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39 春明の報告を聞きつつ考えます
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鈴花が目を覚ました頃にはすでに昼前で、固まった体を伸ばして解せば、多少睡眠不足が解消された気はする。遅めの朝餉を食べ終え、鈴花は春明から報告を受けていた。春明は夜中に起きていたにも関わらず早朝から活動をしたようで、あの後の動きについて教えてくれる。
「宮女や下女たちは大事をとって医官に診せ、半日休みとしました。宵はまだ寝ていますので、休暇の届を出してあります。それと、本日の予定だった上級妃様との飲茶は、早朝に二人から文と後日でいいとの旨を受け取っております。後、玄家からの応援はそろそろ来るころです」
鈴花は白湯を飲みつつ「ありがとう」と春明を労う。
「それと、昨日の賊についてですが、武官たちも北方の山間部賊で間違いないだろうと言っていました」
「まぁ、分かりやすい風貌をしているものね」
鳳蓮国の北端は岩山が続き、海沿いは切り立った岸壁となっている。山自体はそれほど高くないものの岩だらけであり、狩猟に頼って生きていかざるえない場所だ。また胡国の血が入っているため、青い目や緑の目をし、屈強な体つきの者が多いのが特徴だ。
「朝廷から使者を立て、部族の長に問いただすつもりのようですが、北方まで行くのに一週間はかかりますので、審議までに事実が判明する望みは薄いですね」
「どうせ、別れた部族だとか、総意ではないとか言うわよ」
鳳蓮国の国境沿いには文化や慣習が異なる民族が多数住んでいる。その昔は領土を巡って戦を繰り返していたが、鳳蓮国ができると同時にそれらの部族と協定を結んでいた。朝廷側はある程度民族の自治を認める代わりに、有事には戦力を提供してもらうというものだ。
そのため今回のように朝廷に敵対する行動を取れば、協定違反として攻められても仕方が無くなる。そんな無益なことはしないはずだが、鈴花は昨日首領が言っていた言葉が引っかかる。
「悲願って、何を指すのかしらね。民族についてはあまり詳しくないけれど、金で動くような人たちには見えなかったわ。……雇い主は、彼らのことをよく知っているか、信頼をされているかよね」
「暗殺が成功しても失敗しても死ぬつもりだったのですから、相当の覚悟だったのでしょう」
「洗脳されているようにも見えなかったし」
薬や人を極限状態に置くことで、意のままに操ることはできなくはない。だがその場合はどこか夢現になったり、過激になったりと違和感が生じる。それに洗脳には偶像物を使うことが多いが、彼らは何かを崇めている様子もなかった。それが逆に恐ろしい。
「あれほど信頼されるような一団を作るのは、一朝一夕にはできません。それこそ年単位で必要でしょう」
春明の指摘に鈴花は顔を曇らせる。周到な計画の上に実行されているのでと思うと、首元に鎌をかけられているような気になってくる。
(一体、どこからが敵の策なのかしら……)
一連の事件の始まりは間違いなく、皇帝の襲撃だ。だが、計画はそれより前から長きにわたって練られていたとすれば、必ず布石はあったはず。それを掴むためにも、使えるものは全て使わなくてはならない。
鈴花は深く息を吸うと、ゆっくり吐き出した。
「そうね。私も昨日のことで向こうが本気だということが分かったから、打てる手は先に打とうと思うわ」
鈴花は茶杯の縁を指でなぞり、白湯の向こうに見える模様に目を落とす。
「お父様にこちらが掴んでいる情報を出して、その上で陛下について訊こうと思うの。もし父が敵側でも牽制くらいにはなるでしょうし」
「そうですね……」
淡々と先を見通そうとしながら話す鈴花に対し、春明は眉根を下げて悲し気な表情を作る。
「当主様の教えとはいえ、もう少しご家族を信じてもよろしいのでは?」
「だって、あらゆる可能性を考えて、一度全てを疑えって言われているのだもの。家族だからって最初から信じたら、逆にまだ甘いって怒られるわ」
鈴花は父親に捜索状況の情報を教えてもらったり、調査をお願いしたりしたが、その際こちらが持つ情報の全てを明らかにしたわけではない。だが春明が父親に会った時の話や、文でのやりとり、また昨日の賊を見て皇帝を襲った側ではないとは思っている。
「それにこれは勘だけど……何かを企んでいるような気はするのよ。そうじゃなきゃ父は今頃玄家の者を総動員して、鳳蓮国のために皇帝を見つけ出そうとしているはずだもの」
応援が駆けつけるのも早いということは、余分な戦力を邸舎に残しているということだ。
「後、兄のこととか、わざと私に情報を教えていない気もするし……。こういうこと、前にもあったのよ。なんだと思う?」
そう促された春明は、すぐに「あぁ」と思い当たった表情になって困ったように溜息をついた。
「私と鈴花様で問題を解決しろと、海向こうの国の間者を炙り出した時ですね……つまり、試されていると?」
「そう。結局、可能性としては二つなのよ。国家転覆を狙うような企みをしているか、私を試しているか……後者であってほしいわね」
鈴花は白湯を飲み干すと、茶杯を静かに置いた。春明は思案顔になりながら、後片付けをしていく。
「もう少し精密な情報を得つつ、一度状況を整理しないといけませんね」
「えぇ。まだ何か見落としているかもしれないし、何よりまだ敵が思い描いている物語が読めないもの。今日の流れた飲茶は明日にしてもらうから、二人からも情報を引き出してくるわ」
「そうですね。ぜひ協力してもらいたい方々ですから」
そして鈴花は襲撃を免れた書房に移り筆を取る。陽泉と潤へ無事と気遣いへの感謝を綴った文を出し、父には一連の事件に関する個人的な見解を記して送った。早ければ明日にでも返事が来るだろう。
三通の文を書き終えた頃には、鈴花は疲労を感じて書几に突っ伏していた。直接会話ができるなら、その場に応じて補ったりかみ砕いたりもできるが、文だとそうもいかない。誤解を生じないように、細心の注意を払って書けば疲れもする。
「鈴花様、院子の枝垂桜が一輪花を咲かせておりましたよ。少し外の空気を吸っていらしたらどうですか?」
「……そうね。少し歩いてくるわ」
春明に促されて房室の外へと出れば、すっかり春の陽気になっていて陽だまりは暖かそうだ。今日は格別に暖かい日らしい。
(日向ぼっこするのもいいわね)
そんなことを考えながら回廊を進んでいく。そして院子へと降りようとした時、突然聞こえた羽音に、鈴花は驚いて顔を向けた。
「宮女や下女たちは大事をとって医官に診せ、半日休みとしました。宵はまだ寝ていますので、休暇の届を出してあります。それと、本日の予定だった上級妃様との飲茶は、早朝に二人から文と後日でいいとの旨を受け取っております。後、玄家からの応援はそろそろ来るころです」
鈴花は白湯を飲みつつ「ありがとう」と春明を労う。
「それと、昨日の賊についてですが、武官たちも北方の山間部賊で間違いないだろうと言っていました」
「まぁ、分かりやすい風貌をしているものね」
鳳蓮国の北端は岩山が続き、海沿いは切り立った岸壁となっている。山自体はそれほど高くないものの岩だらけであり、狩猟に頼って生きていかざるえない場所だ。また胡国の血が入っているため、青い目や緑の目をし、屈強な体つきの者が多いのが特徴だ。
「朝廷から使者を立て、部族の長に問いただすつもりのようですが、北方まで行くのに一週間はかかりますので、審議までに事実が判明する望みは薄いですね」
「どうせ、別れた部族だとか、総意ではないとか言うわよ」
鳳蓮国の国境沿いには文化や慣習が異なる民族が多数住んでいる。その昔は領土を巡って戦を繰り返していたが、鳳蓮国ができると同時にそれらの部族と協定を結んでいた。朝廷側はある程度民族の自治を認める代わりに、有事には戦力を提供してもらうというものだ。
そのため今回のように朝廷に敵対する行動を取れば、協定違反として攻められても仕方が無くなる。そんな無益なことはしないはずだが、鈴花は昨日首領が言っていた言葉が引っかかる。
「悲願って、何を指すのかしらね。民族についてはあまり詳しくないけれど、金で動くような人たちには見えなかったわ。……雇い主は、彼らのことをよく知っているか、信頼をされているかよね」
「暗殺が成功しても失敗しても死ぬつもりだったのですから、相当の覚悟だったのでしょう」
「洗脳されているようにも見えなかったし」
薬や人を極限状態に置くことで、意のままに操ることはできなくはない。だがその場合はどこか夢現になったり、過激になったりと違和感が生じる。それに洗脳には偶像物を使うことが多いが、彼らは何かを崇めている様子もなかった。それが逆に恐ろしい。
「あれほど信頼されるような一団を作るのは、一朝一夕にはできません。それこそ年単位で必要でしょう」
春明の指摘に鈴花は顔を曇らせる。周到な計画の上に実行されているのでと思うと、首元に鎌をかけられているような気になってくる。
(一体、どこからが敵の策なのかしら……)
一連の事件の始まりは間違いなく、皇帝の襲撃だ。だが、計画はそれより前から長きにわたって練られていたとすれば、必ず布石はあったはず。それを掴むためにも、使えるものは全て使わなくてはならない。
鈴花は深く息を吸うと、ゆっくり吐き出した。
「そうね。私も昨日のことで向こうが本気だということが分かったから、打てる手は先に打とうと思うわ」
鈴花は茶杯の縁を指でなぞり、白湯の向こうに見える模様に目を落とす。
「お父様にこちらが掴んでいる情報を出して、その上で陛下について訊こうと思うの。もし父が敵側でも牽制くらいにはなるでしょうし」
「そうですね……」
淡々と先を見通そうとしながら話す鈴花に対し、春明は眉根を下げて悲し気な表情を作る。
「当主様の教えとはいえ、もう少しご家族を信じてもよろしいのでは?」
「だって、あらゆる可能性を考えて、一度全てを疑えって言われているのだもの。家族だからって最初から信じたら、逆にまだ甘いって怒られるわ」
鈴花は父親に捜索状況の情報を教えてもらったり、調査をお願いしたりしたが、その際こちらが持つ情報の全てを明らかにしたわけではない。だが春明が父親に会った時の話や、文でのやりとり、また昨日の賊を見て皇帝を襲った側ではないとは思っている。
「それにこれは勘だけど……何かを企んでいるような気はするのよ。そうじゃなきゃ父は今頃玄家の者を総動員して、鳳蓮国のために皇帝を見つけ出そうとしているはずだもの」
応援が駆けつけるのも早いということは、余分な戦力を邸舎に残しているということだ。
「後、兄のこととか、わざと私に情報を教えていない気もするし……。こういうこと、前にもあったのよ。なんだと思う?」
そう促された春明は、すぐに「あぁ」と思い当たった表情になって困ったように溜息をついた。
「私と鈴花様で問題を解決しろと、海向こうの国の間者を炙り出した時ですね……つまり、試されていると?」
「そう。結局、可能性としては二つなのよ。国家転覆を狙うような企みをしているか、私を試しているか……後者であってほしいわね」
鈴花は白湯を飲み干すと、茶杯を静かに置いた。春明は思案顔になりながら、後片付けをしていく。
「もう少し精密な情報を得つつ、一度状況を整理しないといけませんね」
「えぇ。まだ何か見落としているかもしれないし、何よりまだ敵が思い描いている物語が読めないもの。今日の流れた飲茶は明日にしてもらうから、二人からも情報を引き出してくるわ」
「そうですね。ぜひ協力してもらいたい方々ですから」
そして鈴花は襲撃を免れた書房に移り筆を取る。陽泉と潤へ無事と気遣いへの感謝を綴った文を出し、父には一連の事件に関する個人的な見解を記して送った。早ければ明日にでも返事が来るだろう。
三通の文を書き終えた頃には、鈴花は疲労を感じて書几に突っ伏していた。直接会話ができるなら、その場に応じて補ったりかみ砕いたりもできるが、文だとそうもいかない。誤解を生じないように、細心の注意を払って書けば疲れもする。
「鈴花様、院子の枝垂桜が一輪花を咲かせておりましたよ。少し外の空気を吸っていらしたらどうですか?」
「……そうね。少し歩いてくるわ」
春明に促されて房室の外へと出れば、すっかり春の陽気になっていて陽だまりは暖かそうだ。今日は格別に暖かい日らしい。
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