることもある。
「はい。どうも、右丞相と左丞相の対立が激化しつつあるようで、官の中で派閥ができてきたそうですよ。双方皇帝を見つけようと躍起になっているようで、あぁ、軍部の方も積極的に動いてるらしいです。なんでも、皇帝を見つけたら上の役職につけるのではないかと、噂が流れていて……」
カリカリと、麻花を口に入れながら春明は戦果を話す。皇帝がいなくなって一週間で朝廷は坂を転げ落ちるように不安定になっていた。予想よりも早い事態の悪化に、鈴花は眉根を寄せる。
「あと、一部では皇帝の生存は絶望的と、市井にいると噂される先帝のご落胤を探す輩も出始めたとか」
これには開いた口が塞がらない。
「国に尽くす官としての誇りはないの?」
「どうせ、皇帝に就けてあわよくば権力を得ようとしてるんですよ」
「嘆かわしい……。そんな、先帝のご落胤かなんて確かめようがないのに。どこに証拠があるのよ」
鈴花は額に手を当て溜息をつく。そんなもの雲を掴むような話だ。しかも身元が不確かなものを皇帝とすれば、神聖性は薄れ国は崩れていく。意義ありとして反乱の種火にしかならないだろう。
「まぁ……容姿さえ似ていれば、母君の証言か恋文かでしょうか」
「それならまだ、そこらへんの男に仮面をつけて皇帝を偽ったほうが簡単よ。声だけ似てたらいいんだか……ら」
脳内に稲妻が走った。思いついたその策が可能かどうか頭を回転させて考えていく。突然黙り込んだ鈴花を、春明は怪訝そうに見ていた。
(皇帝は素顔を誰にも見せていないのよね。判断するのは髪色と声、立ち居振る舞い、知識と記憶……。記憶は最悪、襲われた時に頭でも打って忘れたことにすればいいわ)
皇帝の特徴、玄家の幅広い事業、鈴花が身に着けてきたもの、そしてあの男がつながり道ができていく。
「春明」
「どうしました?」
鈴花は瞳に力をこめて春明を見つめた。この計画には春明の協力が不可欠となる。それに下手すれば反逆罪に問われかねず、成功する保証は微塵もない。
(それでも、国のために、あの皇帝のために何かがしたいのよ)
どうしてここまで突き動かされるのかは鈴花自身も分からない。
(最初に会った時に、決めたんだから)
鈴花は静かに息を吸うと言い放った。
「皇帝の身代わりを仕立て上げるわ」
「おかえりなさいませ……」
「寝てたらよかったのに」
部屋の奥にある臥牀に視線を向けると、衾褥が盛り上がっていて、寝ているようには見せかけてくれたらしい。
「暇すぎて腐ります……それに、郭昭様がいらっしゃって、お話を聞いてましたので」
春明は筆を置くと、立ち上がって「お茶の用意をしてきます」と朱塗りの木戸を開けて出ていった。
(うわ~、郭昭様来たんだ。いなくてよかった~)
受けることにはしたが、それでも心づもりはいる。鈴花はさっそくお土産を食べようと、臥室を出て、堂室に置いてある卓子にお土産を置いた。待ちきれないと竹皮の包みを開け、麻花を一つ口にいれた。小麦粉の生地を捻って油で揚げたお菓子で、砂糖がまぶされているため甘くてカリカリしている。
(手が油っぽくなるのが嫌だけど、止められないのよね~)
鈴花が顎を使って咀嚼していると、春明が茶器をお盆の上に乗せて運んできた。すでにつまみ食いをしている鈴花を見つけて、目頭を立てる。
「鈴花様……夕餉はいらないということですか?」
「ち、違うわよ。ちょっと毒見を」
「玄妃様が毒見をしてどうするのですか」
春明は盆を卓子に置き、茶を茶杯に注ぐ。鈴花は「どうぞ」と竹の包みを押しやって、春明にも座るように勧めた。一緒に食べるつもりだろうが、一応主人としての立場もある。
春明は軽く礼をしてから椅子に座り、麻花に手を伸ばした。これは春明の大好物で、有名店のものを買ってきたのだ。
「それで、郭昭様は早く返事をしろって?」
「あ、いえ。返事を伺いに来たようでしたが、体調を崩していると伝えるとただ愚痴をこぼしていかれましたね」
「しっかり情報収集をしたのね」
噂話が大好きな春明の得技だ。相手の気持ちによりそい、肯定し、気持ちよく情報を出させる。くだらない不満や愚痴が多いが、ぽろりと重要事項が漏れることもある。
「はい。どうも、右丞相と左丞相の対立が激化しつつあるようで、官の中で派閥ができてきたそうですよ。双方皇帝を見つけようと躍起になっているようで、あぁ、軍部の方も積極的に動いてるらしいです。なんでも、皇帝を見つけたら上の役職につけるのではないかと、噂が流れていて……」
カリカリと、麻花を口に入れながら春明は戦果を話す。皇帝がいなくなって一週間で朝廷は坂を転げ落ちるように不安定になっていた。予想よりも早い事態の悪化に、鈴花は眉根を寄せる。
「あと、一部では皇帝の生存は絶望的と、市井にいると噂される先帝のご落胤を探す輩も出始めたとか」
これには開いた口が塞がらない。
「国に尽くす官としての誇りはないの?」
「どうせ、皇帝に就けてあわよくば権力を得ようとしてるんですよ」
「嘆かわしい……。そんな、先帝のご落胤かなんて確かめようがないのに。どこに証拠があるのよ」
鈴花は額に手を当て溜息をつく。そんなもの雲を掴むような話だ。しかも身元が不確かなものを皇帝とすれば、神聖性は薄れ国は崩れていく。意義ありとして反乱の種火にしかならないだろう。
「まぁ……容姿さえ似ていれば、母君の証言か恋文かでしょうか」
「それならまだ、そこらへんの男に仮面をつけて皇帝を偽ったほうが簡単よ。声だけ似てたらいいんだか……ら」
脳内に稲妻が走った。思いついたその策が可能かどうか頭を回転させて考えていく。突然黙り込んだ鈴花を、春明は怪訝そうに見ていた。
(皇帝は素顔を誰にも見せていないのよね。判断するのは髪色と声、立ち居振る舞い、知識と記憶……。記憶は最悪、襲われた時に頭でも打って忘れたことにすればいいわ)
皇帝の特徴、玄家の幅広い事業、鈴花が身に着けてきたもの、そしてあの男がつながり道ができていく。
「春明」
「どうしました?」
鈴花は瞳に力をこめて春明を見つめた。この計画には春明の協力が不可欠となる。それに下手すれば反逆罪に問われかねず、成功する保証は微塵もない。
(それでも、国のために、あの皇帝のために何かがしたいのよ)
どうしてここまで突き動かされるのかは鈴花自身も分からない。
(最初に会った時に、決めたんだから)
鈴花は静かに息を吸うと言い放った。
「皇帝の身代わりを仕立て上げるわ」
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